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角が有る者達 番外編または短編集  作者: C・トベルト
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無くしたと思ってたアレが出てきた日~気付き~

 

 昔から、腕が無い事で不安な事なんて無かった。

 どうも俺は腕一本が生まれつき無い代わりに他三本の力が人並み以上に強くなっているらしい。

 いるかいないか分からない神様は俺にそんなバランス調整をしてくれたわけだ。

 いや、一人神様っぽい奴を知ってるから、多分いるんだろうけどさ・・・。


 俺にとって、不安な事は腕が無い事なんかじゃなかった。

 それよりもっと恐ろしいのは・・。



短編小説

 『なくしたと思ってたアレがでてきた話2』

気付き編


△  ▼  △  ▼  △  ▼  △



~作戦会議室~


アイ「はい、それじゃあ第45276回作戦会議を始めるぞ!

 まず点呼!」

スス「はいはい、1番」

ルトー「にー」

シティ「さーん」

ダンク「よん」

白山羊「五」

黒山羊「六」

メル「なな」

アイ「よし、全員いるな?

 では第753回作戦会議を始める」


 俺はいつものようにビシッとポーズを決める。ルトーは半分呆れ気味にツッコミを入れた。

 ユーは呼んでない。

 あいつはまだゴブリンズの一員じゃないからだ。

 あいつは今、学校の宿題をやっている。

 出来れば、将来を決めるには外の世界を学んだ後に決めて欲しい・・・なんて、実の親みたいな事をちらっと考えているのが半分。

 もう半分は、色々勉強して賢くなったユーが見たい、が半分だったりする。


ルトー「さっきと数字変わりすぎでしょ、リーダー・・」

メル「753・・・ああ、和み、か!」

ダンク「会議で和んでどうすんだリーダー・・・というか今回の議題は和む事なのか?なら・・・」


 ダンクがそれに続き、指をちょちょいと動かすと皆の席の前に紅茶とお菓子が現れた。

 ダンクの得意術は魔法なのだが、どうも便利すぎて羨ましい。

 

ダンク「まずは紅茶でリラックス。

 筋肉をほぐし、凝りをとる魔術に疲れを吹き飛ばす術まで様々あるぜ。

 そいつを片っ端から試してここの皆の疲れをとろうか?」

シティ「まーた凄い魔術を使ってきたわねー」

白山羊「紅茶なら、台所にいい茶葉があらりましたよ、それで一息つくのはどうですか?」

ダンク「ほう、その茶葉に興味があるな。

 今取り寄せて・・」

アイ「ウェイ!ウェイウェイウェイ!

 なーにを勘違いしとるかそこの中身空っぽミイラ!」


 とは言うものの、なにその魔術すごい興味がある。

 それが簡単にできたらマッサージ屋いらねえ。

 いやいや、今議論すべきはそこではない。そこではないんだ!


アイ「お前ら話が脱線しすぎだ!

 というか、最近の皆は弛みすぎてる!

 つーわけで今日はトレーニング2倍で行くぞ!」

スス「えー!」

アイ「うっせー!

 俺とシティとメルは今日!ススとダンクは明日からだ!白山羊、黒山羊、ルトーは明後日から!」

ルトー「うそ・・・まじ?」

アイ「マジもマジだ!

 理由だって一杯あるぞー!」


 理由なんて何も考えてない。

 だが日々の努力はやらないよりやった方が良いだけだ。

 こう、少しでも何か頑張らないと何も出来なくなるからだ。

 他ならぬおれ自身の体験談を語るべきか一瞬迷ったが、それを言うと話が長くなるので今回は割愛する。


アイ「さあ行くぞ我が精鋭たち!

