第二章 第五話 ぼっかけ焼きそば
参ノ宮センター街は賑わっていた。小さな子供からお年寄りまで、老若男女問わず色んな人が商店街を歩いていた。
俺たちは人混みを避けながら前に進む。ドラックストア、電機ショップ、バーガー店。それらを尻目に亮夜は白文字でSANPLAZA 、興町筋、CENTERPLAZAと書かれた建物の前で止まった。
「ここに入るぜ」
亮夜はそのまま昔のビルのような内装をした建物に入り、地下へと続くエスカレーターに乗った。俺も追って乗る。
地下に下りるといろんな食事処がある。
和食に洋食、中華にカレー、へートマトラーメンなんてあるのか。
亮夜は西に向かいながら俺にこう話す。
「ここは平日、サラリーマンとかが食べにくるんだけどよ。いろんな店舗があるから好きなんだよ。和洋中はもちろん。ラーメン、カツ、喫茶店もあるんだぜ。今日はどこにしようかねぇ」
俺は亮夜を追うように歩いていたが、ある店の看板を見て止まった。
「ぼっかけ焼きそば?」
「おっ、ぼっかけ焼きそばが食いてぇのか? じゃ、ここにするか。すいません、二人でお願いします!」
亮夜はぼっかけ焼きそば屋の暖簾を上げ、俺を先に入るように手を突き出す。俺は一言「ありがとう」と言い店に入る。
店員に勧められるがまま席に座る。俺の隣にぽっちゃりで髪の毛を耳あたりまで伸ばした黒いリュックを背負う男が大きい独り言でぼっかけ焼きそばを食べていた。
「んー、やっぱりぼっかけはいいねぇ。幸戸市民の愛する味だー。この甘く煮たすじ肉がいいんだよねー」
男はぼっかけ焼きそばからこんにゃくを箸で摘みこう言う。
「そして、このこんにゃくがまたいい味を出しているんだぁ。こんにゃくの歯ごたえが料理を飽きさせない。んーいい。美味しい」
すごい独り言だな。いろんな人がいるものだと思いながら、椅子を少し亮夜よりに移動すると、亮夜が前を屈み俺の隣の人を見ると「岩城じゃねぇか」と言った。
「ん? み、水島?」
「亮夜、知り合いか?」
「知り合いって……二組の岩城だ」
「一緒の学校なの?」
「君が噂の転校生くんかー。一週間未満で水島を名前呼びとはすごいねぇ」
一瞬ビクッとなる。そうだ、転校して間もないのに、俺はいつも間にか亮夜と呼んでいた。どう説明しようか。
「そうだぜ。宏とは名前で呼ぶ関係になったんだぜ!」
ナイスだ亮夜。これで説明する必要がなくなった。
「それよりも岩城。なんでここにいるんだ?」
岩城の目が左右動き「散歩だよ」と答えたが、亮夜は椅子の背凭れに凭れ掛かり、軽く笑いながらこう言う。
「ふっ、その割には大きなリュックだな。登山でもしたのか?」
「あーもー、二、三階に居たんだよ」
「二、三階? その階がどうしたんだ?」
「なんだい? 転校生くん。こっちの世界の住人かい?」
「こっちの住人どういうことだ?」
「この後、行ってみるか? 俺はあれの何が面白いのかわからねぇけどな」
「それは聞き捨てならないねぇ。あれは僕たちのオアシスだよ。ねぇ、転校生くん?」
「俺は転校生って名前じゃない。大神 宏だ」
「あぁ、失礼。確かに名前以外で呼ばれるのは気分悪いよね。おいとか、なぁとか。そう言われたら人以外の何かだよね」
そう言い岩城は微笑みながら手を出す。
「よろしく。大神くん」
俺は「よろしく」と握手する。
「なぁ、宏。それよりも注文しようぜ」
振り向くと、亮夜が前を人差し指で指していた。その方向を見ると、おねぇさんが笑顔でメモを片手に注文を待っている。
慌てて「ぼっかけ焼きそばで!!」と言うのであった。