シリアス短編小説 『その匣の中には・・』後編
その匣の中にはかけがえのないものが入っていました。
それが希望であれ絶望であれ、私は受け入れて見せる。
ゴブリンズ・アジト~中庭~
私達が中庭に来た時、アイは中庭にいつの間に置いた椅子に腰かけ、白い机には数枚の写真と、三人分のカップと紅茶が置かれていて、写真を懐かしそうに見ていた。
私はいつもの調子で声をかける。
スス「リーダー、聞きたい事があるのだけ」
アイ「セキタの事か」
私が言おうとした事を、アイが先に言った。アイは写真を見ながら話を続ける。
アイ「さっきハサギからお前からセキタの事を聞かれたってメールが来たぜ。
昔使ってた方のメアドだから大丈夫だとは思うが・・正直、驚いたよ。
まさかススが、セキタの妹だったなんてな。
ま、二人とも座ってくれ」
スス「・・・・」
サイモン「すいません、ススさんも座りますよ」
スス「あ、は、はい、失礼します・・」
アイ「紅茶、入れとくぜ。
うちの中庭でとれたダージリンだ、美味しいぜ」
スス「あ、ありがとう、リーダー・・」
サイモン「いただきます」
サイモンとススが座り、紅茶を飲んだのを確認してから、アイは先程から見せていた写真をスス達に見せる。
七枚ある写真全てにハサギ、セキタ、アイ、あと知らない二人の写真が映っていた。
アイ「俺達はな、昔は先代ゴブリンズの問題児だった。
ハサギは『知略の天才』なのに能力者軍に入ったし、ライ・・この金髪の奴はサイコパスだし、こっちの女性はなんかもー色々ヤバイ問題児。
俺はまあ、ちょっぴり問題児だったな。
ほんのちょっぴり」
私は知っている。
アイがどんな問題を起こしたのかを。
昔片腕の若者が武器も持たずにゴブリンズに乗り込み、その片腕一本で兵士達を半数以上ボコボコした挙げ句、「今日から俺がこのゴブリンズの支配者だ」と宣言、
トップのイシキと一対一で対決し敗北したという、どう考えてもほんのちょっぴりですまない問題を起こしているのを。
アイ「上司と喧嘩で負けた腹いせに寝ている間に部屋を生クリームだらけにさせた上にそいつの寝ている側でバズーカぶちこんで爽やかな目覚ましをさせてあげたくらいさ。
ほんのちょっぴりの問題だろ?」
続きがあったとは知らなかった。まだ叩けば沢山教えてくれそうだけど、今はそれが重要じゃない。
アイ「ま、そんな問題児ばかりを指揮していたのが、セキタだったんだ。
あの頃は楽しかったな、ハサギやライと一緒に悪戯したり、セキタの芸を見て真似しようと頑張ったりしていた。
今ならジャグリングぐらいなら出来るぜ」
スス「そうだったんだ・・セキタ・・」
私は少しだけ嬉しくなった。
拍手部隊にいたセキタはサーカスにいた時と同じように、少し寂しそうな笑顔をしている印象しかなかった。
だけど彼にも、あったのだ。
心の底から笑い、仲間と共に下らない事をして生きた記憶が、ちゃんとあったのだ。
それを知る事が出来て、良かった。
なんだ、何も肩を張る必要なんて無かったんだ。隊長先生と共に来る必要なんて無かったんだ。悪いことしちゃった。あとであやまらないと。
ああ、きれいななかにわ。
こんど・・りいだあと・・・・いっしょに・・・・はなを、うえて・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
バタリ、とススが倒れたのを見てサイモンは目を丸くしながらススの名前を叫ぶ。
サイモン「スス隊員!?
どうしました!?何がありました!?」
だがススはピクリとも動こうとしない。
サイモンは慌てて彼女を起こそうとするが、アイが制止させた。
アイ「止めろ、ススを起こすな。
彼女のコップに睡眠薬を混ぜさせたんだ。
しばらくは寝ているさ」
サイモン「アイ、何故こんな事をするのですか!?」
アイ「セキタは俺達にとって、かけがえのない戦友であり最高のリーダーだった。
ススが知っていいのはそこまでで充分だからさ」
アイは紅茶を一飲みしたあと、コップをゆっくりと置く。そして、静かな笑みを浮かべながら言葉を続ける。
アイ「ここから先は、サイモン隊長、貴方だけに教える話だ。これは当事のメンバーとイシキ以外、誰も知らない。
サイモン隊長にこの事を話すのは、貴方がセキタとスス、そしてスミー三兄妹の隊長だったからだ」
サイモン「・・・・分かりました」
サイモンは上着を脱いで倒れたススに被せてから、椅子に座り直す。
そして紅茶を一飲みし、静かに訊ねる。
サイモン「伺いましょう。セキタにはどんな秘密があったのですか?」
アイ「その質問に答える前に、セキタの二つ名は知ってるか?
