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角が有る者達 番外編または短編集  作者: C・トベルト
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その匣の中には・・ 第二話



 セキタは昔、小さな部隊の隊長だった。

 そしてその中にはアイとハサギが入隊し、仲間として戦場を駆けていた。

 私にとってはどれもこれも初耳だ。

 セキタはどんな隊を作り、アイはどんな事をしていたのだろう。

 私はそれを探る為、ある男と接触(コンタクト)する事にした。


 サイモン隊長先生とは別のカフェで私は椅子に座っている。今度は眠らない。眠れば次は何処に連れていかれるか分からないからだ。

 緊張しながら十分椅子に座っていると、ある男・・ハサギが席のそばに立つ。

 いつもと同じスーツ姿なのに、私にはとても怖く見える。向こうも緊張しているのか、表情が固い。


ハサギ「・・失礼、相席しても?」

スス「・・大丈夫です」


ハサギは席に座り、真っ直ぐ私を睨み付ける。


ハサギ「驚いたぞ、まさかそちらからこちら側に連絡するとはな。

 遂に自首する気になったか?」

スス「・・違います。

 今回は、ある事を聞きたくて貴方を呼んだんです」


 私はそう言いながら、鞄から一枚の写真を取り出す。セキタ達の若き頃の姿が映った写真だ。その写真を見たハサギの表情が変わる。私はそれを見て訊ねた。


スス「セキタ、アイ・・後二人は誰かは知りません。ですが、貴方達は昔小さな部隊で一緒に戦場を駆けていた仲間ですね」

ハサギ「・・驚いたな。

 アイが隠し持っていたのか?」

スス「いいえ、セキタの形見から見つけたんです。用件というのは貴方達が部隊で何をしていたか、という事です」


 ハサギは少し複雑な顔をしながら顎をさすり、静かに答えた。


ハサギ「・・君に関係ない話だ。答える義理はない」

スス「セキタは私の兄です」


 そう言った瞬間、ハサギの鉄面皮が割れるような音が聞こえた気がした。ハサギは両目を丸くして、まるで珍しい物を見るような目で私を見た。


スス「教えてください、兄は貴方達と一緒にどんな活動をしていたんですか?

 私は戦時中の兄の姿を殆ど知りません。

 戦時中の兄がどんな存在だったのか、私は知りたいのです」

ハサギ「・・そういう事なら、俺よりアイに聞いた方が良いだろう。

 君のリーダーだ、訊ねりゃ簡単に答えてくれるだろう」

スス「それは・・いえ、先ずは貴方に聞きたいと思っていたから聞いたんです。

 お願いします、兄はどんな人だったんですか!?」


 私は語尾が強くなるのを感じながら、ハサギを睨み付ける。

 ハサギは静かに写真を机の上に起き、ポケットから銃を取り出した。


スス「!?」

ハサギ「悪いが、犯罪者にこれ以上教える事は出来ない。

 スス・ジャングラン。君を逮捕させてもらう」

スス「・・教える気は、無いんですか・・」

ハサギ「両手を上げて、ゆっくり立つんだ」


 ススは両手を上げて立ち上がり、ハサギも銃を構えたまま席を立つ。

 そして唇を動かさないまま話しかけた。


ハサギ「セキタに妹がいたというのは初耳だった。あいつ、自分の家の事を話さなかったからな」

スス「・・セキタが今の貴方を見たら、悲しむと思うわ」

ハサギ「・・一つだけ言っとく。

 彼は優秀な指揮官であり、兵士であり、俺達のかけがえのない友人だった」

スス「!」

ハサギ「俺はあいつ程戦場を駆ける男を他に知らない。もしかしたらそちらの破壊魔(シティ)より強いんじゃないかって何度考えたか分からないくらいな。

 ・・俺が教えられるのはそれ位さ」

スス「・・・・!」


 状況に気付いた周囲の人達が悲鳴をあげ、二人から離れていく。ハサギはそれを意に介する事もなく、私に慎重に近づいていく。


ハサギ「さあどうする?

 貴様を助けてくれる仲間はここにはいないぞ?このまま捕まるか、それとも・・」

スス「ご、ごめんなさい!」


 私が叫ぶと同時に能力を発動させ、高速移動でカフェから、ハサギから逃げ出していく。

 逃げながら私は後悔の言葉を吐いていた。


スス「しまった!しまった!完全にハズレを選んだ!

 私、何でハサギに聞こうとしたんだろう!

 彼は私達を捕まえる人なのに!

