特別企画短編小説 隠れ鬼のデート 隠された真実編
ゴブリンズアジト~廊下~
僕が食堂に向かっていると、メルが自分を呼んでくる声が聞こえてきた。振り返ると、彼はパジャマ姿のまま息を切らしながらも、強い口調で話しかけてくる。
メル「ルトー君っ!
聞きたい、事があるんだけ・・ど!」
ルトー「あー?なんだいきなり・・って、お前パジャマ姿で何してんだ!?」
メル「ルトー君こそ、なんで男の姿してんだよっ!スカートはどうしたのさ!」
ルトー「僕は元から男だ!」
メル「あ、そういえば・・・・。
違う、そこじゃない!
君、今日僕の夢に出てきたろ!?
あれはどういう事なんだ!?」
あー、ばれたかー。
誤魔化しても仕方ないと思った僕はたまたま隠しポケットに入れていた機械をメルに見せる。
メル「なにそれ?」
ルトー「これは『異床同夢機』。
これを使えば対象の夢に入り込む事が出来るんだ。実は昨日、実験で僕は君の夢に入り込んだんだけどね」
メル「な!?僕の夢に勝手にはいらないでよ!」
ルトー「お前だって人の記憶を勝手に見てるじゃないか。
でも実験は失敗だったな。
僕の夢とお前の夢がくっついて、
同じ世界に僕と君がそれぞれ二人ずつ入るようになってしまった」
メル「・・!?」
僕はたまたま持っていたメモ帳にたまたま持っていたシャーペンでさらさらと図を書いて説明する。
ルトー「いいかい、丸が二つあるだろ?
下が昔の記憶の夢、上が僕の夢だ。
メルは昔の夢では僕のパートナーとして、僕の夢ではメル君として違う夢を同時に見続けていたんだよ。
ただ、夢を繋げていたせいかまだゴブリンズに入ったばかりの君が任務をこなそうとしていたり、ゴブリンズじゃないパートナーがゴブリンズの事を知っていたりして大変だったよ」
メル「僕が二つにわかれていた・・??」
ルトー「訳わかんねぇ、って顔してるな。
ま、深くは考えるな。細かい事はどうでもいいじゃないか。
お前が見たのは、ただの合成された記憶なんだから」
メル「そ、そうかな・・なんか、ふに落ちない事があるような気がするけど」
ルトー「夢なんだからむずかしく考えるな。
ほれ、さっさと着替えなきゃ飯抜きにされるぞ」
メル「あ、そうだった!
ごめんルトー君、また後で」
メルは急いで自室に向かい、僕は食堂に向かう。そして心の中でほっと一息をつく。
ルトー(ふう、誤魔化せた。
しかし、『細かい事はどうでもいい』、か。
はは、夢の中で二人が鉢合わせにならないように細心の注意を払った僕の台詞じゃないな。
映画館で会わないようわざと雑貨屋の前で止まったり、映画ウンチクべらべら喋ったり、しなくていい鬼ごっこしたり・・あー、夢の中だけど疲れた。
だけど、あいつの『一番刺激的な記憶を見る夢』でも、あいつ自身がどれが刺激的な記憶なのか分からないのは助かったな。
おかげで真実を隠せた。
僕にとって一番刺激的な記憶は、彼女と尾行デートできた事じゃない。
その後に起きた出来事なんだって事を隠せて良かった。
そう、あれは『君の名が』がまだ記録的ロングラン映画になる前、まだまだ上映したばかりの事だったっけ。
昨日見た夢は、正に僕にとって一番刺激的な記憶だったんだって事を思い知る事が出来て良かったよ)
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~デパートの外~
「まだまだ終わらせやしないぜ、お嬢さん?
このゴブリンズリーダー、『氷鬼』のアイがあんたの前に立ったからにはな・・」
「ご、ゴブリンズ!?氷鬼!?
一体何を言ってるんですか!?」
彼女は叫びながらも一歩ずつアイから離れていく。あの時の僕は彼女があの男が怖くて離れようとしているんだと思っていた。
だから僕は愚かな少年らしく、彼女の前に立ったんだ。
「おっさん!」
「ん?」
「な、なにが何だか知らないけどさ!
空気を読んでくれないかな?彼女が怯えてるじゃないか!
