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角が有る者達 番外編または短編集  作者: C・トベルト
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【短編小説】悲劇を楽しめ!最終話

月明かりが照らす河原を、一台のバイクが駆け抜けていた。

それに搭乗しているのはバングとキンコだ。

バングが運転し、キンコがバングにしがみついている。


「あははへこのへへ!

 失敗しちゃったねバング兄!」

「残念無念悲しき結末!

 されど我らは諦めない。

 あの悲劇を繰り返さぬ為に。

 何度でも、何度でも、バッドエンドを君達に見せてやるのだ!」

「へへへ!

 バッドエンド!バッドエンド!悲劇を奴らに見せつけてやろう!」

「ああ、そうだな!悲劇こそ真実だ!」

「真実は悲しいものだよね!それをちゃんと教える私達は超優しいよ!」


バングもキンコも話しに夢中になっていた。

だから二人は気付かなかった。

後ろから迫ってきた物体に。


ゴオオオ!!


「ん?」

不思議な音にキンコが振り返ると、そこには

時速80㌔でこちらに向かってくる灰色の杭が・・


「ひっ!?ば、バング兄!」

「どうした我が君?」

「電柱!電柱がああああ!!??」


ズドオオオオオン!!!


二人を乗せたバイクを追い越して、電柱が道路に垂直に突き刺さる。

バイクはキキィィッという音をたてて急停車した。


「な、なんだこれは!?」

「バング兄!電柱の後ろ!?

 何かいるよ?!」


電柱の影からゆらりと何かが動いた。

その何かはカツン、カツンと音をたててこちらへ向かってくる。

二人が呆気に取られてみていた。


そして影の中から現れたのは・・シティだった。

真珠色のドレスを着飾り、透明なハイヒールを履いて歩くその姿はまるでお姫様のように綺麗だった。

彼女の長い髪が風で左横になびいてる。


「やぁ。お久しぶり。」

「君は、さっき会場にいた酒飲み女!」

「あ、あんた私達に何のようよ!」


あまりに突飛な現れ方をしたからか、二人の声は震えていた。

シティはニコリと微笑み


「あなた達は私の仲間を笑い、私の敵を傷付け、私の楽しいパーティーを台無しにした。」


すぐにギロリと睨んだ。


「だからここで潰す。鬼の手でぺちゃりと潰す。OK?」


タン、とシティはヒールを鳴らす。

すると彼女の足元から長さ2㍍位の鉄板が現れ、それはシティをのせてフワリと浮いた。


「哀れなサンタよ、地べたを這い蹲り私を見上げよ。」


既に4メートルは浮かび上がったシティは鬼のように愉快に笑った。

対して、バングとキンコはポカンと口を開けていたが、


「・・」

「・・ぷっ」

「・・・・くくっ」

「クククククククククク」

「アーーーっはっはっはっはっ!」

「アハハハヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!」


笑った。

狂喜を含んだ笑い声は、聞いても一緒に笑う事ができない。

そしてパチンと指を鳴らす。

同時に、シティの周りに大量の手裏剣が現れた。

数はおよそ10。


「今日はラッキーだよ。君」

「あははへへへ!

まさか悲劇を二度も見れるなんてねぇ!」

「「クロスマス切り!!」」


そして手裏剣は四方八方から高速でシティに向かって飛んで来た!


もしここでシティが避けようとすれば、この無数の手裏剣は何度も方向転換し、執拗にシティを切りつけただろう。

だが彼女は高鬼のシティだ。

彼女の頭に、危ないから避けるという思考はない。

彼女が考えるのは、己の力を誇示する事のみだ。

シティは勢い良く右腕を上げた。


「バベルタワーの再現!!」


そして、右腕を下げる。

それと同時にシティの周囲1メートルに大量の鉄板が出現した。

その数、およそ30枚。

手裏剣を遥かに凌ぐ数だ。


キキキキキキキキキキン!!!


手裏剣は全て鉄板に弾かれた。

しかも弾かれた手裏剣の上に一枚の鉄板が落下し、手裏剣を全て踏み潰す。


「なぁにぃ!?」

「ば、バング兄!

 あいつも物質移動能力者フーディーニだ!」

「そうよ。私の場合は2メートル以上の単純な形で単純な物質しか操れないけど。」


シティはニコリと笑う。

そして大きさ2メートルの鉄板はガチャガチャと音をたてて長さ40メートルの鉄塔に姿を変える。

鉄塔の中でシティはニヤリと笑った。

そして残り10枚の鉄板がバング達に襲いかかった!


