無くしたと思ってたアレが出てきた日
短編小説 『なくしたと思ってたアレが出てきた』
忘れ物。
傘。鍵。財布。仕事の書類。
黒歴史のノート。
世界には古今東西ありとあらゆる所に忘れ物が存在する。
それに気付き、見つけるまでの間、人は探索者となりそれを探し当てるまで探すのを決してやめないのだ。
今日はそんな探索者な話をしよう。
~ゴブリンズアジト・中庭~
枯れ木の下でアイが目を覚ますと、もう日が沈み始めているのか中庭が少し暗くなっていた。
アイ「ふわああああ・・・いかん、眠りすぎたか?」
ユウキ『もう季節も春だからね。
この前の花見(笑)も楽しかったなー。
スス達に付ける筈のペンキを頭からぶっかけられて・・』
アイ「やめろ。
水性でいたずらしたのにあいつら油性でかけやがって、ふくのにどれ程苦労したか・・・」
ユウキ(悪戯者には必ず報いが訪れるんだにゃー)
アイ「たまには福が訪れて欲しいぜ・・・」
ユウキ(所でアイさんや、一つ聞きたいんだけど)
アイ「なんだいユウキさんや」
ユウキ(いつもの腕、どうしたのかな?)
そう言われて、アイは眉をひそめる。
そして体を起こし、左右に目を向ける。
そこにある筈の、銀の腕はなかった。
周りを見渡すが、腕は見えない。
アイの意識が急速に現実に戻っていく。
アイ「あれ?
腕・・・・・・何処だ」
短編小説 『なくしたと思ってたアレが出てきた話』
ユウキ(ああ、どこかに腕を落としちゃったんだねー。きっとあの時・・)
アイ「そうか、部屋に忘れてきたんだな!い、今すぐとってくる!」
言うが早いがアイは素早く走りだし、中庭から出ていった。ユウキはそれを見ていたが、止める手立てはない。
ユウキ(あ、いっちゃった。
きづくといいんだけど・・・真実に)
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~アイの部屋~
アイ「しき布団の上・・・無い!
掛け布団の間・・・無い!
机の上、タンス、ない、無い、無い!
あれ、俺の腕どこいった!?」
アイは部屋中を探索するが、何処にも銀の腕は見つからない。
足を器用に使い、机の引き出しの中を開けるが銀の腕は見つからなかった。
アイ「無い、ない、ないないない!
ど、どどどどうしよう!あれなきゃ色々大変なんだぞ!?
ま、待て待て待つんだユーキ!
まままままだ慌てる時間じゃあない!
まずは今日を振り返るんだ!
あ、朝は・・・!」
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~朝・6:00~
アイ「すぴー、すぴゃー」
ユー「パパー、起きてー!」
アイ「ふぐお!?」
ユーがにこやかな笑顔と共に俺の布団にかかとからダイブして目を覚ました。
昨日はビンタ十発で目を覚ましたから、今日はまだ優しいほうだ。
そして、ユーが腕を装着してくれたんだっけな。
俺一人で出来るから別にいいのに、
ユー「ダメ。
早く一緒にごはん食べたいんだから、今日は私に腕をつけさせて」
とか言って聞いてくれなかった。
そう言ってもうずっとユーが装着してるんだけどな。
ユーが力任せに俺の腕を装着させてくれたおかげで、ようやく着替える事が出来たんだっけ。
アイ「・・うん、朝はあったんだ。
そして着替えを終えた俺は飯を食いに食堂に向かって(カツン)かつん?」
足元を見ると、何かが転がっている事に気付いた。かがみこんで良く見るとそれは、小さな将棋の駒だった。
『歩兵』の駒に、緑のインクで『クソジジイ』と書かれている。
アイ「これは・・?
いや、間違いない。あの時無くした・・」
そう言った瞬間、アイの記憶に昔の日常が思い出される。
まだ、自分が片腕を無くす前の記憶だ。
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~昔のアジト・遊び場~
「ようし、また王手!