言いがかりはーー」
よくない、と言おうとした僕の言葉は背後から彼女の細腕が首に巻き付いたせいで言えなくなった。更にそのこめかみに銃が突きつけられ、動くことも出来なくなる。
「全員動くな!」
そう言ったのは彼女の声だと初めは気づかなかった。僕はこめかみに銃を向けられ、振り向く事も耳を塞ぐことも出来ない。
その力強い声は尚も僕の耳に響いてくる。
「今すぐ箱を下に置け!
こいつの頭を吹き飛ばすぞ!」
「あー、そう来るか・・」
アイはほほをポリポリとかいた後、ゆっくりと地面に置いていく。
彼女は僕を絞める力を弱めないまま、後ろに下がっていく。
そしてまた叫んだ。
「箱から離れなさい!あのバスに私が乗ったらこの子を離すわ!それまで両手を後ろにしたまま下がるのよ!」
「ち、分かった・・。
だがこれだけは言っとくぞ。
洋服屋やフードコートに隠してあった爆弾は全て無力化した。今更爆破スイッチを押しても意味ないぞ」
「うるさい!言う通りにしないと撃つわよ!」
アイは言われた通りに両手を後ろにしたまま下がっていく。彼女もまた僕を絞めたまま後ずさる。僕は首を押さえながら、小声で訊ねる。
「ねぇ・・」
「何よ?」
「芝居、だよね・・?
本当に僕を撃つわけ、ないよね・・?」
「あ・・当たり前でしょう!?
あと少しで逃げられるんだから、邪魔しないで!」
「僕達、取材に来ただけだよね?
なんで彼等から逃げないといけないの?
ここには取材に来ただけでしょ?」
「黙ってろ!」
彼女は今だに僕から銃を下ろそうとしない。いつでも僕を殺せる武器より、いざという時は躊躇いもなく撃とうとする彼女が怖くて仕方なかった。
「ねぇ、お願いだ、息が、出来ない・・」
「ちっ、役立たずが!
少しは人質らしくしてなよ」
そう言いながら、僅かに首を緩めてくれた。良かった、息が出来る・・。
そう思った瞬間、鈍い破裂音が響く。
撃たれた、一瞬そう思った。
だけど、僕の体はどこも撃たれてない。ふと横を見ると、電柱が一本地面に突き刺さっていた。
僕も彼女も目を丸くしていたが、更に二本、三本と電柱があちこちから落下してくる。
彼女は思わず僕を突き放し、銃とスイッチを投げ捨て何処かへ逃げ出していた。
「ウワアアアアアアアアアアアアア!!」
地面に激突し、斜めになった視界に映るのは小さくなっていく彼女の姿だった。
僕は全身を色んな感情が渦巻いていて、なにか言うことが出来なかった。
小さくなる彼女も、何本も何本も落ちてくる電柱のせいで姿が見えなくなってしまった。
その場に残されたのは、小さなスイッチと、僕を殺せる拳銃と、アイと言う男だけだった。アイはポリポリと銀色の腕で頭をかいた後、その手を僕に向ける。
「あー、立てるか?」
「来んなよ!
僕は一人で立てる!」
僕は苛立ちを隠さずに立ち上がる。
アイは笑みを浮かべた。
「あの女には逃げられたが・・まあお前が無事で良かった」
そんな言葉を聞いた時、僕はなにかを考えるより先にアイをぶん殴っていた。
アイも全く抵抗せずに倒れ込む。その体に飛び乗り、何度も何度も殴り飛ばした。
「無事で良かった!?
お前が、お前が、お前がいなければ全部無事に終わっていたんだぞ!?
取材も上手くいっていた!デートもできた!
