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【Ⅰ】 答え合わせをしよう

 できることは全部やった。


 二日間の試験が終わり、今日は自己採点の日。隣のクラスから阿鼻叫喚が聞こえてきたけれど、あたしのクラスも同じようなものだった。所詮は田舎の自称進学校、ということなのかな。


 今日書いた点数表は模試をやっているところが回収し、合格可能性判定を後日届けてくれるらしい。


 今までの模試と比べると同じような点数なんだけど、これっていいのかな。模試の判定はセンターの点数と関係ないからって先輩が言ってたの。模試と同じ点数だと、センターの予想は模試より低く出るんだって。なんて理不尽な。それなら模試もちゃんと厳しく判定してよね。


「日和ちゃん、どうだった?」

「模試と同じくらいの点だった。厳しいかも」


 あたしが答えると、美幸(みゆき)はがっくりとうなだれてしまった。なになに、どうしたっていうの。


「わたし模試より低くなっちゃったの。どうしよう。志望校行けないかもしれないわ」

「ま、まだ大丈夫だよ。ほら、先輩にいたでしょ、センターD判定から二次試験で逆転合格した人。諦めるにはまだ早いよ。ね」

「んー、頑張るけどさあ」


 美幸は空席を見て溜息をついた。そこは小暮(こぐれ)君の席だね。


「いいなあ、ハルくんは。推薦いいなあ……。ねえ、ずるいと思わない? ねえ、こーちゃん」


 自己採点表を見ていた朝日君はわなわな震えながら顔を上げた。何その顔、何かやばいの。


「朝日君?」

「日本史間違えた……。やばい……」

「ええっ、こーちゃん、まさかの大失態? 四十点くらい?」


 美幸、そんなに楽しそうに言わないであげて。


 朝日君はふるふる首を振って、震えた声で言う。


「一問ミスった……。日本史は百点のつもりだったのに……」

「こーちゃん、みんなにケンカ売ってるの?」


 朝日君は机に突っ伏す。


「満点一つも取れなかった……。どうしよう……」


 学年主席の朝日君は定期テストも模試も校内トップで、いつも上位者ランキングに名前が載っていた。科目で満点を取っているのを何回か見たことがあるけれど、まさかセンターまで満点を取ろうとしていたの? ガリ勉にもほどがあるよ。と思うけど、朝日君が目指すのは札幌のあの大学だから、センター分でいくらか稼いでおきたいのは分かる。


「こーちゃん、そうやって高得点自慢するのよくないよ」

「自慢なんかしてない。落ち込んでるだろ。見て分からないのか」

「分からないよ! あのさ、話戻していいかな。ハルくんのことなんだけど。ずるいよね」


 小暮君は朝日君に「万年赤点野郎」と言われるくらいの成績で、だいたい赤点すれすれを走っている。そんな小暮君が、夏祭りが終わった頃から猛勉強をし始めて、朝日君に教えを請うているのをあたしも目撃している。夏休み明けの模試ではまさかの英語七十六点とかいう小暮君にあるまじき得点を叩きだしていた。やればできるやつらしい。


栄斗(はると)はあれだ、家のおかげだろ」


 空席を見ながら朝日君は言う。


「それあたしよく分からないんだけど、普通の推薦と違うんだっけ?」

「栄斗の志望校は神道文化学部のある東京の大学だろ? あそこな、実家が神社で、そこを継ぐことの決まってる宮司の子供は別枠で推薦受験なんだって。結構優遇されるみたいだから、栄斗みたいなやつでも神社をちゃんとやるなら入れるんだよ。まあ、俺が教えてやらなかったら推薦すら落ちてただろうけどな」

「ハルくん確かに頑張ってたけどさー、やっぱり推薦いいなあ、ずるいなあ」





 あたしと美幸の志望校は星影市立大学環境文化学部。朝日君は札幌の大学の法学部。小暮君は東京の大学の神道文化学部。みんなが第一志望に行けることはいいことだけれど、もしそうなったら離れ離れになってしまう。朝日君と小暮君が星影を離れる前に、何か四人で思い出を作ることができればいいんだけど……。





 家に帰ると、部屋で大事な大事なインコの淡雪(あわゆき)が出迎えてくれた。


「オネーチャン! オカエリ!」

「ただいま、ユキ」


 コートをハンガーにかけ、ブレザーを脱ぐ。籠の外にいるユキは着替えるあたしの近くをピーチクパーチク言いながらくるくる飛び回っている。今日もかわいいね、ユキ。


 トレーナーとジーンズに着替えたわたしは過去問の冊子を手に机に向かう。よし、一問やって答え合わせしたらお菓子を食べよう。


 机の上でちょこちょこ動いているユキを掬い取るように手に載せ、窓辺の籠に入れる。


「ごめんねユキ、後で遊んであげるから」

「ぴい」


 椅子に座り直して、問題集を開く。


「きょっきょっ」


 窓の外にクマゲラが留まっているのが見えた。ユキの友達の時雨(しぐれ)でも、今日はダメ。あたし勉強するんだから。また今度にしてね。


 ここからが、ほんとにほんとの大一番なんだから!











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