【短編小説】拍手部隊クリスマス
秋の特別企画小説(運動)
お題『運動』
タイトル『拍手部隊クリスマス』
注意
・この物語は、拍手部隊が中心となっています。
・本編のネタバレになること一切書かれていません。
・どうしても明るい拍手部隊が書きたかった。
・ギャグです。
以上の点を踏まえた上で、どうぞ
某月某日
拍手部隊・テント内
褐色肌の軍服を着た女性がなカタカタカタカタカタっと操作している。
女性は脚が悪いのか、車椅子に座っていた。
拍手部隊の隊員、スミー。
それが彼女の名前である。
スミー「ふう、少し疲れちゃったな。休憩に行こっと」
そう言うと、スミーは車椅子から立ち上がろうとして、立ち上がれない事に気付く。
スミー「…!
そっか… 私の脚、動けないんだっけ。忘れてたな…。
アハハハ…」
「スミーーーーーーーーー!」
スミー「ひゃっ!?」
突然、何処かから聞き慣れた声が聞こえてきた。
スミーがテントの入口の方に振り返ると、そこには楽しそうな表情を浮かべる褐色肌の女性が立っていた。
スミーの妹、ススである。
スス「スミー!
ニュースよニュース!スッゴいニュース!
これは知らなきゃ損しちゃうわー!」
スミー「スス、わかったから落ち着きな、どうどう」
スス「ひひーん…じゃない!
これを見て!」
バン!とススは机の上に勢いよく紙を叩きつける。その衝撃で紙はひしゃげたが誰も気にはしていない。
スミー「なに、今度部隊に新しいレーションが入るの?
……うぅ、あの不味い料理がまたくるのか……」
スス「違うのよ!
それが今回は、只のレーションじゃないんだって!
なんと天才軍制の、それも将校クラスの人間にしか食べられない特別レーションよ!」
スミー「……なんだって」
スミーは眉をひそめる。
天才は科学力、技術力において絶対の実力を保っている。
能力者が今だに2009年製造の古い武器を使っているにも関わらず、天才はそれより100年先の科学力で兵器を開発し続けているのだ。
そのため能力者軍は天才軍の物資が非常に重要なのだ。
そして食べ物に関しては、もはや最高級料理に等しい存在だ。
更に将校クラスしか食べられない特別製となると、その貴重価値は計り知れない。
スミー(それが、私達の所に来る…だって?)
スミーはごくり、と喉を鳴らす。レーションの不味さに毎日毎日悩まされていた彼女にとって、この情報はとても素晴らしい物だ。
いつも引っ込み思案なススがハイテンションなのも頷ける。
スス「凄いでしょ!
明日それが我が部隊に届くのよ!
これで浮かれなきゃ損だわ~♪」
スミー「そうだな…明日はパーティーになりそうだ」
セキタ「パーティー?」
二人が振り返ると、入口の方にセキタが立っていた。
セキタ「スス、またシャンソンを始める気か?
あれなら三日前にやったばかりじゃないか」
スス「セキタ!
聞いてよ、凄いレーションが明日届くのよ!」
セキタ「凄いレーション?」
スス「天才軍製の将校クラスしか食べられないような特別レーションよ!
明日それが8888番隊全員に届くんだって!」
セキタ「へぇ、良かったな… ?
なんでそんな事お前は知っているんだ?
俺はこれでも部隊の副隊長だけど、そんなの知らないぞ」
スミー「え?
セキタ、副隊長だったの?