 終末戦争(ラグナログ)はすぐちかくまで来ているからな!」

シティ「はーい、分かったわー。

 いや、それにしてもリーダーと戦えるなんて久しぶりで私、腕が鳴るなー!」

メル「ぼ、僕は逆に怖いです・・・」

アイ「それじゃあ今日は解散だ!各自新しいミッションに備えて待機しとけよ!」


 対称的な反応を示す二人を尻目に、俺は部屋を出ていこうとする。

 それを止めたのは、ダンクだった。


ダンク「リーダー、ちょっといいか?」

アイ「ダンク?なんだ?」

ダンク「この前言ってた新型魔術なんだが、ようやく完成したからそれだけ報告したくてな。

 トレーニングが終わったらなるはやで俺の部屋に来てくれ」

アイ「おう、分かったぜー。

 ・・・あいつでもなるはやって言葉使うんだな」


 後半の言葉は聞こえないよう小さく呟いた。普段が普段なだけにちょっと面白い。

 後で色々話したらぼろぼろ出てきそうだ。

 これはあいつの部屋に行くのが楽しみになってきたぞ。


△  ▼  △  ▼  △  ▼


~作戦会議室~


アイ「そんな談笑してたのが、少し前だったか・・」


 今、俺は作戦会議室に立っている。

 目的である腕はおろか、人の姿さえ見受けられない。

 一体なんでこうなったんだろう?

 いつもならシティとダンクの喧騒とかルトーの怪しい研究とかが聞こえてくる筈なのに、今は静寂が支配している。


アイ「は、まさかこれはアレか!?

 超ハッピーラッキーライフに見せかけたなんかよく分からない重い話が出てくるという、そんでもって最後はただの夢でしたーって奴!同人小説家がネット短編小説でよくやるアレ!

 俺はよく被害あってるから詳しいんだ!

 だったら今すぐやめてくんないかな!?

 俺は難しいこと考えるの苦手なんだよ・・・うん?」


 叫んだついでにもう一度部屋を睨み付けると、そこにはチューブが机の上に置いてあった。

 文字を見ると『強力接着剤ザ・カチリ!』と書かれている。


アイ「こ、これは俺がユウキ時代に良く使ってたイタズラの相棒、ザ・カチリ!

 懐かしいな、確かここで・・・あ、し、しまったあああ!」


 気づいてももう遅い。

 俺は懐かしさであの日の出来事を思い出してしまった。


△ ▼ △ ▼ △ ▼ △


~昔の作戦会議室~


イシキ「それでは次の戦いでは天才軍の物資を直接狙う戦いを重視するぞ。

 出来れば捕虜も何人か欲しい。情報をたくさん得られるしな。

 さて、今日の会議はここまでじゃ」

議長「起立!」


 軍会議ではイシキとは別に議長が話を聞き、他の参加者に命令していた。

 この命令は書記以外全員が聞かなければいけず、俺もよいしょと立ち上がった。

 しかし、ただ一人立ち上がらない人がいた・・・イシキが立たなかったのだ。


議長「・・・む、いかがしました、イシキ様」

イシキ「い、いや立ち上がりたいんじゃが・・尻が椅子から離れん」

議長「な、なんですと?

 イシキ様、ここで冗談は・・」

イシキ「本当じゃよ。

 お主も手伝ってくれ」


 議長とイシキがあたあたと慌てている姿を見て、俺は動揺を装い心の中でニヤリと笑う。

 イシキがふんぞり返る椅子にこっそり接着剤を付けた甲斐があったというものだ。

 見ろよあのジジイ、椅子で踊りを踊ってやがる。

 だがイシキもまたギロリと俺を睨み付けた。だが大丈夫だ。俺の面の皮は厚いから、そう簡単にはバレる筈がない。

 なのに、イシキが大声で叫んだ。


イシキ「ユーーキーーー!!」

ユウキ「ヤバい!」


 俺は持ち前の素早さを活かして会議室から飛び出して逃げる。

 俺以外の奴等は全員、デスクにふんぞり返って大した訓練してない奴等だそんな簡単に捕まるわけ・・・。


イシキ「まああああてええええ!」

ユウキ「ぎょええええええ!?」


 と思ったら、イシキが鬼の形相で椅子に座った状態のまま手足を上手く使い四足動物のように走ってきた。

 尻に椅子がついてるから尚それっぽく見えてしまう。

 だがその姿を楽しむ余裕は俺にはない。


イシキ「貴様!

