魔法少女の夢
――夜空を翔る流れ星を今、見つけられたら何を祈るだろう。
昔大好きだったゲームの主題歌の歌い出しだ。
当時は夢とか希望とかあまり深く考えていたわけじゃないが、今の私なら間違いなく願うだろう。
「幼女の!!!!! おぱんちゅが!!!!! 欲しいっっっっっっっ!!!!!」
「死ね変態っ!」
「ぐぼぁっ!?」
……ちょっと聞き苦しい雑音が混ざってしまい申し訳ないが、今の私の願いはただ一つ。
「変態は死ねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ぎゃわぁーっ!?」
これに尽きる。
「あ、あのリーフちゃん? 言葉づかいは気を付けてほしいにゃわん。仮にも魔ほ――」
「ちっ! 下がっててマン太! あの変態……」
『ふふ……ふふふふふのふ♪』
「ぼ、ボクはマン太なんて変な名前じゃないにゃわん!」
「そんなことどーでもいい! いいから下がる!」
『ふははははははぁー! もっと、もっと私を蹴ってくれぇーっ!』
「まだ生きてる!」
「え、えぇー……? 『生きてる』って、ヤる気満々だったにゃわんかぁ……?」
「あたり前田のクラッカーよ! あんな変・態! 生かしておいた方が危険よ!」
『おぱぁ~んちゅぅ~! おぱぁ~んちゅぅ~をみせろぉ~!』
「……た、たしかに危険人物だけど、さすがに命までは……ほ、ほらリーフちゃんは一応愛と正義の魔法しょ――」
「愛と正義のためには、尊い犠牲も必要なの! まぁ、アレは尊くもなんともないけど」
もし仮に、
「それにね、私はまだ認めてないから」
「な、何をにゃわん?」
仮に子供の頃の願いを叶えられたとしたら、私はそれを願うだろうか?
「その魔法……(ごにょごにょ)……っていうの」
「え? 聞こえないにゃわん?」
否、断じて願わないだろう。
「だから! 魔法しょ、しょう……(ごにょごにょ)」
「だから聞こえないにゃわん! もっとはっきり言ってほしいにゃわん!」
なぜなら、
「ふはっ! ふぁはははははははは! さぁ魔法少女たん! 早く私を蹴るのだ! さぁっ! さぁっ! さぁっ!」
「だーもうっ! 黙ってなさいよこの変態! 変質者! ロリコン!」
「おふぅ……! 幼気な少女に罵られる事……なんと甘露な一時♪ たぎってくるぅぅぅぅぅぅっ!」
「あーもうホントやだ! 何もかもがやだ。さっさと帰ってお酒飲みたい!」
「り、リーフちゃん! ま、魔法少女がお酒飲むなんて言っちゃダメにゃわん!? どこで誰が聞いてるのかわからないにゃわんよ!?」
「だからソレ! 私は認めてないから!」
まさか子供の頃の『魔法少女になりたい』なんて、バカみたいな夢がまさか叶ってしまうなんて夢にも思わなかったからだ。
「魔法少女!? やめてよ、こちとら確かに身長は低いけどにじゅ「にゃわーん!?」歳のれっきとした大人の女なんだからね!?」
「あ、あぶないにゃわん……全国の子供たちの夢をこわしてしまうとこだったにゃわん」
私、魔法少女“マジカルリーフ”こと、本名“神崎このは”、は今年で27歳。
まさかこの歳にもなって、ふりふりひらひらの衣装を着て魔法少女やる事になるなんて考えもしなかった。
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夜の帳はすっかり落ちて、空の闇にはぽっかりと穴をあけたようなまんまるの月が浮かんでいる。
ネオンライトの明かりのせいか小さな星々の輝きは見えず、たまに強く輝くのは夜間フライトの飛行機かはたまた人工衛星か。
「なんて、現実逃避している場合じゃないわね。これが果たして現実と言っていいかは別問題だけど」
「おぱぁ~んちゅぅ~! おぱぁ~んちゅぅ~をよこせぇ~!」
「変態に磨きがかかってんじゃないのよもうっ!」
伸びてくる魔手にひらりと身を翻し、夜の闇の中に華やかな色を咲かせていく。
オレンジを基調としたいかにもなドレス、つまりはアニメや漫画の中でみるような魔法少女のコスチューム。
「まさか、自分で着る事になるなんて、ね」
「ふむぅ? 下はドロワーズか! フハハハ! いいぞ! いささか残念ではあるがこれはこれで趣深い!」