俺の勝ちだ!弱いなあユーキ!」
「うっせーなあ。
いい気になるのも今のうちだからな!」
遊び場で夜遅くまで、俺はハサギと将棋で遊んでたんだ。
だけどあいつ、戦略の天才だから将棋には滅法強くて、十戦十敗していたんだ。
このまま負けるのも悔しくて、俺はあるイタズラを思い付いた。
それは歩兵の一つに『クソジジイ』と描いて盤面に置く。
首をかしげるハサギに、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
ユーキ「なら、次はこいつを入れさせてもらうぜ」
ハサギ「なんだそれ?」
ユーキ「切り札さ。
この駒はこれから歩兵じゃなくてクソジジイ、イシキとする。
縦3コマ、横3コマ、斜め一コマに動ける超強力駒だあ!」
ハサギ「なんだそれ、ズルいだろ!」
ユーキ「だったらいの一にこいつを排除する事だな!だが果たしてお前に上司で師匠であるイシキを倒せるかな?」
ハサギ「何い!?
ふ、面白い!いずれ貴様を倒し、この軍を支配したいと日々野心を抱いていた俺には丁度いい敵ではないか!
倒す!倒して俺は奴を越えてみせるぜ!」
ユーキ「頑張れ未来の大統領ー!」
ハサギ「おおー!!」
▼ △ ▼ △ ▼ △
俺もあいつも深夜テンション。
そのあと将棋をさしまくって、勝ったのか負けたのか、良くわからなかったなあ。
あのあとあんまり将棋さす機会が無かったから何処いったか分からなかったけど、まさか今見つけるとはなあ。
俺は靴を脱いで(両腕がない時は足を腕代わりにするため靴下を履かない事に決めてるのだ)将棋の駒を足の指で器用に持った後、ポケットに入れる。
見つけたからにはほっとく訳にもいかない。後で将棋箱にしまっとかなくては。
アイ「・・・って、思い出を見つけても意味ないんだよ。
今は腕、両腕がないと意味がないんだ!早く食堂に行かなくちゃ!」
俺は靴を履いて、さっさと食堂に向かった。
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~食堂~
アイ「ええと、誰かいるか?
ススー!白山羊ー!」
俺は食堂にいつもいる二人の名前を呼んだ。いつもならひょいと現れる筈の二人は、姿を見せない。
キッチンを覗いたが誰もいない。綺麗に整理された調理器具があるだけだ。
元々は大人数が使う部屋だっただけに、いざ周りに人がいないと分かると不気味さは半端じゃない。
アイ「どうしたんだ一体・・・?
買い出しに行ったのか?いや、あいつらなら必ずメモを残してる筈だが・・」
食堂、キッチンを何度もくまなく探すが、腕は見つからず、ススはいなかった。
俺は首をひねるしかできなかった。
アイ「どうなってる?
腕だけじゃなくススまでいねえなんて・・まてよ、そういや飯を食う時・・・」
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~食堂・朝~
アイ&ユー「「ごちそーさまでした!」」
スス「リーダー、そろそろ一人で早く目を覚ましなさいよ?作る方も大変なんだから」
アイ「俺は寝るときは寝る、起きる時は起きる悪い奴だから別にいいのさ」
白山羊「それはいけません。
主が悪い人の真似をしてしまえば従者の恥です。
嗜めさせていただきますよ、リーダーさん」
ユー「そうだよパパ。
ススちゃんの美味しいごはん、一緒に食べれなくなったら困るんだから」
スス、ユー、白山羊の三人に睨まれ、流石に軽口をたたく事も出来なくなった俺はうぐぐ、と呻くしかできなかった。
アイ「ふ、ふーん。
ま、まあ部下に示しをつけるためにも考えてやらんでもないなー」
ユー「ねえススちゃん、今日は学校休みだから後で料理教えてよ!
私も晩ごはん作りたいんだ!」
そこ、娘!俺のセリフ無視するな無視を!
