プロローグ 第一話 汝に魂はあるか
誰もが神様に見守られているんだよ。
そう母さんに言われたのは七歳の時だった。
七歳の俺は純粋にそのことを信じていたが、失敗や挫折を繰り返すと共に、いつの間にか信じなくなっていた。
神様なんていない。
そう思っていたのに神頼みしている自分がいる。
本当に皮肉な話だ。
母さん、聞きたいんだけど。
なんで俺は今、刃物数本を持った筋骨隆々な大男に追われているの?
俺、大神 宏は路地裏のポリバケツの中に身を隠し、息を殺しながら大男が通りすぎるのを待っていた。
「どこ行ったんだぁ? じっくりいたぶって殺してやるからよぉ」
男の声が路地裏に響く。
背中から嫌な汗がじわりと感じる。
このまま居たら確実に殺される。
来るな来るな来るな。
足音が少しずつ近づいてくる。
やばい、気づかれる?
走馬灯のように浮かんだのは大男に刃物で殺される女性の姿であった。
「ここかぁ?」
その言葉は真っ暗な視界を真っ白にさせた。
頭に浮かんだのは『死』という文字。
俺、死ぬのか……。
……いやだ、死にたくない。俺から離れてくれ!
俺は無意識に両手を強く握り心から祈っていた。
本当に神様がいるのなら、この願いぐらい聞いてくれないだろうか。
俺は祈った、心から祈った。
あぁ、頭が真っ白になってきた、死にたくないな。
『われ…は……か…み……』
空白の頭から何か声が聞こえた。
カランカランカラン
真っ暗な視界から空き缶が蹴られたような音が聞こえた。
「あっちかぁ!!」
走る音が聞こえる。行ったのか?
俺はポリバケツの蓋を少し開け、隙間から見える範囲を確認する。
いない……よな?
走る音が遠のいていく。
「よかったぁー」
思わず安堵の声が出た。
走る音が聞こえなくなったので、そのまま蓋を開け、ポリバケツからでる。
しかし、まだ安心してはいけない。
ホラー映画でよくある展開だが、安心しきった所に襲ってくる。
肩をトントンと叩かれているような気がするが、これは緊張している俺の錯覚というものだろう。
そう思い後ろを振り向く。