俺達初代ゴブリンズは実力者には必ず二つ名を付ける事が義務付けられている。
その殆どが『他者から見たその人のイメージ』だ」
サイモン「知っています。
確か、『悪魔』と呼ばれていましたね」
サイモンは眉をひそめながらも答え、紅茶に映る逆さまのアイが笑みを浮かべる。
アイ「そうだ、彼は『悪魔』と呼ばれていた。そして俺達の部隊はさっき言った通り、問題児達が集まった部隊だった。
秘密とは、セキタがどんな問題を起こしたか、という事だ」
サイモン「・・入隊理由。
それが彼の秘密ですか」
アイ「ああ、アイツはーーー。
味方を殺したんだ。それも何人も。
恐ろしく惨たらしく、残酷に殺した。
仲間が見つけた時、殺されたのが人だったかどうかも分からない程酷い有り様だったそうだ」
アイは紅茶を啜り、一息つく。
サイモンにはその行為が、まるで今まで背負い続けた十字架を下ろすかのように、安堵して出た溜め息のように見えた。
そして、アイの口は軽くなる。
アイ「その惨たらしく殺された奴は、かつてセキタの両親と共に戦っていたそうだ。
前線にはでず、後方支援専門の部隊だった。両親が元はサーカスの人だった事もありとても賑やかで楽しくやっていたそうだ。
まるで、お前ら拍手部隊のようにな。
だがある戦闘の時、敵が強くその部隊には撤退命令が出ていた。
だがそいつらは両親だけを戦場に残していった。
理由は『派手な奴なら囮に向いている』からだそうだ。実際は彼が銃を使わない事に対する命令違反と、人気者に対する妬みが大きいがな。
彼等は武器を持たされず、丸腰でありながら自身のサーカスの知識と技術だけで敵部隊を上手く錯乱したが、結局は殺された。
それでも奴らの目論見通り『囮』には成功した為、上層部は『最適の行動をした』と称する他無かったそうだ。
それを何処で知ったか分からないが、セキタはそれが許せなかったんだろうな。
アイツは自身の名前があくまで偽名である事を利用し、『ジョン・ウェイン・ゲイシー』として妹より早く軍隊に入隊し、上手くそいつらのいる部隊に潜入した。
そしてそいつらと共に活動し、あの時と同じように敵が強く味方に撤退命令が出た時、アイツは長年頭で考えていた事を行動に移した。
ーーー復讐だよ、復讐をしたんだ。
奴等に、両親を殺した全ての者に、復讐したんだ。まず仲間を全員殺し、敵が突撃するまで隠れる。
そして敵が突入し、凄惨な殺人現場に面食らった隙にそいつらも殺害。
『撤退命令』が出たのに部隊が戻らないのに気付いた仲間が確認した時、
そこは戦場ではなく地獄だった。
みんなバラバラにされ、誰か誰なのかも分からない死体の山と沢山の人の血で出来た池の中で一人の少年兵が泣き笑いながら、殺した奴の頭部をナイフで何度も何度も刺していたそうだ。
少年兵、『ジョン・ウェイン・ゲイシー』は裁判にかけられたが、『最小の犠牲で倒される筈だった我等が生き残り、敵を全滅させる事が出来た。
彼は戦場で最適の行動をしたのだ』と言われ、彼は無罪になったが、
その危険性を危惧したイシキは彼に有る任務を与えた。
それが問題児達を集めた部隊を編成し、彼等を正す事。
そして俺達はあの部隊に集まり、互いにとってかけがえのない存在になった。
俺達はそれぞれ成長し、新たな部隊に配属される。その後、あいつらがどうなったか俺達は知らないし、知ろうとは思わない。
だが、これだけは言える。
この世全てが絶望に見えた俺達にとって、セキタは希望だった。
何処かで消えるつもりの俺達を導き、新たな夢を与えてくれた、最高のリーダーなんだよ」
そこまで言って、アイは紅茶に口を付ける。少し冷めていたが気にしなかった。
サイモンは話をじっと聞き続けていたが、やがて寂しそうな顔をする。
サイモン「そうでしたか・・。
これで1つ合点がいきました」
アイ「合点?」
サイモン「はい。
セキタはスミーが囮になると言った時、非常に取り乱していたのです。
あの時我々は『仕方ない』と納得するしかありませんでしたが、彼にとっては最も辛い選択だった。
家族を二度、同じ形で失ってしまったのですから・・」
アイ「そうなのか、スミーも同じように囮になって・・・・なら、余計にススにこれを教える事はできないな」
アイは静かに眠るススに目を向ける。
ススはなにも知らず、穏やかな寝息を立てている。
アイ「いつか、こいつも誰かを守る為に命を捨てるかもしれない。
もうこの家族を、戦争の火で殺させたくない」
サイモン「・・貴方の気持ち、分かりました。
この話はススには内緒にします」
アイ「そうしてく・・。
ああ、いや、間違えた。
話したければ話してもいいんじゃないか?」
サイモン「どういう事です?」
アイ「なにせ、ススの両親の話だしな。
俺が話さないのはアイツの約束を守る為だが、貴方は違う。
あいつが憎しみや怒りを完全に捨てて、真人間として生きる時、この事を話さなきゃいけないと思うからな。
そう・・思わないか?」
アイは目を左右にいかせながら、しどろもどろに答える。サイモンはそれを指摘しようとしたが、思い直し、別の事を話し始めた。
サイモン「・・もしかしたら、貴方がその役目を果たすかもしれませんよ。
復讐者で終わるかもしれなかった彼女をここまで見守ったのは、貴方なのですから。
きっと、私が話すよりずっと適任かもしれませんよ?」
アイ「俺が?あはは、そ、それはないと思うな、うん。俺は根っからの悪人だし?犯罪万歳な悪い奴だしー?