爆破テロもおこせたんだ!」
「お前・・・・まさかあいつらの、仲間・・?」
「ウワアアアアアアアアアアアアア!!」
今度は僕が叫んだ。
だけどこれは彼女のような恐怖と絶望の為じゃなくて、怒りと悲しみの為に叫んだ。
そして非力な子どもの力で、何度も何度も力の限り殴り続けていたんだ。
僕は昔、二つの顔を持って生きていた。
表向きは少年記者として色んな事件や人物を取材の為に調べあげていた。
裏向きは、諜報員として沢山の秘密や弱味を探っていた。
何処の組織だったか覚えてない。
宗教組織なのか、国際組織なのか、民間組織なのか・・そんな事は、幼い僕にはどうでも良かった。
ただ誰かに言われたままに記者として『見つける技術』と、諜報員として『隠れる技術』を徹底的に叩き込まれた事は覚えている。それが凄く大変で、それが凄く辛かった事も覚えている。
そうしている内に、少しずつ何かが消えていくのがわかった。
昔はそれを思い出すのはとても嫌だった。
思い出した所で、また消さなきゃいけないんだから。
少なくともそう思っていた。僕はそれが真理だと思っていた。
その崇高な考えを縦一文字に切り裂き散々に破り捨てた最低最悪のゲス野郎。
それがこの男、アイだった。
許せなかった
彼女は今日の為に沢山悩んだ筈だ。
血へドを吐くような努力を沢山した筈だ。
それが全部この男のせいで台無しだ。
殺してやる。
こいつを殺して、もう一度爆破テロをおこすんだ。
そう思って思いきり振り下ろした右手を、銀色の右手が受け止めた。
怒りで眉をひそめる僕の目の前で、額から血を流している男がまた笑みを浮かべる。
「わりぃな。
お前達の企みを台無しにして」
「この、離せ・・!」
「でもいいんじゃないか?
これで誰かに恨まれなくなったんだから」
男の言葉に、僕の気持ちが止まる。
そして辺りをゆっくりと見回した。
平日の夕方は学校帰りの子どもや、買い物に来た母親や、仕事帰りのサラリーマンがデパートに入り、1日の最後を楽しみながら過ごしていく。
僕は思わず辺りを見渡し、男は笑みを崩さないまま話を続ける。
「あいつらが憎いのか?
ただ平和に生きているだけのあいつらが?
お前の事をよく知らないあいつらが?」
「・・・」
「お前がどんな人生過ごしたか知らないけどさ、ここにいる不特定多数の奴等の人生台無しにしたって、つまらないだけだぜ?
何か嫌な事があってこんな事しようとしたのか?」
「違う・・。
僕は、ターゲットに取材しろって言われただけだ・・。
彼女は、おそらく組織にここを爆破しろって、言われたから・・」
「言われたからってだけで皆を殺すつもりなのか?ひでえ組織だ」
「違う、違うよ・・。
そうしないと、ぶたれるから・・ご飯、何も貰えなくなるから・・やってるだけ・・」
言ってて気持ち悪くなってきた。
自分の気持ちが吐き出せたからじゃない。
周囲の目に恐怖と罪悪感を感じ始めたからだ。
ミンナ、ボクヲ、ミテイル。
ミルナ、ミルナ、ミナイデクレ!
ヤメテ、ボクヲ、ミナイデ!
「ま、こんな事された後じゃもう組織には戻れないな。任務は失敗したし、彼女はおめおめ逃げ帰って・・。
このままじゃあいつもお前も、殺されるよな」
歪み始めた僕の思考を取り戻させたのは、またもこの男だった。額から血を流しているこの男は、まるでダメージを受けてないかのように笑う。
僕を正気に取り戻させたのは、周囲の目よりも尚恐ろしいこいつの中の鬼の姿だ。
僕はこの鬼の前では、正直にならなくてはいけないのだ。
だけど、僕が口にしたのは懺悔でも後悔でもなかった。
「だ、ダメだ!あいつを死なせたくない!」
嘘だ。
僕はそんな事言いたいんじゃない。
謝れ、懺悔して震えて許しを乞うんだ。
そうしないと殺されるぞ。
僕の左手が震える。
その手もまた、銀色の左手に掴まれてしまう。そして、アイがゆっくりと腹筋だけで上半身をあげ、僕は男から少し離れる。
「なら、どうする?
お前一人だけでもーーー」
「僕に協力しろ!
僕と協力して、あの組織をぶっ潰すんだ!」
僕は一体何を言ってるんだ?
言葉と気持ちが全く逆だ。
どうしてこんな怖い鬼に、僕は恐怖と逆の気持ちを出してしまえるんだ?
でも、彼女を助けたいと思う自分もいるんだ・・何故?
