「弐」 学年主席が気になること
暮影神社の合格守りと八咫烏の根付。
御守りはあくまで御守りなのだから、結果は俺の実力なのだろう。ミスはあったが、結局俺が星影高校トップらしかった。このままの調子でいければ二次試験も前期一発で突破できるのではないか。いやいや、調子に乗るのはよくないことだ。それで失速したら笑い者だ。
紫苑だけでなく神楽も空気を読んでくれているのか、いつものようにちょっかいをかけてくることがなかった。家族の振る舞いもわざとらしいくらいで、「落ちる」とか「滑る」とか言わないようにしているらしかった。妹はフィギュアスケートが好きなのだが、「滑る」からと親がテレビを点けなかった。妹には正直申し訳ないと思う。とばっちりだ。そこまでしなくてもいいだろう。
「晃一さん」
赤本を睨みつけていると、机の上に湯呑が置かれた。
「休憩も必要ですよ」
「神様にお茶を淹れてもらう受験生なんて俺くらいだな」
「台所に誰もいらっしゃらなかったので、お借りしました」
「ありがとな、紫苑様」
緑茶を啜って、俺はノートにペンを走らせた。机の上の時計は午後十一時を示している。
「ん? あれ。紫苑様、それどうしたんだ?」
はっとして、紫苑は右手を体の後ろに隠す。ちらりと見えただけだが、包帯が巻いてあるように見えた。
「怪我でもしたのか?」
「ええ、まあ。ああ、でも問題ありませんよ。すぐに治りますって。私は神ですからね」