第二章 第十七話 もしも、死んだら
トゥクトゥクが東側の坂道を下っていると、亮夜が「あれ?」と疑問の声を漏らした。
「亮夜どうした?」
「いや、あそこで戦ったんだけどよ。地面とか隆起してねぇんだわ。まるで元に戻ったかのようによ」
「戻ってるんだよ」
「えっ? 岩城なんつった?」
「戦った後の建物、道路とか建造物は何もなかったかのように戻るんだよ。本当、変な世界だよね」
まるでゲームみたいだ。いくら戦って壊れても、いつの間にか建物は元に戻っている。『変な世界』という簡単な言葉で処理できるのが、異世界というものなのだろう。正直、ご都合主義なような気がするが……。そういえば、ご都合主義といえば夢の世界に入ってきた人間はこの世界で死んだら、どうなるのだろうか。改めて聞いてみよう。
俺は岩城に聞いてみることにした。
「ねぇ、岩城くん。聞きたいんだけど、夢の世界で死んだら、俺たちはどうなるんだ?」
そう聞いたら、岩城が答えようとした瞬間、神代が割って入ってきた。
「ちょっと、私言ったでしょ? 倒されたら大切なものが……」
「待って、神代さん。僕に聞いているんだよ。君じゃない」
「……」
神代は黙って、流れる外の風景を眺める。
なんか申し訳ないな。
「大方、何か大切なものがなくなるって言ったんだろうね。いいかい? この夢の世界で亡くなったら……」
岩城が言うには夢の世界で亡くなった場合、現実世界では夢の世界で過ごした記憶はなくなり、同時に自分が大切に思っているものが無くなってしまうそうだ。
「大切に思っているものってなんなんだい?」
「それは個人個人違う。例えば、絵を描くことが好きな人が大切にしているものって何かな?」
「紙とか、鉛筆とかか?」
「物じゃないんだ。たぶんだけど。もっと上手に絵を描きたいという向上心だと思う。その向上心、いや、絵そのものに興味を無くしてしまう」
亮夜が運転しながら「いいじゃねぇか。真人間になるってことだろ?」と言った。それを聞いた神代がこう返した。
「最悪、廃人よ。それがどこがいいの? 水島くん、ここで降りるから止まって」
トゥクトゥクが山近くの道で止まり、神代は「ありがとう」と言い降りる。
彼女は振り返り「それじゃ、囮よろしく」と口にした後、手から蔓を出し、山の方へ姿を消した。
亮夜が「マジで?」と岩城に聞く。
「マジだよ。大切に思うもの。夢の世界では魂って呼んでる。それが無くなると、人間なんのために生きるようになるんだろうね」
その話を聞いて恐怖を感じた。自分が大切に思っているもの、家族か? 友人か? ゲームか? それらが興味を無くしてしまう。家族を家族と見れず赤の他人になってしまうのか? 友人が友人と見れず無関心になってしまうのか? ゲームがただの漬物石になってしまうのか?
続けて岩城がこう言う。
「あと一部の妖魔が欲しがっている物もその魂だからね。妖魔は黒い霧になって霧散するけど。僕たちは光の泡になって、最終白い玉が宙に浮かぶんだ。妖魔はそれを食べる」
亮夜が「それはなんでだ?」と岩城に問う。
「わからない。でも食べると強くなっているように感じたよ」
「よく知ってるな。……見たのか?」
岩城は俯く。
「……見たし、経験もした」
亮夜は左手を首に当て「そうか……わりぃ」と言いながら、視線を逸らした。
「ううん、いずれ知らなくちゃいけないことだよ。ここで言っておかなきゃ……行こうか」
「おう」
「うん」
俺と亮夜は返事をする。
すごく重苦しいが、それが現実なのだと心に刻む。
再度トゥクトゥクは屋敷に向かって出発するのであった。
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