僕は無理矢理立ち上がり、男を持ち上げる。アイ、と呼ばれた男はニヤリと笑った。
「ーーーふぅん、お前さん、
随分思いきりが良いんだな。名前は?」
「ルトーだ!」
「よし、ルトー!」
アイは立ち上がり、ルトーを見下ろす。
さっきは無我夢中で殴りかかったから気づかなかったが、結構背が高い。
やめろ、やめてくれ。彼の言葉を聞くんじゃない。
「お前さん、今日からゴブリンズだ!
二つ名は『隠れ鬼』!
それで協力してやるよ!」
「構わないよ!
彼女を助けられるなら、それで構わない!」
誰か僕の口に布を詰めて黙らせてくれ。
嘘だ、止めろ、諦めろ!彼女は僕を裏切ったんだぞ!?
でも助けたい気持ちもある!
なんだよ!僕の本心はどっちなんだ!
僕は、僕の本心は何処にいったんだ!
誰か、誰か僕の本心を見つけてくれ!
「よし、『隠れ鬼』ルトー!
これからお前の過去を破壊しにいくぜ!」
「ああ、いいとも!」
やめろおおおおおおおおおおおお!!
~~結果として、僕の過去だった組織は壊滅した。いきなり電柱やら豚の大群やら押し寄せてきたら対処できる人なんていないんだから、当然だよね・・?
だけど、彼女には遂に出会うことは出来なかった。昔の仲間に幾ら聞いても『まだ任務から帰って来てない、お前が殺したんじゃないのか』と返されるだけ。
彼女が一体何処に行ったのか、全く誰も知らなかった。
こうして、僕は自分の本心が見えないのと、彼女にフラれたのを代償に、
ゴブリンズという訳の分からん組織に入る事になってしまったんだ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ルトー「思えばあの時の僕はどうかしてたんだろうな。
冷静に考えて自分を殺そうとした奴を助けてなんて、言うわけないし。
きっとあの時は人質にされた恐怖と助けられた喜びで頭がパーになってたんだ。
いや、今思い出しても黒歴史確定の思い出だよ」
アイ「それでお前、俺達をどうしてデパートに呼び出したんだ?」
スス「しかも、ルトー君また女装してるし・・」
ゴブリンズメンバーが全員辺りを見る。
ここはデパート『RIAZYU 』。
黒歴史の舞台になったデパートだ。
ルトー「い、いや今日はバレンタインデーだろ?バレンタインって言ったら女の子が大切な人に感謝する日なんだろ?
だから、この場所、この姿で感謝したかったんだ。
僕にとっては黒歴史確定の出会いだけどさ、言わせてくれよ。
ーー闇の中に隠れて生きるしかなかった僕を見つけてくれて、ありがとう」
ルトーは全員にチョコが入った紙袋を渡す。紙袋には『感謝チョコ!』とマジックで書かれていた。
アイ「お、おう・・ありがとう」
スス「ええ・・い、頂くわ・・」
シティ「ルトー、サンキュー!」
メル(何でルトー君、女装するのが恥ずかしいって思わないんだろう・・)
ダンク(それは言わない約束だ)
メル(ダンクさん、直接脳内に・・!)
ルトー「さあ、皆!
今日はオフだ!存分に楽しんでくれ!」
全員「おーー!」約一名「あれ、リーダー俺じゃ・・」他全員「シラネ」
皆は散り散りに別れ、デパートを楽しんでいく。それを見届けたルトーは、改めてデパートを見回す。
休日のデパートは人が多く、沢山の人が買い物やイベントを楽しみ、デパートの従業員もお客さんも、1日をめいっぱい楽しんでいた。
ルトー「ま、この場所をぶっ壊さなくて良かったのだけは、同意するよ。
・・もしかしたら、彼女に出会えるかもしれないしさ」
ルトーは青くて綺麗な空を、少しだけ背伸びして覗いてみる。青い空はみれば見る程、高くて届きそうにない。
ルトー「・・僕は背が高くないから、広い世界は見えないけどさ。
悪の組織の幹部でもアイドルでも何でもいいから有名になって世の中に出たら、いつか何処かで君にも気づいてくれるかな?
・・無理か。映画じゃあるまいし」
ルトーはそう言いながら、目線をデパートに向ける。
人が沢山いるデパートの端に、
セーラー服を着た、彼女に良く似た人が一瞬見えた気がした。
ルトーは驚き、思わず彼女の名前を呼んだ。
君の名が青くて綺麗な世界に響き、空に消えていった。
ーーーfin




