【短編小説】悲劇を楽しめ!第四話
「ペンシイイイィィィ!!」
ケシゴは大声で叫んだ。
煙りがスゥッと晴れ、現れたのは、
酷い姿に変わり果てたペンシだ。
全身に酷い火傷を負っている。
白いスーツは黒こげになり、顔の方は火傷でよく見えない。
更に吹き飛ばされて床を転がったのが災いし、身体のあちこちにトラバサミが噛みついていた。
遠くから見ているケシゴには、ペンシが生きているか死んでいるかよく確かめる事が出来ない。
「!!」
ケシゴは思わず飛びそうとして・・止まった。
いや、止められたのだ。
床一面に敷かれているトラバサミによって。
「く!ペンシ!大丈夫か!」
「・・」
返事はない。
「まるで屍のようだ、か?
よくやったぞ妹よ、君のおかげでいい悲劇が見れた!」
「あははへへへ!
そうだね、今のはいい悲劇だった!」
バングの声に答えたのは頭に水玉模様のバンダナを巻いた金髪の女性だ。
真っ赤なセーターを着て、左手にはバスケットを抱えている。
女性はあははへへへと笑いながら、バングの方に歩いて行った。
「私、蛮キンコの能力で爆弾を幻で隠し、奴に悲劇をプレゼントしたわ!!」
「素晴らしい。素晴らしいぞ妹よ!
君は素晴らしい妹だ!」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
アハハハハヒヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!!!
「痛い!」
聞き慣れた声にシティは振り返る。
見るとアイとハサギが尻を両手で抑えてぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「し、尻が痛い!かまれた!」
「ノリー!抜いてくれー!」
シティはあまりのアホらしさに目を背けた。
パーティー会場に二人の狂った笑い声が響き渡る。
それを断ち切るように、ススは二人に話しかけた。そしてノリがトラバサミをどかしながら少しずつペンシに近付く。
「・・あなた達が『バッドエンド・サンタクロース』の蛮バングと蛮キンコね。」
「ん、君は?警察か?」
「よく知ってるわ。
蛮バングは直径2メートル以下の物質をテレポートさせることが出来る能力。
そして妹、蛮キンコは物質を媒介に幻覚と幻聴を作る事が出来る能力。
そして、爆発物を瞬間移動させて涙を流す少女の幻覚を造り相手が油断した所で大爆発。
外道なやり口だわ。
あんたみたいな奴がいるから、私達みたいに真っ当な義賊が嘘付きのロクデナシと呼ばれるのよ。」
ススは二人を侮蔑と憎しみを込めた目で睨んだ。
だがバングはニヤリと笑い、
「君は義賊ゴブリンズの副首領、ススだな。
正義には犠牲が付き物と解ってない大甘義賊。そのお嬢ちゃんじゃ、私達の素晴らしい芸術は理解出来まい。」
「アハハヒヘヘヘ」
キンコは気色悪い笑みを浮かべる。
そして銃を構えた。
ススを殺す気だ。
「ペンシさん、大丈夫ッスか!?」
「ぅ・・・・ぁ・・ぁ・・?」
僅かだが、ペンシは答えた。まだ生きている。
ノリはホッと一息ついた。
「ケシゴさん!ペンシさんは生きているッス!まだ大丈夫ッスよ!」
「!」
その一言で会場内から沢山の安堵の溜め息が漏れ、
2つの笑い声が消えた。
「何?生きている?君、生きているだと?
馬鹿な、顔面に爆発を受け、全身にトラバサミで噛まれているのだぞ!?」
「アハハハハヒヘヘヘ。
タフな奴。
あたしのシナリオ通りに死ねよ!」
二人はペンシをにらみつけ、銃を向ける。
しかし・・
ガガカガガガガガガカガガ!!!!
という奇妙な音が聞こえたと同時に、二人が持っていた銃は粉々に吹き飛ぶ。
「あれ?」
「え?」
二人は同時に首を傾げようとして、
「はい終わり」
いつの間にか後ろにいたススがバングにナイフを突きつけていた。
「う!?」「バング兄!?」
「悪いけど時間が無いの。
作者のスクラップのせいでね。」
「ペンシさん、大丈夫ッス!
今、医者が来るッスよ!」
「・・ぁ・・ぅ・・」
ノリがペンシを励ますその声。
そして遅れてドタドタという足音が聞こえ、白衣を着た男がやって来た。
「バルトという医者です。他に怪我人は?」
「いません!」
「ノリ、俺達は・・?」
「無視していいッス」
「ノオオオ!」
ハサギの絶叫が響き渡る。
少しだけ、空気が緩んだ。
しかしそれも一瞬。
「あははへへへ!
なんだ、これでハッピーエンド(幸せな終幕)になると思ってるの?」
楽しそうにキンコは顔を歪めた。
いや顔だけではない。
身体全てがぐにゃりと歪んでいる。
「!!
幻覚!?」
爆発が来たら自分は生き残る自信はない。
ススは急いで頭を伏せる。
しかし・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
何も起きない。
そ〜っと頭を上げると、バングとキンコはゲラゲラ笑いながらバルコニーへと続く扉の前に立っていた。
キンコがニヤリと笑いながらススに振り返る。
「あははへへへ!
ハッピーエンド(良い終幕)をありがとう!あなたは十分喜劇の主人公を演じたわ!」
「ハハハハハハ!!
では悪い子の皆さん来週を楽しみに。
我々『バッドエンド・サンタクロース』が本物の悲劇を見せてあげましょう!」
「そうそう、遅れたけど新年暮れましておめでとう!」
「バッドクリスマス!!」
二人はそういい残してバルコニーへ消えた。
ススはゆっくりと立ち上がる。
「・・シティ。ケシゴさん。」
「なんだい?
と言っても、分かってるけど。」
シティは笑いながら立ち上がると、鬼のように愉快な笑みを見せた。
対してケシゴは獣のように獰猛な笑みを見せる。
「ようやっと、私達の出番だね。」
「全くだ・・奴は絶対に捕まえる!!」