 今月で何度目のイタズラだ!?

 今度はワシが貴様にイタズラしてやる!

 全身の皮を剥いで肉をアリ共に喰わせてやるううう!!」

ユウキ「それはイタズラじゃない処刑だちくしょおおおおお!!

 絶対、絶対逃げてやるううう!」


 そして、四足動物と俺の、奇妙な鬼ごっこが始まった・・・。


△  ▼  △  ▼  △  ▼  △



アイ「・・・いやな記憶を思い出した。

 あの鬼形相のイシキからよく逃げられたよ俺、うん。

 だがこれで確定したぞ!

 ここは現実じゃない!

 誰かの意思で作られた偽空間だ!

 そいつが俺の腕を奪ったにちがいない!」


 つまり、今までの俺は完全に誰かの掌の上にいた訳だ。一体誰がこんなゲスい事を思い付いたか知らないが、こうなったらやる事は決まってる。


アイ「へん、この状況を見ている何処かの誰かはこのあと俺がトレーニングルームに行くと思ってるんだろ!

 そうはいかんぞ!行ったってどーせ少し前の記憶と昔の記憶を思い出すだけで何も見つからないんだろ!

 だったら、俺はこの状況を何とかしてくれそうな奴の所にいくだけだ!」


 俺はそう言い切ると、急いで会議室から飛び出していった。この状況で何とかしてくれそうな奴なんて、一人しかいないからな。



△  ▼  △  ▼  △  ▼  △


~中庭~


アイ「ユーキー!ユーキー!

 おーい、聞こえてるんだろー!」


 俺はユーキの中庭に訪れていた。

 この状況で最後に会ったのはこいつだけだ。だからこいつなら何とかしてくれるにちがいない。

 そう思いユーキの所に来たんだが、いくら血染め桜に向かい叫んでも声は返ってこない。

 枯れ木は枯れ木のままだ。


アイ「くっそ、居留守つかいやがった!

 ユーキ、なんでこんな事になったかキッチリ説明してもらうぜ!」


 俺は枯れ桜を睨み付けるが、桜はうんともすんとも言わない。まるで本当にただの桜の木と話しているみたいだ。


アイ「ユーキ?おい、なんか言えよ。

 ユーキー・・・ん?」


 不意に、自分の姿を影が覆い尽くす。

 見上げると電柱がこちらに向かって落ちてきた。


アイ「おお!?」


 ズドオオオオン!!


 俺が避けたすぐ近くに、電柱が突き刺さっていた。

 よく見ると電柱にはぼろぼろの手袋が貼られている。それを見ると、何かを思い出しそうで・・・。


アイ「ああ畜生!

 何がなんでも記憶の蓋をこじ開けたいんだな!?

 なんだよ?何が俺の記憶に入ってるってんだよチックショー!!」


 そんな叫びも空しく、俺の頭の中には2つの時代の記憶が呼び起こされていた。


△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △



ートレーニング・ルームー


アイ「はあああああ!」

シティ「アハハハハハハハ!

 リーダー!模擬戦だからって気を抜くとメルみたいになるわよ!」


 電柱が雨のように降り注ぐ空間を、俺はどうにかかわしながら逃げている。

 ルームの端では一瞬で吹き飛ばされたメルが白目を向いて転がっていた。

 あいつめ、もう少し打たれ強くならんといざという時弱いぞ・・なんて考えながらかわしていく。

 シティは鉄板の上で高笑いしながらも電柱を落とすのを止めない。


シティ「リーダー!あんたの氷じゃ私の雨を防げないわよ!

 どうするつもりどうするつもりぃ!?」

アイ「そんなんお前、雨に濡れないよう粒をかわせばいいだけだろ!