「ちっ! 死ね変態!」
「おっと」
回転の遠心力と体重を乗せた渾身の蹴りだというのに、体格差のせいか片手でなんなく受け止められてしまう。
片足吊りの状態で全身を舐めまわすように見回され、嫌悪感で体中がどうにかなりそうだ。
「はぁーなぁーせぇー!」
「こらこら、小さき淑女。私を罵る分には一向に構わないが、言葉づかいには気を付けたまえ。そんな事は立派な女性になれないぞ? ならなくても良いがな!」
「黙れロリコン!」
「そう! そういうのはもっとちょーだい!」
「死ねっ!」
もう片方の足で必至に変態男を蹴るが、無理な態勢からのキックには全く威力が伴わない。
というか、喜ばれているようで気色が悪い。
小学生男子にも劣るささやかな攻撃は男の着ているスモッグ(幼稚園児などが着ているイメージのあるあの服)に吸収されてしまった。
「ぷはぁーっ♪ くんくん……」
「な、か、嗅ぐなぁ!」
「甘露甘露ぉ! 少女の足のにおひのなんとかぐわしい事か……♪ まるで秘密の花園に植えられた小さなタンポポのよう!」
「黙れー!」
口に咥えたおしゃぶりを取り、変態スモッグ男が徐々に顏を近づけてくる。
「ま、まって何する気!?」
「んふふぅ~♪ prpr~prpr~♪」
「ひぃっ!?」
メガネの向こうの目は、完全に逝ってしまっている。
視線の先は、当然私の足。
「prprprprprprprprprprprprprprpr……」
度重なる嫌悪感の波状攻撃にさすがの私ももう限界値、眩暈で倒れるかと思った。
「……もう、無理! マン太!」
これだけはやりたくなかったが、もはや手段を選んでいる余裕はない。
「だから、ボクはそんな変な名前じゃ――」
「ごめん(ぎゅむっ)」
私はネコとも犬ともつかない可愛らしい姿のマスコットをムンズとつかむと、
「――な、い?」
「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」
「にゃわぁぁぁぁあぁぁぁ!?」
男の股間部めがけて、思い切り振りかぶった。
ぼすん、という鈍い音がする。
「もにゅん!?」
「おぅっふぅ……!」
低いうめき声がすると同時に私を拘束していた手が緩む。
チャンスとばかりに私は拘束を解いて半回転、着地よろしくクラウチングスタートの構えをとる。
「に、逃げるわよ! 一時撤退!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
一度体制を立て直す必要がある。
しゃがみこんで悶絶している男を尻目に、私は夜の闇を駆けた。
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「……死ぬかと、思った……」
暗がりに隠れて息を整えると、どっと汗が噴き出してくる。
恐かった。
あんな恐ろしい思いをしたのは生まれて初めてかもしれない。
へんたいこわい。
「ねぇ、リーフちゃん?」
「……助かったよ、マン太。ありがとう」
「どうしたしまして……じゃなくて!」
案の定、鈍器代わりに使用された我が親愛なるマスコット様は大変お怒りのようである。
「ナニカナ?」
「わかってるよね? ボクは魔法の妖精マンチカータ=スロベッキアーナ=ハニャンタ。『マン太』なんて変な名前でもなければ、魔法のステッキでも、まして痴漢撃退グッズでもないんだけど!?」
「だからゴメンって……語尾忘れてるよ?」
「わにゃん!」
「そんなとってつけたように言わんでも……」
「うぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「いやゴメン。ほんとゴメンなさいって」
「つーん!」
まあ確かに男のナニに思いっきりぶつけられたら、そりゃ怒るのも無理はないか。
私が同じことされたら……うん、友達をやめるレベルだもんな。
「帰ったらプリンあげるから、ね?」
ぴくり、と可愛らしくお耳が揺れる。
「……クリームは?」
「つけるつける」
「……フルーツは?」
「つけるつける。確かサクランボがあったはずだからつけちゃう! それも3つ!」
「……しょうがないわにゃぁん♪」
「(ちょろいな)」