 ああ、なんて馬鹿な選択をしたんだ私!」


 走りながら、後悔の言葉を吐き続けた。

 周りの全ての世界を置き去りにして、私は一人街の中を風より早く逃げ出していく事しか出来なかった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「きゃ!」


 ネクストラウンドサーカスの舞台上で、私は転んでしまった。

 玉乗りの練習をしていたが、上手くバランスを取れずに落ちてしまったのだ。

 まだ幼い私にとっては、玉乗りはまだまだ難しい芸だった。

 幸い受け身を上手くとれたから痛みは酷くないけど、怖くて悲鳴を上げてしまった。

 一番近くでアクロバットの練習をしていたセキタが駆けつけてくる。


セキタ「スス、大丈夫か!」

スス「セキタ兄・・わ、私は大丈夫だよ。

 ちょっと転んだだけ・・痛!」


 急いで立ち上がろうとして、足に激しい痛みが襲いかかってくる。

 どうやら足を捻ったみたいだ。

 セキタが眉をひそめる。


セキタ「捻挫したみたいだな」

スス「だ、大丈夫だよ!これくらい・・痛」

セキタ「大丈夫なものか、ほら、医務室に連れてくから背中に乗るんだ」

スス「ありがとう、セキタ兄・・」


 私はセキタにおぶって貰い、医務室に運ばれていく。周囲の人達は皆サーカスの芸を練習しているが、どれもこれも自分には到底できなさそうな芸を軽々とこなしていた。


スス「凄い・・・」

セキタ「はは、本当凄いよな。

 あの人達、能力にも才能にも頼らずあれだけ自分の体を上手く使いこなしているんだぜ。俺も早く追いつきたい」

スス「セキタ兄・・」

セキタ「だが、たまには立ち止まるのも必要さ。その方が沢山見れる事もあるからな。

 サーカスはそういう人達が作り上げた世界なんだからさ」

スス「・・うん」


 医務室は別のテントに設置されている為に一度テントを出なければいけない。

 テントを出た時、曇り1つない綺麗な青空が見えた。だけどセキタは青空の美しさより太陽の方を見ていた。

 それは本当に僅かだったけど、私にはあまりに印象的に見えた。

 いつも真面目で表情を崩さないセキタが、

 まるで好きな人を見るかのように優しい顔で太陽を見たからだ。

 その時の私はその顔のセキタが嫌いだった。まるで普段の自分が偽りで、太陽を見る時の自分だけが本物のセキタのように見えたからだ。

 私は少し嫉妬を含ませた声でセキタに声をかける。


スス「セキタ兄、太陽を直接見るとダメなんだよ」

セキタ「ん、ああ。

 そうだな」

スス「もー、ちゃんとおぶってよー」


 私はさっきより強くセキタに抱きつく。

 少しだけ子どもらしく甘えて。

 本当は離れたくない不安な気持ちを隠して、それこそ道化のように笑顔を作りながら、腕に力を込める。

 私の本当の気持ちに気付いたのかそうでないのか分からないけど、彼はお日様に向けたのと別の種類の笑顔を見せながら、彼は言った。


セキタ「安心しなスス。

 俺はお前を・・お前達を助ける。絶対にな」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 空は曇り、どしゃ降りの雨が街を覆っていた。

 ハサギから逃げ延びた私は、その街の中を一人寂しく歩いていた。

 サイモン隊長先生に会うために新しく揃えた洋服はとっくの昔に濡れて、傘を差している人達からは少しこちらを見て、すぐに忘れたように前を向く。

 私の能力『高速移動』は一度使うと一時間は使用できなくなる。だから一時間はどこかで休まなきゃいけなかった。

 幸いハサギにこの秘密はバレていないから、彼は私をおいかけるのを完全に諦めた筈だ。

 雨がコンクリートを叩き、私の体を容赦なく攻め続ける。

 少しも寒くなかった。だけど、温もりが欲しかった。

 

 ハサギは兄の秘密を語ろうとしなかった。兄はどんな人生を生きていたのか、教えようとしなかった。

 ならば次はリーダーに聞けば良い。

 リーダーなら簡単に教えてくれる筈だ、嬉しそうに話してくれる筈だ。

 そうじゃなかったらどうする。

 セキタは私に秘密を持っていた。その秘密は父から聞いたが、兄は最期まで話そうとしなかった。

 もし兄と出会った事がハサギにとって辛い事だというのなら、

 アイにとって兄はどんな存在だったというのだろうか。

 兄にとって昔の部隊はどんな存在だったのか。

 兄はそれも私に話さず遠くへいった。

 それが兄にとって辛い事で、ハサギにとって言いたくない事なら、私が知りたいと思ったこれは、ただの残酷な暴力だと言うならば、私はどうすれば良いのだろう。

 リーダーに会わせる顔が、無い。

 今の私、きっと酷い顔をしている筈だ。誰にもみせたくない。

 

 私は何も考えず交差点を通る。信号が赤く光っていたがどうでも良かった。

 遠くで車の走る音が聞こえた。

 近くでクラクションが聞こえた。

 私の体が吹き飛ばされるのを感じた。

 