ズドン!ズドン!ズドン!


と三枚の鉄板は判子のように地面に叩きつけ、


ヒィィィィィィィィィイイ!!!


と、別の三枚の鉄板は電動ノコギリのように高速回転して道路や街路樹を切り裂き、


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!


と、四枚の鉄板は横一列に並び、道路の上を転がっている。

それ等すべてはバングとキンコを狙っている。


「うお!何て荒々しい攻撃するんだ、君は!」

「あなたにこの壁を崩せるかしら?この攻撃を凌げるかしら?

まあ降参して警察に捕まって皆にごめんなさいするなら、半殺しで勘弁してあげるわ。」

「ぐぎぎ・・」


バングはギリギリと歯軋りした。

それを聞いたキンコは、ニコリと笑った。


「ヘヘヘヘヘヘ。

 じゃあ私の能力には勝てないわね!」


キンコの両手一杯に銀色に輝くナイフが出現した。

そしてそれは全てススに姿を変える。

シティにはまるでキンコの周りに10人のススが囲んでいるように見えた。


「!?」

「あたしは見たものを幻覚に出来るのさ!

 あんたはあんたの仲間を落とせるかい!?」


キンコは勢い良くススを、ナイフを投擲する。

シティの目にはススが10人こちらに向かって飛んでくるように見えた。

いや、ナイフだけではない。

周りの鉄塔までススに姿をかえていくではないか!

シティは思わずギョッとした。


「な、なんて恐ろしい危険な攻撃をするのよ!」

「あはは!鉄板で攻撃する奴に言われたくないよ!」


「きゃん!」「いた!」「あいた!」「いやん!」「ひえ!」


三人のスス(ナイフ)が一人のスス(鉄板)にぶつかって落ちる。

落ちるだけなのだが自分の親しい仲が傷つき倒れていく様はあまり見たくない。


「スス!や、やめて!」

(思った通りね。)


あわあわと慌てるシティを見て、キンコはニヤリと笑った。

その目線の先には鉄塔がガチャガチャと音をたてて揺れている。


(あなたの心は仲間の存在を必要としないと生きていけない程弱い。

所詮は仲良しグループの集まり、こうして精神的攻撃を加えれば簡単にあなたの牙城は崩せる。)

「あははへへへ!

 チャンスだよバング兄!今のうちにやっつけちゃえ!」


キンコはバングの方に笑顔で振り向く。


「わ、我が君・・我がいもうとよよよ・・」

「え」


そして笑顔のまま凍りついた。

何故なら、バングは顔色を真っ青にしてガチガチと歯を慣らしながら震えていた。

何かに怯えている。

キンコは凍った笑顔のまま尋ねた。


「バング兄?なにやってんの?」

「き、ききききき危険だ・・君だけでも

 逃げげげげ」

「無駄だ」


震えるバングのセリフを第三者のセリフが切り裂く。

キンコが振り向きとそこにいたのはケシゴが立ちはだかっていた。

サングラスは外してあり、強い意志の籠もった瞳でバングを睨み付けている。


「俺の目は貴様等を捕らえた。

 もう絶対に逃げられない。」

「ひ、ヒィィィ!!」


バングが恐怖のあまり情けない声で叫ぶ。

対してキンコは、ケシゴに向けてナイフを構えた。


「やる気か?

 やめとけ、俺に幻覚なんて意味がないぞ。」

「でも、あたしにもあんたの幻覚は効かないわ。 見た所あんたも私と同じ幻覚能力者サイコ・アーティストのようだけど・・」

「違うな」


キンコのセリフも、ケシゴに切り裂かれた。


「え?」

「俺は能力者じゃない。

俺は、『動物使い』の天才なん」

パオオオオオオオン!!!


そのケシゴのセリフも、大量の管楽器を一度に吹いたような音にかき消される。

キンコは嫌な予感を感じながらゆっくりと振り向いた。


パオオオオオオオン!!!


再度、あの大きな音を鳴らして闇の中から何か巨大なモノがこちらに向かって来る。

その正体が分かった瞬間、キンコは凍りついた。


「あわわわわわわ」

「なななななな、何で象がいるのよ!?」


そう、現れたのは象だ。

身長は3メートルはあり、その四本足は戦意を失ったキンコとバングを踏みつぶすには丁度いい大きさだ。

慌てふためく二人を見て、ケシゴは獣のように獰猛な笑みを浮かべた。


「貴様は俺の仲間を傷付けた。

 その代償ツケ、しっかり払って貰うぞ!」

「ヒィィィイイ!!」


キンコは叫びながらへなへなと座り込んだ。



「な、何だ?何なんだ!?何なんだよ!?君たちは!?」


同じように座り込んだバングが叫ぶ。

その顔に初めて会った頃の危険な笑みは無く、ただただ震えていた。

その後ろからカツン、カツン、と音をたててシティが近付く。

バングはヒィ、と叫んで振り向いた。


「な、何故だ何故なんだ!?

