第一章 第十三話 話し合いは三組の教室で
「神代には言ったから」
少し食べて亮夜から出た言葉はこの一言だった。
「そうか、ありがとう」
「礼はいい。これは俺らの問題だ。俺らには知る必要がある」
「そうだな」
夢の世界は分からないことだらけだ。分からないなら知らなければならないし、理解しなければならない。
なぜなら、知ることによってこれからの対応を考えることができるからだ。
例えば山登り。知識があるとないとでは遭難した時の生存率が変わるように、夢の世界を知ることによって、生きるか死ぬかの生存率を高める必要がある。
そう考えながら、食べていると亮夜が「何考えてんだ?」と聞いてきた。
「今夜の夢はどうなるだろうなってな」
「そんなの今夜見ないとわからねぇよ。怖いのはわかるけどよ」
「そうだな」
会話はそこで一旦終わり、全て食べ終わると、亮夜が「ふぅ、腹一杯。よし、行くか」と言った。
教室に戻るのか。
「そうだな、行こうか」
そう言い、立ち上がり、向かったのは屋上だった。
「なんで屋上なんだ?」
「えっ? 次の授業サボるためじゃねぇか」
そう言い、屋上で寝転がる亮夜。
「俺は教室に戻る」
「真面目だねぇ。高校は義務教育じゃないんだぜー」
「サボる方が今は珍しいんだよ。じゃ、放課後5時に三組に」
「おう、よろしくー。すげー、雲が川みたいに流れてらぁ」
俺は教室に戻ることにした。教室に戻り。スマホで天気を確認する。今日は曇りだが、午後は次第に晴れるようだな。亮夜には言わなくていいか。そう思いながら次の授業の準備をする。
放課後、授業は終わり、生徒たちは帰っていく。部活に行く生徒とかいるんだろうな。俺は三組に行かなければならないんだが。
時間だ。教材をまとめ、席を立つ。教室を出て、廊下を渡り、二年三組の教室で立ち止まる。
ここに二人がいるのか。教室の扉を開ける。
扉を開けるとそこには、窓際の席で脚を組み亮夜を見つめる神代と少し離れた席で椅子の背もたれに手をかけ、彼女を見つめる亮夜がいた。
訂正、見つめるというより睨み合うという言葉が適切だな。
「おう、来たか大神」
「何、男二人で私を襲う気なの?」
亮夜は鼻で笑い「ふざけろ、こっちは夢の世界のこと知りたいって、午前中に言っただろ?」と顔を飛ばしながら言う。
「中途半端な人に睨まれても怖くないのね」
「あ゛ぁ!」
「待て、水島。落ち着け」
咄嗟に立ち上がる彼を止める。
「神代さん。俺たちは話がしたいんだ。喧嘩をしたいわけじゃない」
「話し合いね。わかった。じゃーおしまい。話すことはない。さようなら」
彼女は鞄を持ち、立ち上がり、教室の扉に向かう。
「お゛い、逃げようとすんなよ!」
「水島は落ち着け! 俺たちはブギーマンに言われたんだ。このままだと、この世界が危ないって」
それを言うと、扉の取っ手に手を伸ばしたところで止まる。
「あいつ、それ以外になんか言ってた?」
「ヒントは君にあるって」
彼女は「あの道化師は」と呟く。
「夢の世界で私を探しなさい。この世界では絶対話さない」
そう言い、神代は教室を出るのであった。
「大神、なんで神代を逃したんだ? ここで聞けば終わってたじゃねぇか」
「でも言ってくれなかったと思う」
「なんでそう思う」
「前もそうだったから……」
「なんだよそれ……まぁいい。今日はお開きだ。今晩、また夢の世界で会おう。で、彼女を探そう」
「なんかすまん」
「謝んな、終わったことだ。それじゃ、俺はもう帰る。また今晩会おうぜ」
「あぁ、お疲れさん」
「お疲れさん」
亮夜は教室を出る。俺は教室で独り、窓から誰もいない中庭を見る。
そうだ、今日は母さんにメール送らなければ。そう思い俺も教室を出るのであった。