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第四話 退屈王子と友達の猫①



「ディーに乗せられてノコノコ行く私……」


 まぁ一応? 私が王都を出たらヴァレンとはおそらく今生の別れになるわけだし、最後に一言くらい言ってやってもいいかもっていうのはそうだけど。

 でもちょっとむかつく。


 前回同様天井を伝って深夜の王城を進む。前の時より兵士の数が増えていたけれど、ほとんどが素通り、たまに見つかってもぶっ飛ばせばいいだけなので楽なものだ。

 ここ、大丈夫なのかしら。泥棒が入り放題なんじゃ。


 ヴァレンも、こんなザル警備の建物でちゃんと眠れてるんだろうか。

 ヴァレンは私と違って力が強い訳でもないし、どちらかというとむしろ非力なほうなのに。


「……って、もうあんな奴関係ないの。考える必要ないのよっ」


 頭をぶんぶん振っていらない考えを追い出す。


 そんなことをしているうちに、前にヴァレンと出会った部屋についた。


「そういえばここ、誰の部屋なのかしら」


 いくら『黒玉の歌姫』であろうとも、貧民街出身の人間が王城の上階に入るなんてよっぽどのことだ。きっとかなりの身分の人間がヴァレンを囲っているはず。

 おそらくそいつがヴァレンを買った張本人で、この部屋の主とみて間違いないだろう。


 私は天井から音もなく降り立ち、2人いた扉番のうちの1人を絞め落とす。兵士はあっけなく床に崩れ落ちた。


「なっ、何者……!」

「ここ、誰の部屋なの?」


 素早くもう一人の兵士の背後に回り込み、拘束する。


「誰の部屋なのか、質問に答えなさいよ。痛くするわよ」

「この部屋は! この国の第一王子殿下のお部屋だ! 控えよ、無礼も、の……」


 腕に力を入れるともう一人の兵士もあっさりと落ちた。


「王子……」


 どこかで聞いたような。

 うーんと考えていると、ギィ、と音がして目の前の豪華な扉が細く開いた。


「あ、来たんだね」


 聞き覚えのある声がした。扉は内側からさらにゆっくりと開く。扉の向こうに誰かが立っている。


 白っぽい金髪と、その間から覗く灰色の瞳。


「いらっしゃい、ヴィマ」

「ディー?」


 そこにはついさっき一緒に街へ遊びに行った、私の友人がいた。


「こんばんは。良い夜だね、ヴィマ。中へ入りなよ」

「夜の良し悪しなんか分からないわ……それより、なんであんたがここにいるの?」

「何でだと思う?」

「質問に質問を返さないで」


 招き入れられたので、とりあえず中に入る。

 部屋はこの前来た時と変わっていなかった。相変わらず明かりもついていなくて、月の青い光だけが差し込んでいる。


「あら? ヴァレンはここじゃないの?」

「あぁ。今日は呼んでないから」

「呼ぶ? あんたが?」

「うん」


 ディーが呼んだらヴァレンがここに来るってことは、ディーにはヴァレンをここに入らせられるだけの権力があるってことで、そもそもここは第一王子の部屋で、ここに当たり前のようにディーがいるってことは……


「えぇっ!? ディーってこの国の王子だったのっ!?」

「おっそ……普通もう少し前の段階で気づくでしょ」

「もう少し前っていつよ。何? 何かヒントでも出してくれてたのかしら?」

「そういうわけでもないけど……」

「っていうか、私に嘘ついてたのね! ディーもヴァレンも何なのよ、もう。私の周りの男はこんなのばっかだわ」

「そんなこと言ったら君だって、ヴァレンを探す目的でこの城に来てたこと……は言ってたな」

「えぇ」

「貧民街の生まれだってことも……」

「言ったわね」

「怪力なことも……」

「見せたわ」

「……その名前は?」

「本名よ」


 ディーがじとっと私を見る。


「普通、兄を攫った奴の本拠地に乗り込むってなったら、もう少し警戒しない?」

「してるわよ、警戒。スカートの中にはいざという時のための武器がたくさん入ってるの。ナイフとか、針とか、煙玉とか、本当にたくさんよ。見る?」

「そんな笑顔で言われても、見ないよ」

「あらそう」


 スカートのひらひらした感じは嫌いだけど、武器を仕込めるのは唯一良いところだ。


 ディーがどっかりソファに腰掛けて、私を隣に誘う。のんびりしていく気はないので断った。


「じゃあつまり、ヴァレンを連れてったのはあんただったのね」

「そういうことだね」

「ならあんたに許可を取ればヴァレンに会えるのかしら。最後に一度あいつに会わせてくれる? 別れの挨拶くらいはしてやろうと思うんだけど」

「良いとも。一度と言わず、ずっと一緒にいたらいい」

「どういう意味?」

「こういうこと」


 ディーが誰かに合図するように片手をあげた。次の瞬間、私とディーしかいないと思っていた部屋に、何十という数の兵士が表れる。

 兵士たちは私が反応するより早く陣形を汲んで、私を取り囲んでしまった。


 扉の外にいたような平の兵士とは違う、白銀の鎧に身を包んだ、本物の戦士だ。今まで全く気配を感じさせなかった。

 兵士たちの胸元で、きらりと紋章が輝く。


「……もしかしてこいつら、あの夜ヴァレンを迎えに来た奴らかしら?」

「そうだよ。僕直属の騎士団なんだ。優秀なんだよ。僕の命令は全部叶えてくれる」

「良いわ、どういうつもりか知らないけれど、こっちだってもう失うものはないのよ。捻りつぶしてあげる」


 あの時、私はヴァレンの判断に従って、こいつら相手に拳を収めてしまった。もう止めるヴァレンはいない。

 存分に暴れてやろうじゃない。どさくさにまぎれてディーのことも蹴り飛ばしちゃおう。


 そんな思いを込めてディーの方を見る。


 私は楽しい気分だった。このところ拳で片付けられない問題ばっかりで少し嫌になっていた。

 思いっきり暴れたい気分なのだ。せいぜい付き合ってもらおう。


 だから、ましてこんな強力な騎士団を従えていて、私を追い詰めているディーはもっと楽しいだろうと思ってた。


 けれど、兵士たちの肩越しに見たディーの顔は、曇り空のように微妙な色をしていた。


 

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