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角が有る者達 番外編または短編集  作者: C・トベルト
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シリアス短編小説 『その匣の中には・・』前編

シリアス短編小説 前編

『その匣の中には』


注意。

 この話は船に乗る前のススの話です。

 なのでユウキ、ライを知りません。

 ダンクは出ません。

以上の事がokなら、下へ、下へ。


~その匣の中には、かけがえのないものが入っていました。

 だけどそれが希望になるのかどうか、私には分からないのです~


~ゴブリンズアジト・ススの部屋~


 サーカスの衣装や小道具が壁にかけられた部屋の中で、この部屋の主である私はパソコンを操作していた。

 パソコンの横には古いUSBが設置されている。

 このUSBは学校での戦いの後、サイモン隊長先生から戴いたものだ。彼も中身は見ていないとの事だけど、私は確認する事にした。

 このUSBは特別製で、各部隊の隊長だけに支給される物。各部隊で入力されたデータは必ずこのUSBに転送されるようになっている。

 本来は間者(スパイ)を捕まえる為、本部に正確なデータを記入するためのものだけど、今このUSB には写真データ以外何も記入されていなかった。

 おそらく軍内部に関するデータは削除されていたのだろう。

 ではどんなデータがのこっているのか、正直緊張しかしていない。

 私は写真データを確認する為パソコンを操作する。カタカタカタカタッと無機質な音が聞こえた後に映像に映し出されたのは、『皆』が笑っている写真だった。

 私は思わず息をのみ、目を閉じます。

 五秒数えてから目を開くと、やはりそこには皆が笑っている写真でした。


スス「皆・・」


 私は思わず彼等の記憶を思い出していました。一人一人の写真が、私にとってはかけがえのないものだからです。

 私の緊張がほぐれていき、代わりに暖かい感情が流れてくる。


スス「はは、ズパル・・皆にイタズラしようと椅子にブーブークッション仕込んでる・・。

 こっちはクックロビンが驚いてるわ、悪戯が成功したのね・・ああ、でもばれちゃったんだ、エッグに頭をグリグリされていたがってる・・セキタもスミーも、私もそれを見て笑っているわ・・」


 8888番隊。皆が付けた愛称(ニックネーム)は拍手部隊。パチパチと鳴るなら拍手の方が楽しそうだからって付けてくれたんだ。

 だけどどんなに過去を振り返っても、もう皆には会えない。皆はあの戦争で遠い所へ行ってしまったからだ。

 それは辛いけれど、今の私には新しい仲間がいる。今度そっちに行った時は話すね、その仲間達の事を。


 私は暖かい感情のままマウスを動かし写真を全て確認していく。

 すると、ある一枚の写真が目に映る。その写真は他の写真より日付が古く他の写真とは離れていた。私は何気なくその写真を拡大してみる。

 そこには、前の写真より若いセキタの写真が映し出されている。

 セキタが三人の男性と一人の女性と一緒に笑っている。そして不思議な事に、その三人中にアイとハサギが映し出されていた。

 私は息をのみ、もう一度写真を確認してみる。


セキタと共に笑っているのは金髪の男、長い黒髪の女。そしてハサギとアイ。

 彼等は誰なのだろう。あの人は誰なのだろう。アイとセキタはどんな仲だったのだろう。私の頭の中には、その疑問ばかり浮かび上がっていた。


~その匣の中には、かけがえのないものが入っていました。

 だけどそれが希望になるのかどうか、私には分からないのです~



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


~始まりは、あの冬の夜だった。

 戦争が終わり、基地を去らねばならない私の耳に飛び込んできたのは、ある男の放送だった。


『俺の名前はアイ!新たなゴブリンズを創る者だ!退屈窮屈面倒な戦争が終わった今、自由を求め俺達と共に新たなゴブリンズを創ろうじゃないか!

 同志よ、俺は桜の木のある中庭で待っている!』


 バカみたいに明るい声で、アホみたいな内容の事を話している。

 私はそれを無視しても良かったが、かといって私に帰る場所も人もいないので、まあ適当に顔だけ見せてみようかと思い、中庭に向かった。

 果たしてそこで待っていたのは、両腕が無い一人の男だった。

 雪が降り真っ白になった世界の中で、枯れた桜を呆然と見ていて、他の全てを忘れたかのように枯れた桜を見つめている。

 私は恐る恐る、その男に声をかけてみた。


「あのー・・」

「・・・・・・・・ん?」


 反応した、がこちらを見ようとはしない。私はもう一度訊ねる。


「放送を聞いて来たのですが、貴方が、アイさん・・ですか?」

「アイ・・?そうか、俺はアイだったな・・」


 それだけ言って、自称アイはまた桜を見つめている。完全にこちらの事を忘れているようだ。

 私はなんだか馬鹿馬鹿しくなって、その男に背を向けた。帰ろう。

 この人は頭がおかしいんだ。さっきの放送もただの妄想なんだ。この人の頭だけの話なんだ。

 だから私が彼に何を望もうが意味が無いんだ。帰る場所も人もいない、ただ誰かを憎むだけが私なんだ。

 それが、私なの?