そんなこんなで、なんとか我がマスコット様とは無事和解成立となったわけだが、一番大事な問題はまだ片付いていない。
現在進行形で発生中なう、である。
「で、とりあえず確認だけど……」
路地裏からひっそりとネオンに彩られた繁華街を覗き込むと、
「びえぇぇぇぇん!」
「ままぁーっ!」
「くらいよぉー! こわいよー!」
「Oh 阿鼻叫喚……!」
そこには無数の泣きじゃくる子供たちの姿があった。
少年少女、幼女に園児……どこを向いても子供しかおらず、保護者の姿は全く見えない。
否、
「あれ、全部大人。オーケー?」
「どうしてカタコトなのかわからないけど、そういう事にゃわん」
つい数時間前まで大人だったはずの者たちが子供の姿となってパニックを引き起こしているのだ。
思考まで低年齢化しているのか、子供たちは状況が理解できておらず泣きじゃくり、酷い有様となっている。
「で、原因がさっきの変態」
「そ、そういう事にゃわんね」
「自分がロリコンだから、周囲の人間を退行化させてパラダイスにしようとしたとか、そんな感じ?」
「た、多分そう……にゃわん?」
とんだ変態じゃないか。
分かっていたことだけれど。
「願う方も願う方だけど、叶える方も叶える方ね」
「あ、アハハハ……ほんとにゃわんね。間違いなく“デザイアストーン”のせいにゃわん」
「でしょうね」
これだけの支離滅裂な状況を生み出しておいて、むしろ違ったらその方が驚きである。
「『人の欲望を吸って現界させる魔の石』か……」
「ち、違うにゃわん! デザイアストーンは『人の夢を集めて叶える夢の石』にゃわん! 素敵な物なんだにゃわん!」
「……同じ事よ。叶える願いの善悪の判断がなければ、それはただ無差別に欲望を叶えるだけの『はた迷惑なシロモノ』でしかない。現に――」
「びえぇぇぇぇん!」
「ままぁーっ!」
「くらいよぉー! こわいよー!」
「――こうして悲しんでいる人たちがいる」
「……にゃわん」
目に見えてしょんぼりするマスコット。
その姿も愛らしいと思ってしまうから、つくづく自分の少女趣味が恨まれる。
「ごめん、ちょっと言い過ぎた」
「にゃわん……」
もふもふと頭をなでると、私は騒乱の中心部を見据える。
『どぉこぉだぁ~! よぉ~うぅ~じょぉおおおおおおおお!』
そこには町中にあふれる少年少女に見向きもせずに、ねばっこい眼光で獲物を探す変態男がいた。
間違いなく、狙いは私だろう。
「悪いのは全部アイツ、どんな物も使う人しだいで正義にも悪にもなる」
「リーフちゃん……」
『むぅ? 今どこからか声が……?』
「まぁこんなんでも『愛と正義の魔法少女』だからね。この“宝石”が悪い物じゃないって、証明すればいいんでしょ?」
「うん!」
胸に輝くハートの形をした宝石。
ダイヤの様に煌めき、内に七色の虹を宿す“夢の石”。
人の願いをかなえる、魔法の石。
『おんやぁ~? チミは、学生さんかなぁ~?』
『ひぃっ!?』
『ダメじゃないかぁ~? チミのような学生がこんな時間を出歩いちゃ……』
願ってしまったのは、幼き日の夢。
女の子なら誰しもが一度は夢見る、小さな願い。
『へ、変態!?』
『んふふぅ~♪ ダメだねぇ~。目上の人間に対するものの聞き方がなってないよぉ~? チミのようなBBAにね、罵られても昂ぶらないんだよねぇ~イラつくんだよねぇ! BBAのくせにさぁ~!』
『あ、あぁ……』
魔法少女になりたい。
『どいつもこいつもボクのことバカにしてさぁ! ふっざけんなよマジで! てめぇらBBAの意見なんて聞いちゃいねぇんだよ! あ? 死にたいのか死にたいんだろ死なせんぞこらぁ!」
『や、やめて……たすけて……!』
『誰が発言を許可したぁ!』
魔法少女になって、
「しねよぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「きゃぁあああああああああああああっ!」
「いい加減にしろ、変態野郎」
困っている人を助けたい。
「あっはぁ~♪」
「だ、だれ……?」
「一応魔法少女、かな」
それが、私の願い。
「ょうじょキタァァァァァァァァァァ!」
「……こーいう変態が許せない、通りすがりの魔法少女」
私の夢。
