第二章 第二十一話 光線と落とし穴
「ベイカー、やりなさい」
ウキィィィィィィー!!
ベイカーがまた叫ぶと、影たちが一斉に襲い始める。
抵抗しなければ。そう思った時にはもう遅かった。
脚、腰、腕を掴んでくる影たちは引っ張ったり、押したり、もみくちゃにする。
何が起こっている? 影が重なってわからない。
「離せこの野郎!」
「な、何が起こっているんだい!? 動けないよ」
「痛い! 髪、引っ張らないで!」
ウキキィー
ウキィ
ウキィー
ウキィッ
ウキィーウキィー
キィー
うききぃ
影たちの鳴き声からみんなの声が聞こえる。本当にどうなっているんだ? 腕を後ろに持っていかれ、そのまま倒される。後頭部が痛い、手首が痛い、足首が痛い。何か縛られている? 身動きが取れない。後頭部からザラザラと音が聞こえる。手がザラザラする。砂か? 俺は今、寝転がっているのか。
重なる影たちの間から真っ白に輝く光が差し込む。影たちが離れていくと共に、その光の正体がわかった。二体の羽の生えた球体がエルファバの周りに浮かんでいる。光が集まって、徐々に大きくなっているのがわかる。
キュュュュュュ!
あれは何なんだ? 嫌な予感がする。
亮夜が「離せ! この野郎!」と叫んでいる。
みんなはどうなっているんだ?
顔を右に倒すと岩城、亮夜、神代という順で倒れている。全員両腕両脚を縄のような物で縛られ、仰向けにされた状態でもがいていた。
やはりみんなこの状態か。やばいな。
意気揚々と勝ち誇ったように笑う声が聞こえる。視線を戻すとエルファバが箒の上に立ちながら、左腕を挙げている。
「今の魔女はビームを出せるのよ」
岩城が飛びつくように「ビーム!? マジで!? すごいよ!?」と叫ぶ。
岩城よ。今はそんな余裕はないぞ。
「岩城! この状況でなにはしゃいでんだよ!」
「岩城くん」
「何だい? 神代さん」
「うるさい」
「ゔっ……」
小声で「ひどぅい」と聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「ぽっちゃりくんありがとう。すごく嬉しいわ。ビームっていいわよね。それじゃ、そのまま消えてちょうだい」
影たちが騒がしい。またこの状況だ。流石にこれはもう無理だろう。上空の光がだんだん大きくなっていく。
ウキキィー
ウキィ
ウキィー
ウキィッ
ウキィーウキィー
キィー
うききぃ、うききぃ、うききぃ
一体だけこちらに近づいてくるのがわかる。足音が聞こえるのだ。上にいるベイカーっていう猿の仕業だろう。
「ん? ベイカー、あの影を引っ込めてくれるかしら」
「ウキッ? ウキキキィ」
「えっ? あいつは知らない?」
うききぃ♪ うききぃ♪ うききぃ♪ うききぃ♪ うききぃ♪ うっききぃ……。
俺の視界に入ってきたのは目が明後日の方向を向き、口が裂けたように笑う猿だった。
「ダーク・ホォォォル!」
パチンと指を鳴らす音が聞えた途端、手にザラザラした感覚はなく、下から風を感じた。
「えっ?」
口が裂けたように笑う猿が、見下げながら小さくなっていく。
引っ張られている? 違う……落ちてる。
「ゔっ! いっ……てぇぇぇ」
腰が痛い。地面?
「いってぇぇぇなぁぁぁ!」
「うぅ、痛いよ」
「っ……」
みんなの声がしたので上体を起こすと、そこは関帝廟の東屋の前だった。
その東屋の下で立っていたのは……。
「まったくぅぅぅ、皆さんは仲良くありませんねぇ。これじゃ相手を倒すことも気絶することもできませんよぉ」
「……ブギーマン」
「はい、ブギーマンですYO!!」
ラッパーのようなポーズをするブギーマンがそこにいた。