だから、それはきっと、難しいと思う」
サイモン「そうですか・・?
いや、そういう事にしましょう。
今は、ね」
アイ「は、はははははは。
な、何を言ってるか、分からないナア・・?」
アイは何故かガクガクと体を震わせながら既に空になった紅茶のカップを口に付ける。
そしてちらりと枯れた桜を見て・・・・アイの顔色が真っ青になった。
アイ「ヤバ・・・・わ、わるい!
急用を思い出した!じゃ、俺はこれで!」
言うが早いが、アイは全速力で中庭から逃げ出した。
サイモンは不思議そうに首を傾げたが、すぐに興味をススに向ける。
ススは小さな寝息を立てていたが、睡眠薬が切れたのか、またはアイが騒いだ音で目を覚ます。サイモンは笑みを作り、声をかけた。
スス「う・・ん。
あれ?ここは・・」
サイモン「おはようございます。
体の具合はどうですか?」
スス「あ、隊長先生。おはようございます。
あれ?私、何でこんな所で寝て・・」
サイモン「ここ数日の疲れが出たんですよ。
たてますか?」
スス「あ、ありがとうございます・・」
ススはサイモンの手を取り、ゆっくりと起き上がる。その際に机の上にある3つあるカップを見て、ようやく全てを思い出した。
スス「そ、そうだ!
リーダー、リーダーは何処に!?」
サイモン「彼なら急用を思い出したそうで、そちらの方に向かいましたよ」
スス「そ、そうですか。
あ、隊長先生、リーダーは私が寝ている間、何か話しましたか」
サイモン「・・・・・・」
サイモンは少し考える素振りをし、上を見上げる。中庭から見える空は赤くなり始めていた。もし中庭でなく外に出ていたら綺麗な夕日が見えただろう。
それを見た後、こう答えた。
サイモン「はい。彼は私に真実を語りました。ですが、これは今は私の胸の内に仕舞います」
スス「・・そう、ですか。
その秘密は、恐ろしい秘密だったんですか?」
サイモン「いいえ。私はそうは思いません。
彼は彼の気持ちに正直に生きた、私は素直にそう思います。ススさん。
貴女には、必ずこの真実を語る時が来ます。それは私かもしれませんし、アイさんかもしれません。
ですが、もう少しだけ待っていて貰えますか?」
サイモンの言葉は、最後は少し弱気な声だったが、ススは微かに笑みを浮かべ、こう言った。
スス「・・分かりました、隊長先生がそう言うのであれば、私はそれに従います」
サイモン「ありがとうございます。
所で、1つ聞きたい事があるのですが」
スス「何ですか?」
サイモン「貴女は、将来どう生きたいですか?サーカスや、戦争や、ゴブリンズの生き方を見た貴女は、どんな将来を過ごしたいと思いますか?」
サイモンの問いに答える前に、ススは目線を枯れたら桜に向ける。中庭には風が吹かない筈なのに、枯れた桜の枝が揺れていた。ススはそれを見た後、ゆっくりと口を開く。
スス「そうですね、私はーーー」
ススはサイモンに自分の考えを告げる。
その答えを聞いたサイモンは、アイが教えた秘密を語る日は、そう遠くないと確信した。
ススが何を言ったのか、それはこの中庭の中にいる者だけが知っている。
Fin