「おぱんちゅよこせぇぇえぇぇぇ!」
私は一度全力キックで変態男を弾き飛ばす。
「あはぁ! ありがとうございますぅー!」
「引き離せたけど、ダメージは無し。……やっぱり私一人じゃ無理ね」
「あ、え? 魔法、少女? 助けて、くれたの?」
でも、今の私は一人じゃない。
「言って! アナタの願いは何!?」
「え……?」
変態怪人の手を踊るように払いながら、私は腰を抜かして動けないでいる少女に問いかける。
「アナタはどうしたいの!? 早く答えて!」
私は魔法少女。
その願いは『困っている人を助けたい』
自分で願う事は許されない。
「た、助かりたい……?」
「おぱ! おぱおぱおぱぱぁぁぁぁぁぁっ!」
「あぅっ!?」
「おぱんちゅだぁぁぁぁぁ♪ あはぁぁあぁ……♪」
人間離れした動きに翻弄され、ドロワーズを爪で引き裂かれる。
切り刻んだドロワーズの切れ端を咥え、舐め回し、噛みしめている変態は生理的に受け付けないが、おかげで動きが止まった。
「だ、だいじょ……」
「大丈夫。いや精神的にはきっついけど、まだイケる」
とはいえ、さすがにきつくなってきたのは事実。
いかに夢と魔法の力で強化されていたとしても元は27歳、インドア派な私。
さすがに体力のげんか……ゲフンゲフン。
「それより!」
「ひゃ、ひゃい!」
「お願い! アナタだけが頼りなの! この場でまともに願いを言えそうなのはアナタしかいないのよ!」
「ど、どういう……?」
「私の魔法は『人の願いを叶える』魔法、自分のために使えないの!」
「あっはぁぁぁぁ……♪ カンロダナァ…………♪」
「ちっ!」
どうやら、もうお食事タイムは終了のようだ。
「ハイテル、オパンチュ、カンロ、カンロ、カンロダロォ?」
「ますます気持ち悪くなってんじゃないのよ! お願い、急いで!」
「ま、待って! 急げって言われても……それに願うって何を!?」
右から襲いかかってくる爪を右手でいなし、下から来る爪を蹴って方向転換、変態男自身の顔にあたるよう調整する。
「グェァ!?」
「よっしゃ、これで舌はつぶした! これでもう気持ち悪い舌なめずりは……!」
「prprprprpr……!」
「ひぃっ!? お、お願い! コイツをどうしてやりたいか願って!」
「ど、どうしたいかって……!?」
油断したのも束の間、両手を強い力で拘束されてしまう。
「ンハァ~ンハァ~♪ クンカクンカprpr……」
「くっさ! 生ぐさっ! やめてこないでちかづくなしねばかうわーん!」
「モット、ノノシッテェ~♪」
「この変態ロリコン犯罪者! お願い早く!」
「え、えっと……そ、その人を倒したい、とか?」
「もっと具体的に!」
近づいてくる顏を足で何とか抑えるが、今度はそのせいでスカートの中が丸見えになる。
当然、
「オパンチュダァァァァァァァァ♪」
変態はヒートアップしてくる。
「オパンチュホチィ~♪」
「ひぃっ!? や、やめ、何で舌伸びてんのよまじもう最悪!」
先ほど封じたと思っていた舌が、なぜか伸びて膝を、太ももをにゅるりにゅるりと這い登ってくる。
もし私が本当の魔法少女だったなら、これだけで気絶していただろう。
「お願い早く願ってぇー!」
「え、えっと……その変態をぶっとばしたい!」
「もっと! もっと強く願ってぇー!」
舌がお尻に触れたので酷い悪寒が走る。
しかもあろうことかあれほど執着していた下着に触れようとせず、まるで私を嬲り恥ずかしめんとするようにスカートを徐々に持ち上げていく。
本当に悪趣味な変態だ。
「へんたいへんたいへんたいへんたい!」
「アハァ~♪」
「変態ロリコン野郎は死ねー!」
「BBAはスッコンデロォ!」
「ダメ、まだ足りない!」
「アハァ~♪ オパンチュゥ、ミィツケ……」
「ひっ!」
ばさっ、と捲られ露わになる下着。
ここまでか、と私は貞操の危機に覚悟を決める。
「タ?」
黒のレースをあしらった、ちょっと大人のシックな下着。
「……は? なえるんですけどぉ~?」
「…………はぁっ!?」
途端に、拘束が緩んで地面に落とされる私。
正直、何がなんだかさっぱりわからないが、先ほどまで変態的な動きを見せていた男が、急に正気に戻るのを感じた。
これは、ラッキーなのか?
