第二章 第四十二話 益荒男
「勝った。岩城が勝った!」
「すごいよ、岩城くん」
倒れたノコを見て、俺と亮夜は安堵した。
やっと戦闘が終わった。
なによりもこれでアンを助けることができる。
「宏、行こうぜ」
「うん」
俺たちは敢闘した岩城を称えるため、彼に近寄ろうとした途端、彼は大声で「二人とも待って!!」と叫んだ。
俺たちは立ち止まった。
岩城は切先をノコに向ける。
「ノコさん、まだ動けるよね?」
嘘だろ? 胴体横真っ二つに斬られたんだぞ。
動けるわけ……。
「さすがでございます。あなた様はよくご存知で……」
喋った。
ありえない。
普通ならば喋らないものが喋っている。
「うん、君たち無機物種はコアを破壊しない限り、生きてるからね」
これが……無機物種。
機械が命を宿し、生きている妖魔。
ノコを見つめていると、岩城が衝撃的なことを言った。
「左腕斬っていい?」
「えっ?」
思わず声を出してしまった。
こんな姿じゃ戦闘なんてできないだろ。
岩城にそう伝えようと、近寄ろうとした。
しかし彼の顔を見ると、死んだ魚のような目で、彼女を見下げている。
そこにいるのは、いつもの岩城じゃない。
言葉にするなら、いくつもの修羅場を超え、『生き死に』を経験した益荒男がそこにいた。
仰向けに倒れているノコが無感情で「ご自由にどうぞ」と答える。
岩城は躊躇なく彼女の左腕を斬り落とし、彼女から遠ざけるように左腕を蹴る。
「念には念をだよ。で、ノコさん。鍵はどこにあるんだい?」
ノコは天井を見つめたまま「エプロンのポケットの中にあります」と答えた。
それを聞き、亮夜がすぐさま彼女の下半身に近づき、エプロンを弄る。
「あったぞ」
エプロンのポケットから二つの鍵を取り出し、俺たちに見せる。
岩城は視線を一瞬だけ亮夜に向け、そのままノコに戻した。
そして、彼女を見ながらこう言った。
「大神くん……僕はここに残るよ」
「えっ? なんで?」
「一つは彼女がなんかしでかすんじゃないかって不安なのと……女性を一人にさせたくない」
「岩城……」と亮夜は彼を見つめる。
「こんな状態にさせてよく言えるな」
岩城は目を見開きながら亮夜を見る。
そして「……ふっ」と岩城が少し微笑み、いつものテンションでこう言った。
「仕方がないでしょ!? こうもしないと安心できないんだもん! 大神くんもそう思うよね?」
「流石にこの姿にさせるのは……正直引く」
「えーー」と岩城が言っているが、本当はすごく彼に恐怖みたいなものを感じた。
ノコに目線を向けると彼女と視線が合う。
あっ、目があった。
「で、俺たちはもう行けばいいんだな?」
「うん。あとは二人に任せるよ」
岩城は刀を出したまま、「よいしょ」と呟き、ノコの隣に座る。
亮夜がこっちに向かってくる。
「行くぞ、宏」
「あぁ」と頷いた。
「それじゃ、会話でもするかい?」
「畏まりました。ではあなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「岩城、岩城 真吾」
「では真吾様とお呼びさせて頂きます」
そこで俺は初めて岩城の名前を知った。
俺と亮夜はその会話を背に、部屋を出る。そして、向かいの部屋の前に立つ。
「開けるぞ」
亮夜が扉の鍵を開ける。
カチャッ
扉を開けると金髪サイドテールの少女が、俯きながら椅子に座っている。
ゆっくりとこちらを振り向き、彼女はこう言う。
「なんで……来たの?」
アンはミニブギーマンを握りしめ、虚ろな目で俺たちを見つめていた。