特別企画短編小説 隠れ鬼のデートその2
男の娘その2
デパート『RIAZYU』
今日は平日の午前という事で人は少ない。
僕とルトー君はデパートの中、ターゲットに見付からないよう距離をとって歩いていた。
ルトー「あいつらの前を歩くってなんか難しいな」
メル「仕方ないよ、人が少ないから背後からだと気付かれた時対処しづらいんだもの。
こういうのは、前を歩いた方がバレにくいんだよ」
ルトー「へぇ、良く知ってるな。
あ、さてはストーカー経験あるだろ!」
メル「してないよ!ススさんからストーキングのやり方を聞いたんだ。
ススさん、軍人経験の技術を教えてくれたからさ、色々参考にしてるんだ」
ルトー「ふぅん。
ま、お前さんにそんな度胸無いのは知っているんだけどな、あ」
ルトーが振り返ると、ターゲットが雑貨屋の前で立ち止まっていた。
二人は冷や汗をかく。
もしあんな狭い店に入ったら、それにノコノコ付いていけば否が応でも顔を見せなければいけないからだ。
ルトー「や、やべぇ・・このままじゃ撒かれちまうぞ」
メル「こ、困った時は・・これを使うんだ!」
僕はそう言いながら手帳を取り出す。表紙には『尾行逢引行動予定表』と書かれていた。
メル「ええっと・・相手が狭い部屋や路地に入り込んでいる場合はターゲットがこちらに気付き罠を仕掛けている可能性があります。
その場合相手の策に乗らず、あえてターゲットから離れてみましょう。
ターゲットもこちらに気付きのこのこついてくるはずです・・だってさ」
ルトー「なんだそれ?」
メル「ススさんが書いた本なんだ、尾行デートで学んだ軍隊」
ルトー「へぇ、ススもそういうの作るんだな。
じゃあこの場合は何処にいく?」
二人で辺りを見渡すと、映画館が見えて、ルトーがニヤリと笑みを浮かべる。
ルトー「あれが良さそうだな。
行くぞ、メル」
メル「あ、う、うん」
僕達が映画館に向かうと、ターゲットもまたこちらに向かって歩いてきた。
よし、上手く誘導できた。次は映画館で時間と疑念を潰すんだ。
上手く行くはずだ。
ススさんが書いた『尾行逢引行動予定表』があれば!
ーーーその頃のゴブリンズーーー
スス(あれ?あの尾行逢引行動予定表、何処にいったかな?
あれ、私がいつか尾行デートする時に書いた妄想小説なのに・・・・早く誰かの目に映る前に、見つけなきゃ!)
ススはまだ知らない。
その妄想小説が、今現在使われている事に・・・・。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
~映画館~
TVに出ている映画から、マイナーな映画まで揃った映画館。
ルトー「・・さて、どんな映画を見るかな」
メル「向こうはこちらが見ているんじゃないかって疑ってるんだよね。
疑いを晴らせるような映画を見るとなると・・」
ルトー「展開激しい映画を見る方が良いな。
ち、『メタルパン』を見る良い機会なのに」
▲『メタルパン』・・『残念だったな・・俺だよ』というどや顔から始まるヒーロー映画、なのだがあまりに役者が大根過ぎる上に話の辻褄が合わない展開の為に、誰も見たがらない映画。
ルトー「どれっぐらい酷い映画なのか見る良い機会だったのにナァ」
メル(うわぁ、いい顔)
ルトー「それじゃあ『シン・ゴニラ』を見ようかな」
▲『シン・ゴニラ』・・昔流行った映画、ゴニラの新しい映画。難しい専門用語の数々と大人向けの展開から、『セルフ18歳以下禁止映画』と呼ばれている。
メル「えー、あの映画難しそうだよ。
良く分からないと眠っちゃいそう・・」
ルトー「・・・・」
ルトー君はポリポリと頬を書いた後、何故かビシッという激しい音が聞こえそうな程僕に人差し指を突き付ける。
ルトー「メル!お前は映画っつーもんを良く分かってねぇな!」
メル「え、えぇえ??」
ルトー「良いか、映画は派手なアクションとイケメンだけが作るもんじゃねーんだぞ!