 そう思うと、なんか悔しくなった。いや、そんな自分の方が馬鹿馬鹿しくなったというべきか。

 私は振り返る。やはり男は桜を見たまま微動だにしない。

 私は走り出す。男は動かない。それが凄くムカついた。


「こぉの・・・・」


 私は飛び上がり、両足を男の顔面の位置まで上げ、力の限り蹴り飛ばした。

 世間一般的に言うならば、ドロップキックを食らわしてやったのだ。


「ばかやろおおおおおおお!!」

「ぐはああああああ!」


 男は抵抗せず、「べばっ」と奇声を上げて雪の中に倒れ込む。

 私は男の胸ぐらを掴み、鼻から血を流している男を睨み付ける。そして蹴った勢いそのままに叫んだ。


「私を見ろ!」

「・・・」

「私はスス!

 これから貴方と共に生きる同志よ!

 アイ、貴方はこれからリーダーになるんだからシャキッとしなさい!」

「・・・・はい」

スス「もっと強く!じゃないともう一発蹴り飛ばす!」

アイ「わ、分かった、分かった!

 お、俺アイはここに二代目ゴブリンズを立ち上げる事を、宣言する!」


 雪の中で埋もれたまま、アイは中庭の真ん中でゴブリンズを立ち上げる事を宣言した。

 私はアイを立ち上がらせ、雪を払う。


スス「全く・・しっかりしてよ、馬鹿リーダー」

アイ「いや、まあ・・・・ありがとうな」

スス「・・礼なんて良いわよ。

 それより、これからを話しましょう」

アイ「ああ、そうだな」


 私とアイは桜に背を向け、アジトに向かって、歩き出した。

 これが、私とアイの馴れ初めだった。

 ドロップキックをぶちかますとかとんだ暴力女だというのに、アイは一言も文句を言わなかった。

 それどころか私を信頼できるパートナーとして扱い、話を聞いてくれた。

 それがとても嬉しくて、楽しくて。

 私は心の何処かで誰かを憎むより、アイの近くにいたいと思うようになっていた。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「・・・・くん、スス君!

 目を覚ましなさい、スス君!」

スス「ん・・・・あれ?

 サイモン隊長先生・・」


 私はいつの間にか眠っていたようだ。目を覚まし辺りを見渡すと、小綺麗なカフェの中でサイモン隊長先生と相席で座っていた。


サイモン「スス君、良かった、目を覚ましたみたいだね」

スス「そうだ、私・・サイモン隊長先生にお礼を言いたくて、カフェに誘ったんだっけ・・」

サイモン「覚えて貰えて良かった。

 君、少し寝ていましたよ」

スス「すいません・・」


 言いながら、あくびしそうな口を閉じる。

サイモン隊長先生の前でみっともない顔は出来ない。サイモン隊長先生はモカを二つ頼みながら私に話しかける。


サイモン「その様子じゃ、昨日はあのUSBを見てくれたみたいだね 。

 何が入っていましたか?」

スス「あ、はい。

 拍手部隊の皆の写真が・・あと、セキタの古い頃の写真を見つけました」

サイモン「そうか、彼の古い写真が出てきたか」


 サイモン隊長先生は静かに頷いた。

 何故こんな長い名前なのかと言うと、拍手部隊の隊長であり、今は学校の先生をしているからだ。

 早口言葉で言いづらいが、私は結構気に入っている。


サイモン「あのUSB は彼から受け継がれた物で、今では君の兄の形見だ。

 そこから彼の昔の記憶が出てきたんだね?」

スス「はい、サイモン隊長先生なら何か知ってるかなと思ったんですけど・・」

サイモン「ふむ、彼は昔小さな隊を作っていた事は知っているよ。

 だかそれがどんな隊かは分かりません」

スス「そうですか・・」


 モカが運ばれ、私達は同時に飲んだ。

 少し熱くて、同時にむせてしまった。

 その後はいままで何をしていたのか、たがいに長い間語り合った。

 サイモン隊長先生の話は重く悲しいものなのに、それを全く感じさせなかった。

 帰り際、サイモン隊長先生は私に訊ねた。


サイモン「君はゴブリンズに居続けるのかい?」

スス「はい」

サイモン「ならば、気をつけて。

 そして必ず見つけるんだよ、君の幸せを」

スス「・・ありがとうございます、サイモン隊長先生。

 また、会いましょう」

サイモン「ああ、また」


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