【Ⅱ】 鳥達と少女
運命の時は突然訪れるものだ。この前読んだ小説の主人公が言っていた。
でもそうとは限らないでしょ、試験の日は決まってるんだから。
「ぴあ」
籠の中でユキが鳴いている。窓の外枠には時雨が留まっていて、その隣に白露の姿も見えた。飼われているセキセイインコと野生のクマゲラとアカゲラが仲良しというのは珍しいことだと思う。今は籠の中にいるけど、普段籠から出して窓を開けていてもいなくならないユキがとてもいい子だからだよね。
「そういえば最近、夕立は来ないんだね」
「ぴぴ」
毎週月水金はだいたい来るのに、珍しいな。たまにそういう時もあるけど、何かあったのかな。なんて、カラスの心配してる場合じゃないか。センター試験はとうの昔のことになり、二次試験まであともう一週間しかないんだから。バレンタインなんてなかった。なかったの。
問題集を開いたタイミングでスマホが震えた。電話だ。名前の表示は朝日君。
「もしもし?」
「日和、おまえの所か、陽一郎さんの所、夕立のやつ来てないか」
「来てないけど、どうかしたの?」
二年の夏頃から、なぜか夕立は朝日君に懐いているみたいだった。朝日君もカラスに付き纏われているのになんだかまんざらでもなさそうだったけど。
「ああもう、こんな時に何でいないんだよ」
「何? 何かあったの?」
「いや、おまえには関係ないんだけど……」
「あたしに関係なくても、夕立に何かあったらユキ達がびっくりしちゃうから。それに、おじいちゃんも」
お隣の陽一郎さんは鳥好きのおじいちゃんで、鳥達もおじいちゃんに懐いていた。噂ではワシやタカも手懐けたとか言われているけれど、真偽は不明。夕立に時雨、白露の名前はおじいちゃんが付けたもので、あたしは知らないけれど餌台常連の鳥達の中には他にも名前のある子がいるらしい。
朝日君は電話の向こうで溜息をついた。
「あっ、やばい……。真面目なふりして天然なんだから……。もし夕立が来たら俺の所にすぐ来るよう言っておいてくれ」
「うん、分かった」
通話が切れる。
成り行きで返事をしてしまった。いくら賢いカラスでも、言ったら行くのかな。
朝日君ってちょっぴり不思議ちゃんなところがあるんだよな。何もない所見てぎょっとしてる時とか、突然うわーって走り出す時とかあるし。
……何かあたしには見えないモノが見えてるのかな。