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〈三〉卒業旅行に行こう!

 無事に三人は合格を掴み取り、俺達四人は卒業旅行へ行くことになった。日程は二泊三日。行先は登別温泉。有名な温泉地だ。登別では魚もクマも忍者も鬼も見られるんだからすごいよな。星くらいしか取り柄のない星影とは大違いだ。


 登別へ向かうバスの中、俺は暇を持て余して座席に凭れていた。スマホを眺めても特に面白くないので横を見てみると、隣に座る晃一は窓の外を眺めている。


「大丈夫かな……」


 車窓を見つめながら晃一はそう呟いた。


「晃一?」

「えっ、な、何?」


 こちらを振り向く。意表を突かれて驚いた顔をしている。おーい、いくらなんでも油断しすぎじゃないかあ?


「外に何かあるのか?」

「いや……」

「あのさ、中々タイミングがなくて言えなかったんだけど。これ」


 俺は八咫烏のカフスボタンをリュックから出して晃一に見せる。晃一はびっくりしているようだった。やっぱり何か知っているんだな。


「変な烏天狗のお面した兄ちゃん、オマエの知り合いだろ? うちの神社で落としてったんだよ。どこかで会うかもって持ってたんだけど、会えなくて。オマエが一緒にいるところ見てさ」

「おまえが持っていたのか」

「あの兄ちゃんとオマエ、どういう知り合いなんだ? 顔は見えなかったけど……多分二十半ばとかそんな感じだろ? 結構年上じゃん?」


 晃一はカフスボタンを握りしめて、口を真一文字に結ぶ。何か決意したように俺には見えた。


「話す。話すよ、だから、笑わないで聞いてくれ」


 窓の外を見て、また俺の方を向く。


「もうそろそろ着く。後でちゃんと話すから」





 ホテルでチェックインを済ませ、夕食の時間を確認してから俺達は外に出た。


 子グマを見たり、ショーをみたり、餌をあげたり。そんなことをしながらクマ牧場を散策していると、タヌキがいるという小屋の近くで先頭を歩いていた晃一が立ち止まった。園内の外れ、クマのいる所と比べると全然人がいない。タヌキもかわいいのにな。みんな見ればいいのに。


「みんなに話があるんだ」


 晃一の改まった様子に、俺達も自然と背筋が伸びる。


「いつか話そうとは思っていた。四月になったら別れてしまうから、これがいい機会だと思う。笑わないで聞いて欲しい」


 傾いた夕日が差し込む。十八年の付き合いの中で、一番と言ってもいいくらい真剣な顔をしている。晃一は深呼吸をしてから口を開いた。


「俺には妖怪が見えるんだ」


 ああ、やっぱりそうなんだ。晃一の目には、俺達には見えないモノが映っているんだ。俺を含めて、誰も何も言わない。そんな俺達を見て晃一はぽかんとした顔になった。


「何だその反応、もっと驚くとか、馬鹿にするとかないのか」

「いや、薄々気付いてたっていうか……」

「朝日君時々何もないとこ見てるでしょ?」

「わたしこの前何もない所に話しかけてるの見ちゃったし……」


 晃一は溜息をつく。


「気持ち悪がられるんじゃないかとか、信じてもらえないんじゃないかとか、色々不安で今まで言えなかったのに何なんだよ」

「晃一のくせに分からないのか? 気持ち悪くないし、信じてるんだよ」

「何が見えるとかさ、関係ないよ」

「こーちゃんは大事なお友達だもの!」


 晃一はほっとした様子で表情を緩めた。


「ったく水臭いぞ晃一。もっと早く言ってくれれば、オマエが困ってる時とか助けられたかもしれないのによ」

「ありがとう、ごめんな」


 バスの中での会話とこの流れ、まさか。


「あのさ、お面の兄ちゃんって……」

「顕現した状態の神様だ。いつも守ってくれている」

「神様」

「神様の知り合いがいるの?」

「こーちゃんすごすぎ」

「俺からするとおまえ達の飲み込みの速さの方が怖いんだけど」


 あの烏天狗のお面が神様なら、狐面のやつも神様だったんじゃ……。俺、神様にいい神職になるって言われたのか? すげえ。


「言うの怖かったんだけどさ、言ってよかったと思う。おまえらが友達でよかったよ」


 俺は主人公なんてごめんだからな、晃一みたいなやつの友達でいいんだよ。


「あ、そうだ! ねえ、麓の売店でおそろいのストラップ買おうよ!」

「そうね! 行ったとこでそれぞれ何かおそろいのものを買うの! 楽しいわそういうの!」


 女子二人に促されるようにして、俺達は山を下りた。


 晃一は引っ掛かっていたものがなくなったような、肩の荷が下りたような、そんな顔をしていた。もっと頼ってくれていいんだよ、俺達のこと。これからは声かけてくれよな。










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