4話 男の子に間違えられない方法は?
昨日、散々行く先々で男の子に間違われた理緒は、香苗に相談するべく、リビングへ向かった。
「ねぇ、お母さんちょっといい?」
「どうしたの?」
香苗は、読んでいた雑誌をソファ前のローテーブルへ置き、顔あげる。
香苗は、理緒の声の調子で何か察したのかいつもののらりくらりとした様子を見せず、
真剣に話を聴こうとしてるようだ。
理緒は、香苗の側にペタンと座り、話を切り出した。
「ねぇお母さん、男の子に間違われないようにするにはどうしたらいいと思う?」
「自分で考えて」
「そんな〜」
「冗談よ。理緒ちゃん。ちょっと、待ってね」
香苗は、リビングから一旦出ていくと、一冊のアルバムを持って戻ってきた。
そしてパラパラとアルバムを捲り始めた。
―――おれの悩みとどう関係するのかな?
まあお母さんの事だからどうせ変な答えを返すだろうな。
とかさりげなく失礼な事を理緒は考えていた。
「えーと、あった。ねぇ理緒ちゃん、これ誰だと思う?」
香苗が、見せた一枚の写真には、今の理緒と同じ年頃の男の子と思われる人物が、写っていた。
「お兄ちゃんかな?」
理緒の答えに香苗は、首を降って否定する。
「違うわ、今の理緒ちゃんと同じくらいの私よ」
意外な返答だった。理緒は、びっくりして声が出ない。目の前の香苗は、揺るやかにウェーブした髪の毛。いつものピンクの可愛いワンピース。一方写真の子は、短髪と差し支えない黒髪に、ダボっとしたTシャツに短パン姿。顔は、現在の拓人より幼い感じもするが、どう見ても、中学生か小学5、6年の少年だ。
「えーだって、男の子みたいだよ。服装とか髪も今よりずっと短いし」
「信じられないかも知れないけど、正真正銘私よ」
そう言われて、理緒は、写真と目の前の香苗を見比べる。
よくよく見ると、今と顔立ちは変わらない。けれど、髪と服装で、男の子にしか見えない。
「 この頃の私ね、人に、癖毛を見られるのが凄く嫌でね。髪を短く切ってたの。だけど、顔はどっちかというと、男顔だから男の子に間違われる。だから、髪を伸ばそって思うけれど、いざ髪が、伸びて癖毛が自分の視界に入るとね、やっぱり、癖毛が気になるから、短く切ってしまう。それで後悔するの繰り返しだったな」
昔を思い出しながら、しみじみと語る香苗とアルバムの写真を見比べて、理緒は
「 でも、服は?可愛い服着ればよかったんじゃ」
「 そう思うでしょ?私も、何度か可愛い服を着ようとしたわよ。でもね。ホントにそういう服が、似合わなかったのよね。だから思いきって髪の毛伸ばしたのよ」
「そうなんだ。じゃ、おれも無理?」
理緒は、しょんぼりして言った。
「理緒ちゃんは、大丈夫じゃないかな。男顔じゃないし、昨日は、お兄ちゃんのお下がり着て、キャスケット被ってたわよね。服装とか気を配ればいいんじゃない ?」
「なるほど」
「そうねぇ。少し髪を伸ばすのもありよ」
「 お母さん、伸ばすのどのくらいかかった?」
せいぜい、3ヶ月あれば伸びるかなーと呑気な予測をしていたが、理緒の予測は、あっさりと裏切られた。
「そうね。肩超す長さまで伸ばしたけど、1年はかかったわねー」
「うぇーそんなに、時間かかるの?」
思わず苦い顔で言ってしまった。
「しょうがないでしょ。ショートカットからホントに伸ばすの大変なんだから、理緒ちゃんは、どうするの?」
香苗にじっと見つめられて、一瞬迷ったけど。
「うーん。伸ばすよ。せめて帽子被っていても男の子に間違えられないくらいにはなりたいな」
「あっそう。この際だから、髪の毛伸ばす以外もチャレンジしてみたら?」
と香苗は、ニマニマっとしながら言うが、理緒が本格的に自分改造に取り組み出すのは、もう少し先の話だ。
香苗の体験は、私の体験です。小5から中2くらいまで、男の子に間違えられてました。