 誰かが私を呼んでいる気がする。

 誰かが必死に私の名前を呼んでいる。

 私はぼうっとしたまま顔を傾け、声の主を見る。

 そこにいたのは、サイモン隊長先生だった。

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 ~ホテルの一室~

 

 私はサイモン隊長先生と一緒にあるホテルで休憩する事になった。

 サイモン隊長先生の話によれば、私は赤信号なのに交差点をふらふらと歩き始め、後少しで車にひかれ大怪我になる所をすんでの所でサイモン隊長先生が助けてくれたのだという。

 私は今、サイモン隊長先生からタオルを貰い濡れた体と髮を拭きながら彼の説教を半分聞いていた。

 

 

サイモン「一体どうしたというのですか。

 先程はあんなに楽しそうに互いに話したのに、今はまるで脱け殻のようだ」

スス「すいません」

サイモン「私の上着を貸しますから、しばらくはそちらを着てください。

 風邪をひいてしまいますよ」

スス「すみません」

サイモン「・・・・・・」

スス「・・・・・・すいません。

 私・・・・私、貴方に迷惑ばかりかけてしまって・・すぐに部屋から出ますから」

 

 隊長先生に一瞬何かを話そうとしてしまい、慌ててその何かを振り払うように立ち上がる。

 そのまま部屋を飛び出そうとする。正直に言えば、隊長先生の顔を見たくない。いまその顔を見てしまえば全てを話してしまいそうで怖いから。

 だから私は早く部屋を出なくちゃいけない。

 

「待った」

 

 なのに、あの人の一声は私の心を止めさせる。私は何も言えないまま、隊長先生の方に振り返る。

 そこには真剣な眼差しでこちらを見ているサイモン隊長先生の姿が見えた。

 

サイモン「何か辛い事があったんですね。無理に聞く気はありません。

 気持ちが落ち着いて、それでも辛いのでしたら、その時は何があったか聞かせてください」

 

ーーー情けなかった。

 この時の私の気持ちは、それしかなかった。

 その言葉に負けて全てを話してしまっていた自分が、情けなくて仕方なかった。

 だけど、全てを話し終えた後に彼が言った言葉は、その全てを吹き飛ばした。

 

サイモン「分かりました、では私も一緒にアイに話を聞きにいきましょう」

スス「え、ちょ、ちょっと待ってください。そんな事してもらうわけには」

サイモン「いいえ、そういう訳にはいきません。

 ーーースス隊員。

 私は貴方から、仲間達の最期を知りました。

 私の数年間の苦しみを取り除いてくれたのは貴方なのですよ」

スス「で、でもあれを知る事が出来たのはメルの能力のお陰ですし、

 それに貴方は」

 

 ゴブリンズの人間じゃないですか。

 そう言おうとした私の口は閉ざされる。隊長先生が私の体を抱き締めたからだ。彼の温かい体と強い力に、私の言葉はとめられる。

 

サイモン「ーーーそれに私は。

 死んだと思った貴方に生きて再開する事ができました。

 それがどれ程嬉しかったか、分かりますか?」

 

 隊長先生の言葉は静かに、確実に私の心に染み込んでいく。

 私も同じ気持ちだったから、誰よりも分かる。

 仲間に出会えない苦しみ、探し続ける辛さ、いつまで探し続けるのかという恐怖。

 私は憎しみでそれを誤魔化していた。敵を倒せばそれら全ては消えると自分を騙して生きていた。

 この人は、そうしなかった。

 『シンプル(単純な)サイモン』の言葉に違わず、ずっと諦めずに探し続けていたんだ。

 だからこそ、あのUSBを手離さなかった。皆の思い出が詰まった箱を、一度も開けずにしまい続けていた。

 

サイモン「私の仲間が苦しんでいるのです。

 ここで手を伸ばさず、いつ手を伸ばすと言うのですか。

 私は、私はもう二度と仲間を失いたくないのです。お願いします、勝手な話だと分かってます。

 ですが、一緒にアイに話を聞きにいかせてください」

 

 その言葉は強くて、優しくて、嬉しくて、私は静かにサイモンに手を伸ばし、両肩を掴む手を離した。

 

スス「・・分かりました。

 こちらこそお願いします、私と一緒にセキタの話を聞きにきてください」

サイモン「スス君・・!」

 

 胸がドキドキと高鳴りしている。

 でも、今それをあの人に聞かせたくない。今必要なのはそれじゃない。

 雨はもう止んでいた。

 サイモン隊長先生は既に外に出る準備を始めている。

 私も気持ちを改め、前を向く。

 


 その匣の中には、かけがえのないものがあった。

 それが希望か絶望か分からないけれど、

 私はもう進むのを躊躇わない。

 

ーーー拍手部隊、出撃だ。



 続

 

 

 

 


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