 ききききき君は我々と『同じ』『義賊』だろう!?」

「違う。あんたは私達とは違う。

 あんたはただの殺人者だ。」


真珠色のドレスを着飾った美しい女性は、震える男を見下ろした。


「あんたは地に落ちた殺人者。これからは暗闇に囚われて生きるのよ。」

「ヒィィィ!

な、何故だ、何故だ、何故だ!!!

悪いのは不正企業だろう!?

悪人は殺しても、誰も悲しまないだろう!?

だから我々は義賊になり悪人を殺し続けた!!

なのに何故、何故我々が悪人と呼ばれなければならないのだ!?」

「何故なぜうるさいわねぇ。」


シティは静かにバングを見下す。

そして、フッと笑った。


「あんまり五月蝿いから、一つだけ真実を教えてあげる。」

「!?」「!?」


その言葉に驚いたのはバングと、ケシゴだ。


「真実?」とケシゴは首を傾げる。


シティは笑みを浮かべながら震えるバングの耳に顔を近付ける。


「私の名前は、シティ。

シティ・グールよ。」

「し、シティ・グール?

 ・・・・

 ああっ!!」

「納得した?

ならさっさと黙りなさい。手伝ってあげるから」


ゴン、とシティはバングの頭を殴った。

バングは満足したように笑いながら、気を失って倒れた。


「シティ・グール。

そうか、そうだったのか・・。」


ケシゴがシティを見ながら呟く。

そしてハッとしたようにサングラスをかけた。

これで『恐怖の魔眼』で人を怯えさせる事は出来ない。


「あら、聞こえてたの」

「驚いたよ。

君がまさかあのパーティーの主催者、ジャン・グールの娘だったなんて。」

「・・悪いけど、その話しはこれ以上したくないわ、」


シティは何も答えず、自分の足元に鉄板を出現させた。

そして静かに鉄板に乗り込むと、右手を差し出した。


「?」

「あなたの仲間が心配なんでしょ?そこまで送ってあげる。」

「な、そ、それは・・」


警察てして、犯罪者と手を繋ぐというのはしてはいけない事だ。

いつものケシゴならそう言って断った。

しかし、今目の前にいるのは親族を守る為一人で戦おうとした勇敢な女性だ。

ケシゴはサングラスの下の瞳を一度閉じた。

そしてまた目を開く。

そこに迷いはなかった。


「今日は君にエスコートされるとしよう。」


そして右手を差し出した。




二人を乗せた鉄板は月明かりに照らされながら、ホテルへ向かって飛んでいく。


「ペンシは、大丈夫だろうか・・」


ケシゴは思わず呟く。


「大丈夫よ。だってあの医者、ダンクが化けた奴だもん。」

「え」

「あいつの回復魔法は凄いから、今頃ピンピンしているでしょうね。」


ケシゴが固まる。


「あんたを連れ帰ったら、私達ダンクの魔術で逃げるから。

今回は追わないでよ~?」


シティはケラケラと笑う。

ケシゴは頭を抱え、


「やられた・・。貴様等に借りを作る事になるなんて・・!」

「ま、諦めなさい。」


シティはポンポンとケシゴの頭を叩く。


「だが、次はそうはいかないぞ。

絶対に捕まえてやる。」

「どうぞどうぞ♪

私達小鬼達ゴブリンズは騒がしい事が大好きだから、いつでも歓迎するわ。

ま、そんな付き合いも含めて・・・」


シティは鬼のように愉快に笑った。


「明けましておめでとうございます。

どうぞ今年も、よろしくお願いします♪」


 完

この話は数年前の冬に書いたものです。

 一話一話書いていたらかなり時間がかかり、三ヶ月ぐらいかかったのをおぼえています。

 そしてこの時から、自分の小説で短編小説を書く楽しさを覚えました。

 自分のキャラの違う一面や意思が見れるのは、書いていて驚きの連続です。

 もしこれから長編小説を書きたい、または書いている方は、一度長編小説のキャラ達で短編小説を書いてみてはいかがでしょう。

 では、次回までお楽しみに。

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