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〈二〉面の者

 そうだ、本買おう。


 美幸と別れて、俺は本屋に向かった。日本の神々がよく分かるとかいう帯の付いている本を購入して、帰る。


「あ、晃一」


 向こうの道を晃一が歩いているのが見えた。誰かと一緒にいる。あれは……。


「あれって……」


 センターの自己採点の日、うちの神社に来ていた黒ずくめのお面の男じゃないか。どうして晃一と一緒に……。そして今日もお面なのな。


「美幸に見られた……」

「油断しておりました……」


 見られた? 何の話だ?


 二人は見るからにしょんぼりした様子で歩いて行く。あの黒ずくめの男、晃一の知り合いだったのか。美幸に何を見られたんだろう。気になったけれど、さっきのこともあるし声はかけなかった。





 神社に帰ると、鳥居の所におかしな男(多分)が立っていた。濃紺のダッフルコートで、キツネのお面をしている。烏天狗の次はキツネかよ。何なんだ一体。


「あのー、参拝の方ですか」

「おや、こちらの神社の人かな」

「そうですけど」


 男はお面の顎に手を当てて、ふむふむと頷いた。俺のことをまじまじと見て、お面の奥で笑う。


「君はいい神職になるね」

「え?」

「すこぶる楽しみだよ」


 何言ってんだこいつ。


「時に少年、ここらで怪しい男を見なかったか」


 オマエも十分怪しいよ。


「私を怪しいと思っているな? いやはや参ったな」


 参ったとかじゃねえよ、どう見ても怪しいだろ。


「私が探しているのはカラスなのだよ」

「カラスって、もしかして烏天狗のお面?」

「そうだ」


 晃一と一緒にいた人が狐面の人に探されている? とんでもないことに巻き込まれている気がするな。俺は主人公なんてごめんだぜ。


「心当たりがあるようだね。教えてはくれないか」

「その人とアンタはどういう関係なわけ」

「古い友人のようなものだよ」

「友人……」


 男はゲームキャラの待機モーションのように、左手で支えながら右腕を曲げ、手を顎に当て、そして両手を下ろした。


「気配を追ってここまで来たのだけどね、彼も私には見つかりたくないみたいだ。雪が降り積もって匂いも分からないしね。いやはや、鬼ごっことはすこぶる愉快だ。君が彼の居場所を知っているのなら教えてほしいのだよ。礼はするさ」

「居場所は分からねえよ。けど、その人が俺の親友といるところを見た。アンタがその人を見付けてどうするのかなんて知ったこっちゃねえけど、俺の親友には何もするなよ」

「随分警戒されているようだな」


 当たり前だろ。


 男は再び待機モーションを繰り出す。


「ふむ、善処しよう。君の親友が抵抗さえしなければ、ね」

「は?」


 男は番傘を広げる。さっきまで持ってなかった気がするんだけど。


「君の親友と一緒というのが分かれば十分だよ。お礼にこれをあげよう」


 何か差し出してきたので、とりあえず手を出してみる。男はそっと何かを俺の手に載せると、ひらひらと手を振って去って行った。


「何だこれ」


 暮影神社でも使っている、神社でよく見る御守りを参拝客に渡す時の小さな紙袋だった。しかし、随分とよれよれだ。朱で伏見稲荷と書かれている。逆さにして振ると鈴の付いたキツネの根付が出てきた。鈴の横に金属のタグが付いていて、灼燬焔熾と彫り込まれている。何て読むんだろう。神様の名前だろうか。俺もまだまだ勉強が足りないな。


 ポケットに袋ごと根付を突っ込むと、何かが手に触った。何だろうと取り出すと、八咫烏のカフスボタンだ。ああ、これ、あの烏天狗のお面の人のだ。いつ再会してもすぐ返せるように持っていたんだ。さっき見かけた時に声をかければよかったのかな。


 それにしても、さっきのキツネ男、何だか普通じゃない感じがしたんだよな……。落ち着いているみたいなのに鬼気迫ってるというか……。ダメだ、うまく表現できないや。


 晃一に何もなければいいんだけど……。








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