 不成者格闘術(ナラズモノコマンド)!」


 俺は息を整え、素早く飛び上がる。

 足に力を入れ、空を蹴って更に上に、上に飛び上がっていく。


アイ「天邪鬼飛角(アマノジャクジャンパー)!」

シティ「む、出たわねリーダーのインチキ足技!」


 シティが眉をひそめるその下で、俺は落ちていく電柱の隙間を上手く縫うように駆け上がっていく。

 そして、一本の電柱の下で天邪鬼飛角(アマノジャクジャンパー)を解除する。


アイ「不成者格闘術(ナラズモノコマンド)・・」

シティ「ん、飛ぶのを止めた・・?」

アイ「『鬼瓦之角達(オニガワラ・ホーンズ)』!」

 

 俺は力の限りをこめて電柱を蹴飛ばす。

 鬼瓦之角達(オニガワラ・ホーンズ)は蹴飛ばした物体を遠くへ弾き飛ばす蹴飛ばし技だ。

 さんざん、さんっっざんこの電柱で恐ろしい目にあった礼だ。

 これでシティに電柱をお返しさせてやる。

 しかしシティも丁度、こちらを見下ろしていた為に電柱が蹴飛ばされた事に気付いた。


シティ「げげ、私の電柱がこっちに!?」

アイ「『天邪鬼飛角(アマノジャクジャンパー)』!

 これでお前の負け・・」

シティ「だったらもっとデカイヤツをぶつけてやるわ!

 能力発動、コンクリート・ロード!」


 シティが叫ぶと同時に、ぼろぼろのビルが出現し、がこちらに向かい落下してきた。

 あまりに大きすぎる為にこちらが蹴飛ばした電柱がビルに刺さり、止まってしまう。


アイ「げ、げえ!?」

シティ「アハハハハハハハ!

 リーダー、このままビルに潰されちまいな!」

アイ「そうはいくかよ!」


 俺は諦めなかった。

 電柱が刺さった場面に向かい駆け上がっていく。ビルはもう重力に縛られ落下を始めていた。だが、俺が蹴飛ばした楔は外れない。


アイ「『不成者格闘術(ナラズモノコマンド)』・・」

シティ「リーダー!残念だけどこの状況じゃ小細工なんて意味がないわ!」

アイ「は!こんな盛り上がる場面でそんなセコい事するかよ!

 正面突破するのが一番かっけえじゃねえか!

 『鬼王顕現』!」


 俺の気を右手の拳一点に集中させていく。

 もっとだ、もっと強靭になれ、銀の腕。

 未来を切り開くために。


シティ「え、なに?」

アイ「鬼の宝を見せてやる!!

 宝撃、『天岩戸田力男金将(ゴールデン・アマノイワトノタヂカラオ)』!!」


 俺の右の銀の腕が輝き、思いっきり電柱に殴りかかる。電柱はその一撃を受け、もう一度空に向かい力をみなぎらせていく。


アイ「あああああああああああ!!」

シティ「げえ!

 リーダー、パワー思いっきり出してる!

