謎の少年
謎の少年
それは、あの日空から舞い降り助けてくれた人
何も聞かず何も求めず、ただ私たちを守るため最前線に立った人
「そうですね、彼がいれば不測の事態に対処できるかも知れません」
「情けない話、私の近衛隊が手も足も出なかった敵を、あっという間に全滅させましたから」
カレット少将の言葉を王女ミシェルが続ける
「しかし、魔道士様の年齢が・・・12歳と伺いました」
「12歳か本当に子供だったのだな・・・ン?、どうしたのかね、ルミナ准将」
一人考え込んでいた、ルミナに国王が声をかける
「いえ、実は魔法学校の方で昨日私は行けなかったのですが今期、第一回目の授業がありました
新入生つまり初等科Aクラスの中で一人・・・」
「何だね、どうかしたのかね?」
公爵に尋ねられ、困ったように続ける
「授業で最初に行うのは生徒の魔法特製を見る事とその特性を生かした試技の披露なのですが
そこで、一人の少年が・・・実習室の壁を跡形なく吹き飛ばしたと・・」
「最初の試技で壁を吹き飛ばした」
「まさか、まさか、その少年というのは・・」
ミシェルが立ち上がり、まくし立てるように言う
「ミシェル落ち着きなさい」
ミレイユに手を握られ恥ずかしそうに席に戻る
「失礼しました」
コホン、びっくりしたのかテルミナが咳払いをして話を戻す
「Aクラスの担任の話では少年のスフィアが授業開始時からエメラルド色に光っていたと
さらに、実習室の壁を吹き飛ばしたときは金色に輝いたそうです」
「エメラルドスフィア・・・伝説の」
国王のつぶやきを、かき消すようにミシェルが大きな声になる
「確か昨日瀕死のステイシー達を一瞬で蘇らせた時、誰かが金色に・・光ったと」
「ルミナ准将、その方のお名前はご存じなのですか?」
「はい、ミレイユ様・・彼の名前はミト、ミト・ハンジェリンです」
「ハンジェリン?ハンジェリンだと」
反応したのは国王だった
「そうです国王、彼の母親はフラン・スフィア・ハンジェリン
王国魔法師団初代師団長です」
「確か魔法師団が出来たのは20年前第一次バラン帝国との戦いの時だったと思いましたが」
「ハイ、その通です資料によると、若干13歳で師団長に就任したと」
「13歳?で師団長、階級はまさか?」
「入団されたときは特務士官、その後半年で准将に昇格しています」
「半年で准将・・・・・」
「それだけ、彼女の魔法はもの凄かったのだよ、彼女が師団を除隊するまでの2年間に彼女の
こなした作戦は最大の成果を上げ、名誉勲章を始め第一種高等勲章と
数えたらきりがないよ・・・」
「それだけの素晴らしい成果を上げた方が何故、たった2年で除隊されたのですか?」
国王も公爵も暗く俯く
「何かあったのですか?」
「ミレイユ様、除隊理由については国家最高機密扱いになっています」
「いや・・・かまわん、私から話す、今は国家の非常事態だ」
国王はルミナを手で制し話し始める
「あの日、緊急連絡が入電された、山麓にある町が魔物の集団に襲われたと・・
すぐに、フラン率いる第一部隊が現地に向かったのだが、その途中数度の妨害があり部隊は分断され
町に着いた時にはフランと副官の二人だけだった・・そこで彼女たちが見たものは
霧に包まれ苦しみながら魔獣に変わっていく町の人たちだった
人を魔獣に変える悪魔の薬と言われるデーモンズアイ 誰かが薬を混ぜた霧を町に発生させた
一度、魔獣になれば元の人間に戻ることはない・・・」
「デーモンズアイ」
部屋は重々しい空気に包まれる
国王は席を立ち自らキャビネットに置いてある水差しからコップに水を注ぎ一口飲む
「二人は魔法防御壁で霧を防いだが町は男も女も子供から年寄りまで、すでに薬に冒されていた
彼女は副官に自分が見張りのため残るから応援を呼びに行くように命令をし
副官がそこを離れた直後、ものすごい音がして振り返ると町の方角に巨大な火柱が上がったそうだ
彼女の使った極大魔法・・その魔法で町は魔獣ごと焼き払われた」
副官が町に戻ると彼女は泣き崩れ、ただ、ごめんなさい、ごめんなさいと・・・
謝り続ける姿だったそうだ」
国王はまた一口水を飲み自分の席に戻る
彼女は投獄され裁判にかけられた
だが、調べていくうちに魔法師団内部で彼女のことを良く思わない者たちが
帝国から金をもらい彼女を貶めるためにやったと」
「酷い・・・」
「彼女は無罪として師団復帰を望まれたが・・
自分には、もう魔法を使う資格はないと・・言って城を去った」
「それが、フラン・スフィア・ハンジェリンだ」
部屋を重い空気が包み込むそれを払拭するようにテルミナが口火を切る
「ミト・ハンジェリンが彼女の子息となれば
彼の魔法能力もうなずけますがミシェル様を救ったのが彼かどうか」
「准将はミトさんにはお会いしていないのですか」
「はい、教授会が終わったときには放課後でしたのですでに帰宅していました」
「そうですか、もしミトさんがあの時の方でしたら腰に私がお渡しした宝剣を付けているはずです」
「お父様、魔法学校に私を行かせてください」
「しかし、フランの息子だった場合我々に協力するか・・・・」
「私が説得します、そして私が彼を守ります」
「お願いします」
「ミシェルあなた」
「お姉様からもお願いして」
「お父様・・」
「ふ・・わかった、ミシェルお前に任す」