「魔法少女たん、いい? そういう大人な下着はもっとBB……大人になってから履く物であって、今の君にはちょっと背伸びしすぎだと思うんだ」
「もっと……もっと……?」
「いいかい? 君ぐらいの年の子はもっと歳相応の……例えば綿のプリントパンチュとか!」
「もっと強く……? もっと強く変態を……」
「そう、そうそれだよ! 百歩譲ってもシマシマオパンチュ! も、もし悩むようなら私が買ってあげよう、だから今すぐその無粋な布きれを脱ぎ捨てて……」
「……あのさ、ツッコミたいことは山ほどあるんだけどさ。とりあえず一つ言わせてもらうんだけど」
「うん?」
どうやらこの男、本物らしい。
思えば自分が退行化させた大人たちにも見向きしていなかったようだし、まさかとは思うが。
「私、こんな見た目だけど今年で27歳」
「は? BBAじゃん? オエーッ! パンツ食っちまったじゃねえかよサイッアク!」
ぶちぃっ、と私の中で何かが切れた。
なるほどなるほど、この豚野郎は見た目だけじゃなくて中身も若くないと許せないと。
なるほどなるほど……さて、どうしてくれようか。
「お嬢ちゃん、願いは決まったかしら?」
「えっと……! そ、その変態××××野郎の×××を××××して、××××で××××で、××××にしてやりたい!」
「お嬢ちゃん」
「ひっ!?」
その時私は、果たしてどんな顔をしていたのか。
「その願い、叶えちゃうぞ☆」
「うわキツ」
私は願う。
胸の宝石に想いをこめて、踊るように歌うように願う。
「まじるん、ふわるん、ミラクルるん! 想いよ、届いて――」
「おいおいw BBAが無理すんなよwww」
「そこの変態××××××××野郎の×××を××××して、××××で××××で、××××にして××××で××××してぶっ飛ばしてやりたい!」
「そ、そこまで言ってなかったような?」
想いは繋がり、願いは届く。
そして、奇跡が起こる。
「さぁ、お遊戯の時間よ?」
「え、あのちょ……?」
ズドン、とどこからともなく落ちてくる100tnハンマー。
肩に担ぐと、重みで少しアスファルトが凹むが、魔法の力で私には一切影響がない。
いやぁ、魔法ってすごいわ。
「|懺悔は済んだかしら? 豚野郎。もし足りなかったなら地獄で閻魔様の前でするといいわね《さぁ、悪い子はお仕置きしちゃうぞ☆ 今更反省したって、遅いんだからね☆》」
「い、いやあの、私幼女にいたぶられるのは大歓迎なんですが、BB……お姉さまにいじめられる趣味は……」
「問答★無用!」
ドゴォン、とすさまじい音があたり一面に響き渡る。
そこから先の事はあえて発言を控えるが、とりあえず。
「命だけは助けてあ・げ・る★」
「……う……うわき…………」
「死ね(ドゴォン!)」
「うごっふぅ…………」
悪は滅した。
傍らでマン太が複雑そうな表情を浮かべているが……
「どうかした?」
「あ、あの……リーフちゃん? な、なにもここまでしなくても……あのおしゃぶりの宝石。デザイアストーンさえ壊せば全部元通りって前に」
「あっれー? そうだっけー? リーフ、歳だから最近物忘れ激しくってぇ、テヘペロ★」
「え、あうん。忘れちゃってたならしかないねアハハ(目が笑ってない……)」
こうして、夜の繁華街を騒がせた事件は無事片付いた。
変態男の持っていた宝石を砕くと、退行化していた大人たちも元通りになり、ボロボロにしてしまった町は巻き込んでしまった少女の協力(願い)で元に戻すことができた。
あんな恐ろしい想いをしたというのに少女は『私への感謝を忘れたくない』と記憶を消す事を拒んだため、せめてもの償いにと家まで送り届けてきた。
最後に少女がはにかみながら言った、
『ありがとうございます、お姉さま♪』
という感謝の言葉が、私の胸を熱くする。
やはり、人助けはこうでなくちゃ。
「ねぇ、あの子……目覚めちゃったんじゃない?」
「正義の心に? やめてよー、私正義の味方とか、全然そんなのじゃないんだからー♪」
「い、いやそうじゃなくて……まぁ、いいにゃわん」
そう、私は正義の味方なんかじゃ全然ない。
自分のために魔法を使う事も出来ない、助けた人の笑顔が見たいだけのそんなちっぽけな存在。
それが、
「私は、ただの魔法少女だよ」
私の夢。