 ええい仕方ない!逃げるわ!」

アイ「らあああああああああああ!」


 俺が再度拳をふるい、電柱を殴り付ける。宝撃を受けた電柱は先程の力より強く恐ろしい力で飛び出し、ビルを貫いていく。

 そしてシティが逃げた後の鉄板をやすやすと貫通し、トレーニングルームの屋根を突き破る。

 電柱はそれでも止まらない。上の階を全て貫き、屋上を突き破り空へ飛んでいき、

 ようやくその姿が消えていった。

 俺はそれを、落下しながら見届けた。


アイ「へ、どうだシティ・・てめえのパワーを、突き破ってやったぜ・・」


 俺は笑いながら落ちていく。宝撃を使った後はしばらく体を動かせなくなってしまうからだ。

 あまりに急に力を使った為か、意識が薄くなっていく。

 俺は目を開けられてなくなり、意識を閉ざしてしまった。



▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼


ートレーニング・ルームー


イシキ「それではユウキとセキタ、お前達の模擬戦を始める。

 両者、前へ!」

ユウキ「へ、やっと俺の出番か。

 待ちくたびれたぜ」

セキタ「・・・」


 俺は左手に特製手袋『Saya』がはめられてるのを確認した後、指をこきこきと鳴らしながらトレーニング・ルームの中心に立つ。

 対峙するのはセキタ。

 『悪魔』、或いは『最悪の能力者』の異名を持つ男だ。

 この俺が戦うには申し分ない。

 イシキがもう分かりきったルール説明をする。


イシキ「この模擬戦は実弾を使う以外、全てアリだ。

 ワシが見て戦闘不能と見なした時点で戦闘終了。分かったか」

ユウキ「当然だ」

セキタ「問題ない」

イシキ「それでは・・・始めっ!」


 イシキが号令を叫んだ瞬間、俺達は真っ直ぐ走る。

 互いに距離を詰めながら俺は左腕で、セキタは右腕で拳を作り、目の前の顔面に叩き込んだ。


 バキィガキィ!


 拳は交差し、互いの顔に直撃する。

 俺は顔が僅かに仰け反り、奴は口の端を切ったのか血を口から流した。

 だが、どちらの戦意は微塵も揺れない。

 俺は拳を開き、奴の顔を掴む。

 俺が鍛えに鍛えた左手の握力は他の奴等の比じゃない。並みの頭蓋骨なんか簡単に砕ける。

 奴の頭からミシミシと音を立て始めた。

 奴がせめてもの抵抗と言わんばかりに拳を作るが、もう殴る事には集中できない筈。だから俺はかわそうとはしなかった。

 だが、奴が振り下ろした拳は、俺の頭を大きく揺らす程に強力だった。


ユウキ「ぐわあああああ!?

 いてえ、なんだこの痛みは!?

 さっきと段違いだ・・・っ!?」


 思わず手が離れ、距離をとる俺の目に映ったのは皮膚の色が灰色に変化した男の顔と、拳だった。

 傷んだ左頬を抑えながら、俺は奴の情報を思い出す。

 そうだ、奴の能力は『硬質変化』と『軟化』。

 体を鉄より硬く作り上げたり、プリンのように軟らかくする事が出来る力だ。

 俺を見下ろしながらセキタは小さく呟く。


セキタ「時間が惜しい。

 さっさと終わらせるぞ。

 不成者格闘術(ナラズモノコマンド)

ユウキ「ちいいっ!

 不成者格闘術(ナラズモノコマンド)!」


 互いに足に力をいれ、構える。

 奴が次に何をするかなんて手に取るように分かる。問題はそれをされる前にこちらが早く発動できるか否かだ。


セキタ&ユウキ「『香車捷疾鬼(ランス・オブ・ショウシツキ)』!!」


 宣言した次の瞬間、互いの世界が朧気になる。香車捷疾鬼は超高速移動術。

 互いに発動が同時だった。

 俺は思い切り左手で殴りかかるが、奴は能力を使い硬化した皮膚で受け止めた。


ユウキ「ち、能力は織り込み済みか!」

セキタ「終わりだ」


 俺の鳩尾に、奴の蹴りが入り体が吹き飛ばされそうになる。

 それを耐えようと体を「く」の字に曲げてしまい、がら空きの背中にセキタの拳が入り、勢いよく頭から地面に突き刺さる。

 しかし地面に顔面をぶつけ鼻血を出した俺の顔面に蹴りが入り、今度は壁まで思い切り吹き飛ばされてしまった。

 あまりの衝撃に体が壁にめり込んでしまう。

 そこまでして、奴は満足したのか攻めるのを止める。当然だろう。

 目の前にいるのは歯が何本か折れ、顔がグシャグシャに潰れた血塗れの怪我人なのだ。恨み辛みをぶつけ合う殺し合いならともかく、模擬戦で追い討ちをかける理由は無い。

 だが、その一瞬の隙こそ俺が待ち望んでいたものだった。

 俺は既に手袋『Saya』のスイッチを切っていた。この手袋の中には宇宙服のように常に水が流れていて、俺の能力を阻害している。そのスイッチを切り、水の動きを止めた事で俺の力は完全に解放された。