濃厚なストーリー、その場が作り上げた沈黙、積み上げられたクソ映画の数々があって始めて成り立つんだ!」
メル(あ、ルトー君ってもしかして、
もの凄い映画好き・・?)
ルトー「くっ・・ここで映画を語っても仕方ない!よし、ならこの映画を見てから行くぞ!」
そう言いながらルトー君が指差したのは、『君の名が』だった。
▲『君の名が』・・日本全国を回りながら互いを探し会う二人の男女のアニメ映画。
短編映画に『いろはに』という声だけの映画も同時上映されている。
ルトー「行くぞメル!
この映画を見ながら僕の映画うんちくをじっくりたっぷり教えてやる!覚悟しとけよ!」
メル(静かに観たかったなぁ・・)
こうして、僕は映画そっちのけでルトー君の映画談義を聞き続ける事になった。
僕的には『君の名が』面白かったし、『いろはに』もどんな展開になるのか気になったんだけどなぁ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
洋服屋『ユニシロ』
映画を見終えた僕達はユニシロで洋服を買うことになった。
ターゲットもユニシロで選んでるし、暫くは動くつもりは無さそうだ。
だから僕達は安心して洋服を選んでいるわけだが・・前回ルトー君は僕にこう言った。
ルトー『僕と同じ苦しみを味わいやがれ。
クケケケケケケ』
ちょっと誇張されているけどこんな感じだよね。きっとルトー君はここで何か仕掛けてくる筈だ。
だけど僕は負けない。僕には他のゴブリンズには無い武器・・常識が有るんだ。
女装なんか絶対しない!
「メ~~~ルく~~~ん!
お~ま~た~せ~☆」
最初、あんまりその声が明るすぎて誰の声か分からなかった。だけど、それは恐るべき罠だったんだ。
まだそれに気付かなかった僕が振り返るとそこには満面の笑みで沢山のドレスを持ってきたルトー君の姿があった。
ルトー「メルくーん!
ちょっとこのドレス着たいんだけど、運ぶの手伝ってくれる~?」
メル「る、ルトーくん?」
ルトー「やーだーもーー!
ル・ト・ー・ちゃんと呼んでよー☆」
寒気が全身を襲った。ルトー君がプライドをかなぐり捨ててまで何かをしようとする気なのが分かった。
逃げなければ、逃げなければ何かされる!
何かとんでもない事をする気だ!
僕は急いで逃げようとして、いつの間にか手に手錠をかけていたのに気付いた。
そしてルトー君の沢山あるドレスに隠れた手にも手錠がかけられている。
メル「ヒィッ!」
ルトー「メルくーん!
逃~が~さ~な~い~よ~☆」
メル「く、こ、これくらいで思い通りにされてたまるか!
『だらしない男』はつ・・」
ルトー「電気ショック」
バチバチッと全身に電撃が走り、力が入らなくなる。動きが鈍くなった僕の目に、ルトー君の満面の悪意が満ちた笑みが見える。
ルトー「さあ、行こうか。
大丈夫、更衣室はすぐそこだよぉ?」
メル「く・・・・ぐ!
ま、け、る、かあぁぁぁ!!」
僕は無理矢理能力を発動して手首を分離させる。そして大急ぎでお店から逃げ出した。
任務?知るか!常識という武器が消える方がよっぽど危険だ!
全力で走り出す僕の後ろで笑顔のルトー君が追いかけてくる。
ルトー「フフフフハハハハハハハハ!
どうしたのメェェェルくぅぅん?
ウィッグにメイクにその他諸々!
女装も準備やら何やら大変なんだよぉぅ?
味わえ、味わいやがれ!」
メル「いぃぃぃやだあぁぁあああぁぁ!」
走る。走る。どこまでも走り出していく。
僕は大切な物を守る為に、背後の危険な笑顔から逃げ続けた。
▲▽▲▽▲▽




