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「伍」翡翠色の日々

 大学生になったら、札幌のマンションで一人暮らし。高校一年の時、俺はそう考えていた。けれど、それは不可能になった。札幌で三人暮らしになるなんて、誰が想像しただろう。


 目覚まし時計に起こされ、俺は起き上がる。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるが、部屋はまだ薄暗い。ベッドと布団は出したが、大半はまだ段ボールの中。乱雑に置かれた段ボール箱が不気味な影を壁や床に落としていた。


 昨日札幌に着いたばかりで、まだ何もできていない。とりあえず今日は荷解きだな。


 足元で声がしたので見てみると、浴衣を大胆に肌蹴させた女が掛け布団を放り出して眠っていた。さっきのは寝言だろうか。


 鈴だけ実家の部屋に置いて来る訳にはいかず、本体持参で神楽は札幌まで付いて来ていた。こいつには自分が女だと言う自覚がないのか、それとも恥ずかしいという感情がないんだろうか。目のやり場に困るこっちの身にもなってほしい。


 ベッドから降りて布団を掛けてやる。奥にもう一式布団が敷いてあったはずだが、ない。部屋の隅に綺麗に畳まれているのが見えた。もう起きているのだろうか。


 神楽と段ボールを踏まないように気を付けながら、俺はリビングに向かう。リビングも段ボールだらけで、テーブル代わりに空になった段ボールをくっ付けたものが中央に鎮座している。その、向こう。ベランダへ行く窓が開いているのか、風が吹き込んでいた。段ボールの間を縫って進む。


「しお……」


 ベランダの柵にカラスが一羽留まっていた。


「……夕立、起きてたのか」


 カラスは振り向き、有翼の美青年へ姿を変える。


「おはようございます、晃一さん」

「おはよう」


 サンダルを履いて、俺もベランダに出る。春はすぐそこまで来ているはずだが、風はまだ冷たい。


「でかい町だよなあ」

「ええ。こういう風景を眺望していると、何だかわくわくしませんか。これからいいことがあるのではないかと」

「神様のくせに何言ってるんだよ。ふ、でもよかった。元気そうで」


 紫苑はきょとんとしている。


「ずっと浮かない顔してたからさ」

「ご心配をおかけしました、もう大丈夫ですよ」

「それならいいや。う、寒っ」


 漆黒の翼が俺を包み込んだ。天然の羽毛だ。ものすごく暖かい。


「荷解き等一通り済みましたら、神宮へ参りましょう。神楽さんも一緒に」

「分かった」


 田舎から離れれば変なものも見ないのではないか。そう思っていた時期もあった。結局俺はどこへ行こうとも怪異から離れることはできなさそうだ。


 俺達は新しい町へやって来た。きっとここでも、様々な不思議達が俺を待っているのだろう。そう思うと、嬉しいような困ったような、何とも言えない奇妙な気持ちになってしまった。


 窓ガラスに映る俺の瞳は、今日も翡翠色に光っている。










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