なんて言える筈もなく、目をちらりと向ける。ススは少し考えた後、親指を立てた。
スス「良いわよ。
グラタンとかどうかしら?」
ユー「グラタン、作った事ないなあ・・」
白山羊「私も手伝いますよ。
ついでに銃器の扱い方も教授しましょう。その細腕でも9mm小銃ならいけますよ?」
ユー「そ、そっちはまた後でいいかな・・・」
そんな風に楽しそうに話す横で、
俺はまだ少しだけ残ってた料理を一人がつがつと食べていた。
アイ(モグモグモグ。
仲良いなあモグモグモグ。
そろそろ俺とは話してくれなくなるのかなあモグモグモグ。
あ、そうだ)
「スス、後で少し作戦会議やるから会議室来いよー」
「分かったわリーダー」
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アイ「そうだ、あいつらやっぱ買い出しに行ったかもしれないな。
料理教室の為に大量に材料を買いに行ったんだ、きっとそーだ。うんすべて解決した。解決してないけど解決した」
そう自分に言い聞かせた後、ふと足元を見ると、本が落ちている事に気づく。
アイ「ん・・・、これは?」
文庫本サイズの小さな本だ。
派手な装飾の表紙には『これであなたもモテモテ!サイコパス編』と書かれてる。
この本を見ると、昔の記憶を思い出してきた。
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~昔の食堂~
ライ「麻婆豆腐を食え、もしくは酢豚煮だ」
ユーキ「ライ、お前さいきんそればっか頼んでるなあ」
ライと俺は食堂で頼んだ料理を机に運び、並んで座って食べていた。
だがさいきんこいつが食べるものといったら麻婆豆腐か酢豚煮しかない。
ユーキ「また変な知恵を入れたんだろ」
ライ「変な知恵とはなんだ変な知恵とは!
こいつはれっきとした参考書からのアイデアだぞ!
見るがいい!これが!」
そう言ってライはポケットからなにかを取り出そうとする。だが何かが引っ掛かったのか出てこない。
ライ「これが・・・これが・・・」
ユーキ「モグモグモグモグモグモグ」
ライ「これが!
今の俺の心の師匠だあ!」
ようやく取り出したのは、派手な装飾が施された文庫本で、表紙には『これであなたもモテモテ!サイコパス編』と描いてある。
ユーキ「モグモ・・なんだこれ?」
ライ「これがあれば俺もモテモテなんだよ!どこぞの外道神父は毎日かかさず麻婆豆腐を食べ続けていたおかげで、なんかモテたんだ!ほれ見ろこのページ!」
ライがユーキにぐいぐいと見せたページには、『私は愉悦な笑みを浮かべるために麻婆豆腐を食べてます。おかげで日々愉悦です』と書かれている。
ユーキ「ライ、絶対これパチもんだよ。
なんか胡散臭いぜ?」
ライ「は、そう言って実は俺様が彼女いない人生卒業するのが嫌なんだろう?
見てろよ、今度会うときはおむねがボイーンでキラッキラした美人のチャンネー連れてくんだからな!」
ユーキ「ほー、それは凄い。
そんな自信あるからには誰か目をつけてるんだろうな?」
ライ「あ、あああああ当たり前だ!
俺は、最強のサイコパスだからな、常に獲物を探してるんだよ!
ふ、ふは、はーはっはははははは!」
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アイ「・・・そう言って、あいつが告白やナンパに成功した事も楽しそうに人を殺しているのも見た事無いんだよなあ」
俺は昔の事を思い出しながら、つい呟いた。呟いて、気付く。
なんでこんな本がここにあるんだろう?
今、俺達のメンバーでこんな本を必要とする奴はいるだろうか。
思案するが、誰も思い付かない。
アイ「ギリギリ、ギリギリだけどシティなら・・・いや違うか。
あいつ、絶対にこんな本読まない」
シティが恋愛本を見ていそいそと努力する姿なんて想像もつかない。自分の勘一つでなんでもやるような奴だし。
仮に読んだとしてもこんな人目につくなんて真似、絶対しない筈だ。
じゃあ、この本は誰が、なんの理由を持って読んだというのだろう。
だんだん、俺の頭の中に疑問符が貯まってくる。
姿の見えない腕。
姿の見えない仲間。
代わりに見えるのは、
昔の記憶とそれにまつわるモノだけ。
アイ「・・・なんか、色々と胡散臭くなってきたな。
ともかく、今日の記憶を便りに進むしかない。
次は作戦会議室、か」
俺は食堂に背を向け、会議室に向かっていった。
△ ▼ △ ▼ △ ▼ △
?????
ユウキ「わかるかな。分かるかな?
愛しき私のアイ。
そろそろ意図に気付くかな?
それとも糸を築くかな?
気付くか築くか、別れる時は近いね」
気付き編に続く。
築き編に続く。