 俺は左手で自分の顔に触れると、たちどころに血が止まり傷が癒えていく。

 俺の能力は『超再生』。触れた部分が癒されていき、力がみなぎっていく。

 そして奴の殺意が途絶えた瞬間を狙い、俺は奴に襲いかかった。


セキタ「なに!?」

ユウキ「オーラ・ラ!」


 あまりに不意だった為かセキタは能力を発動する事も出来ず、不様に俺の膝打ちを顔面に受けてしまった。

 セキタの体が仰け反り、吹き飛び、転がる。その隙を逃さず俺は蹴りを入れる為に走り出すが、奴は能力を発動させ右腕を蝙蝠の翼のような姿に変形させ、近付いてきた俺を払うように翼を振るう。

 それを跳躍してかわし、奴の体を直接踏み抜こうとするが今度は体全体を硬質化させ攻撃を防いだ。


ユウキ「ちいい!」

セキタ「まさか俺が醜態を晒すとはな。

 貴様の『超回復能力』を知らなかった訳ではなかったが・・今まで殴られてたのも計算ずくか?」

ユウキ「それは知らない方が互いに幸せだぜ?

 だがお前も回復が早いな。もう数秒は呻いてるとふんでいたが」

セキタ「あいにく、酷い目に逢うのは慣れすぎてるんでね・・・」


 俺の空だが揺れる。いつの間にか左腕も翼に変形し、思い切り羽ばたき始めていた。俺は嫌な予感を覚えた時には遅かった。


セキタ「だが回復持ちなら、回復しきれない程貴様を傷つければいいだけだ。

 さあ、しっかりしがみつけよ?」

ユウキ「う?はああああ!?」


 俺が足元を見ると、いつの間にかセキタの背中に指が何本か生えていて、それが俺の靴を捉えていた。

 素早く靴を脱ぐために屈みたかったが、それより前にユウキは飛び上がる。そして翼に風を孕ませ、一気に飛翔した。


ユウキ「うわあああああああああ!!」

セキタ「光栄に思え、ユウキ!

 俺にこの技を使わせたのはイシキ師匠以外ではお前が始めてだ!

 『悪魔鉄道発進(バッドエントレイン)』!」


 ユウキは思い切り壁に向かい飛んでいく。俺は逃げたくて指を殴るが、硬質化した指に傷一つつける事ができない。


ユウキ「くそ、離れろ!離せ!」

セキタ「いくら殴ろうが無駄だ!これから長旅、せいぜい舌を噛んで即死しないよう気を付けるんだな!」

ユウキ「ち、ちくしょおおおおお!」


 叫ぶ俺を無視し、奴は思い切り壁に激突した。ズドン、という音を立てて両者が壁にめり込む。

 硬質化している奴の体にダメージは無い。だが生身の俺は壁にのめり込み、強力なダメージを喰らってしまった。

 俺がどうなったか確認するまでもなく、奴はもう一度跳躍し別の壁に激突する。

 また別の壁に激突し、また別の壁に突撃し、また別の壁に衝突する。

 その度に俺の体には尋常じゃないダメージを喰らい、全身が傷だらけになっていく。

 能力を使えば傷は癒せるが、全身を襲う衝撃まで打ち消す事が出来ない。

 

ユウキ「・・・っ!」

セキタ「おい、この程度でへばるなよ。

 この技はこれからなんだからな」


 傷だらけの俺を乗せたまま奴は跳躍を続け、壁に激突していく。何枚の壁を破壊したかもう分からない程に攻撃は続き、俺はその度に意識が薄くなる。

 そしてついに、俺は意識を手放してしまった。



△  ▼  △  ▼  △  ▼  △



~現在・中庭~


 呆然とする俺の目の前に、巨大な電柱とあの時の手袋『Saya』が貼り付けられていた。

 俺はもう何がなんだか分からず、ただただ力なく座り込むしかなかった。


アイ「なんだよこれ。

 一体全体、なんなんだよ!

 ちくしょおおおおお!」


 


 築き編に、続く。

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