特別短編企画小説 隠れ鬼のデートその弐
男の子バージョン
大型デパート『RIAZYU』。
今日は平日の午前という事で人は少ない。
私とルトー君は人手の少ないデパート内を悠々と歩いていた。だがルトー君が足を止めある一店を見つめる。
私が目を向けると、そこにはおもちゃ雑貨屋があった。
外国のヒーローのフィギュアやら可愛らしい熊のぬいぐるみが無作為に鎮座された店内は、私達の世代の好奇心を刺激させてくれる。ルトー君もそれにやられたらしい。
「な、なあ。あれ少し見に行こうよ」
「却下です。私達は今ターゲットを尾行しているのよ?そんな事してる暇はないわ」
「うぅ・・・・」
そんな目で見ても駄目なものは駄目なのです。私が母親のように言うとルトー君は仕方なさそうに頭を下げた。
よっぽどいきたかったんだろうな。
また今度デートしたら行こうかな。
なんて考えていると、ターゲットが映画館に向かっていくのが見えた。私は慌てて彼に声をかける。
「ルトー君、ターゲットが映画館に向かったよ!私達もいこう!」
「あ、うん、そうだね」
まだ行けなかったのが引きずってるのかルトー君は大人しい感じで私についていく。
・・・・なんか、可愛いかも。
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映画館。
TVに出ている映画から、マイナーな映画まで揃った映画館。
その上映されている映画ポスターを眺めていた私達は、最近有名な『君の名が』を観ることになった。
理由はターゲットが良く見ている映画のポスターが『君の名が』だったからだ。
私の見立て通り、ターゲットもまた同じ映画を観にくるみたいで安心した。
シアターに入り、私達は右端の席に座る。そのすぐ隣がこの映画唯一の出入口だから、ターゲットが出ようとすればすぐに分かるからだ。
ポップコーンとソーダをセットし、目線がわからないようパンフレットを見るふりをして顔を隠す。
プラスチックの腕時計は上映五分前を刻んでいた。
「向こうは僕達より後ろの席に座ったね。
動きが見えないのが辛いな」
「でもそれは彼等からも同じよ。
おまけにあんな後ろじゃ逃げる事が出来ないわ。
坂になった映画館なら、後ろより前の方が尾行には役立つのよ」
「・・へぇ、随分尾行のやり方を知ってるんだね。もしかして、尾行は結構やってる方なの?」
隣の席でルトー君がポップコーンをつまみながら訊ねる。実際はあまり経験がなくて刑事ドラマのやり方を真似てるだけなんだけど、私はそれを隠す事にした。
「そうね、私もこの世界に入って長いからね。色々学ぶ機会はあったわ」
「へぇ、今度聞かせてよ」
「機会があったらね。あ、始まるわよ」
~君の名が~
~わからない、分からないんだ。
君の本名が分からない~
~私は知ってるわ、貴方の本名。
いつも貴方を見ているんだもの~
~君は一体何処にいるんだ。名前が、名前が分かればすぐに行けるんだ。
たとえそこが大罪人しかいけない地獄の果ての果てでも、たとえそこが聖人しか辿り着けない天国の中だとしても、そこに君がいると思えば進む事が出来る~
~ああ気づいて欲しい。私は貴方のすぐ近くにいることを。貴方は忘れているわ、貴方の本名を~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~君の名が~
~え・・・・~
~・・・・す~
~fin~
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映画を見終えた私達は、涙がぼろぼろと流れて止まらなかった。なんて悲しい話なのかしら。まさか男の子が女の子のためにそば職人から漁師になったりアイドルになったり政治家になったり、
最終的には同人作家になって世界中のオタクに夢と希望を与えるなんて・・・・素敵だわ!
「さすがTVでよく紹介されている名作だ・・!
女の子も女の子で世界を滅ぼす悪の大幹部になれて、皆に恐怖と絶望を振り撒いていたしね!」
「これが、これが任務じゃなければもう一回見に行きたいレベルだわ・・!」
「さて、ターゲットは・・」
ルトー君がターゲットに目を向けるとターゲットはへらへら笑いながら何処かへ行こうとしていた。
全く、あいつらにはあの映画の面白さを楽しむ事は出来ないと言うのかしらね。
「ま、私達の存在がばれてないのは嬉しい事ね。ルトー君、行こうか」
「そうだね。
次はあいつら何処へ行くのかな?
なんか楽しくなってきたよ」
「奇遇ね、私もよ」
私達は楽しそうに笑いながら鞄に入れていた物を置いた後、映画館を後にする。ふとアナウンスの声が聞こえてきた。
『皆様今までお待ちいただきありがとうございます。これから『君の名が』11時半講演が始まりますのでチケットをお持ちの方は・・・・』
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~洋服屋『ユニシロ』~
広い店内で私達はターゲットと洋服を探していた。私が洋服を1着1着気にしている間にルトー君が辺りに目を向けている。
どうやら彼にはこの洋服屋はつまらないらしい。
「ターゲットが気になるなら探しにいけば?
今ならまた見つからなくなる事もあるみたいだし」
「そう言うわけにはいかないよ。
君がサボるのを黙るわけにはいかないじゃないか。早く入り口に戻るんだ」
うっ、そう来られると痛い。
私は小さな物を投げた後、ルトー君に訊ねる。
「やっぱダメだよね、ハハハ。
さあターゲットを尾行に戻ろっか」
「全く、今はデートじゃなくて尾行なんだよ?ここでターゲットを見失ったら大変な事になるんだから、しっかりしてよ」
「あはは、すいません」
私は素直に謝り、ルトー君はやれやれとポーズを取る。
「ま、いいけどね。君とは随分長い間生活してたんだ。
そういう所もあるって、僕が一番知っているよ。その分僕がしっかりフォローしなきゃね」
そう言いながらルトー君がポケットから取り出したのは小さなレーダーだった。
丸くて緑色の画面に点滅する赤い点が映っている。ルトー君はどや顔で説明しはじめた。
「これは僕が開発したレーダーさ。さっきターゲットが洋服を漁ってるときに発信器をつけたんだ。
これで何処にいてもすぐ分かる」
「凄いじゃない、さすがルトー君!」
「いや、それほどでも・・・・あれ?」
ルトー君がレーダーを覗くと、赤い点がもの凄い速度で画面外に離れていくのが見えた。
私は店の入り口を見ると、ターゲットがもの凄い速度で走っているのが見えた。
「る、ルトー君あれ!
ターゲットが逃げてるよ!」
「え!?まさか尾行がバレたのか!?
とにかく早く追いかけるよ!
用事はすませた!?」
「うん、大丈夫だよ!
急いで追いかけよう!」
私達は逃げていくターゲットに向かい、一直線に走り出していった。
早く、早く追い付かなきゃ!
ここで見失ったらデートが終わっちゃう!