知らなかった」
セキタ「お前な…」
スス「ふふん♪
ここに証拠もあるわ!」
セキタ「…そうか。良かったじゃないか。
それじゃあ明日はパーティーだな、皆に伝えないと」
スス「セキタ、その日はどんな番組にする!?」
サーカスで自分の出す芸の事を『番組』と呼ぶ。
スス達にとって重要な事は『本当にそんな貴重な物が食べられるのかどうか』ではなく、
『どう皆を楽しませるか』に移っていた。
彼等は生まれついての芸人であり、人を楽しませる事が本当に好きなのだ。
セキタ「そうだなー。
別に冬って季節じゃないが、とてもとても貴重な贈り物が届くんだ。
ここは一つ奇をてらって、クリスマス・ソングを歌うってのはどうだ?」
スミー「えー、『きよしこの夜』や『もろびとこぞりて』じゃ盛り上がらないよ。
却下却下」
スス「私としてはしんみりした状況で皆思い思いにふけりつつ食べるご飯はとても美味しいと思うわ」
スミー「むむ、一理ある。
確かにギャーギャー騒ぎながら食べては、折角の超高級料理の味を味わえないかも知れないわね」
セキタ「それにクリスマス・ソングなら殆どの人が歌えるだろうし、皆楽しめると思うな」
スミー「む…。
よし、決めた!
明日はクリスマス・ソングのシャンソンでいくわ!
でもやっぱりハシゴ芸や簡単な劇も入れたいわ」
スス「うーん、劇はちょっと分からないわね。
セキタ、分かる?」
セキタ「そうだなー、それじゃあ簡単な劇で『3匹の山羊のガラガラGUY』とかあるんだけど…」
スミー「えー『Two lobece』の方が良いわよ!」
スス「あ、私もスミーにさんせーい!」
セキタ「よし、じゃあ劇は決まりだな…他には…」
「聞こえたか?」
三人が番組の話をしている時、テントの外ではズパル、エッグ、クックロビンの三人が聞き耳を立てていた。
ズパル「明日は美味しいご馳走が届くそうだぞ。
しかもスス達の芸を見れるんだ!」
エッグ1「最高だな」
エッグ2「明日が楽しみだ」
エッグ1&2「だがそんな流暢に待っていていいのか!?」
三人はテントを離れながら話し始めるが、全員の表情は黒い笑顔で満たされていた。
ズパル「その通りだな。
俺達みたいな末端部隊に最高級のレーションが届くなんて、これは何かあるぜ(ニヤニヤ)」
エッグ1「もしかしたら偽物かもしれないな(ニヤニヤ)」
エッグ2「もしかしたら毒が入っているかもしれない(ニヤニヤ)」
エッグ1&2「ここは誰かが確かめなければいけないな!(ニヤニヤ)」
エッグ二人組がニヤニヤと笑いながら話している。
エッグ1「誰が毒味やるー?」
エッグ2「俺ー」エッグ1「俺ー」
エッグ1&2「俺が食べるんだい! 」
ズパル「落ち着きたまえ、平民よ。この『だらしない男』、ズパルに秘策あり!
ま、そのためにはクックロビン!貴様の協力が必要だがな!」
クックロビン「…何?」
今まで会話に参加していなかったクックロビンが、首を傾げる。
クックロビン「…何をさせる気だ?」
ズパル「クックック、知りたい?知りたいか?知りたいよなぁ?
それなら教えてやるよぉ!」
エッグ1(何かノリノリだねズパル)
エッグ2(あの人あんなにウザかったっけ?)
クックロビン「…それで…方法は…?」
ズパル「…先日捕まえた捕虜を使うんだよ。簡単だろ?」
エッグ1「ん?捕虜?
俺達捕虜なんかいないぞ?」
エッグ「しかも捕虜にレーション盗ませるなんてそんなの常識的に考えて無理だろ」
ズパル「慌ててはいけないぞ、平民達。
俺達の捕虜は、これだ」
そう言ってズパルは何かを取り出す。それは小さな虫かごだった。
中に何が入っているのか分からない。
クックロビン「…ズパル、これは?」
ズパル「くーっくっくっく、特別な捕虜だよぉ(ゲス顔)
中身を見てみな」
ズパルは虫かごの中をちょっとだけ開ける。
クックロビンは素直に中を覗き、中に蠢く『G』の大群を見て、バッと顔を上げてズパルの肩を掴む。
ズパル「どうだ、最高の捕虜だろう?」
クックロビン「ふざけるなーー!」
クックロビンはズパルにチョップをかけた。チョップを喰らったズパルは少しよろけるが、箱は離さない。
クックロビン「あれ『G』じゃねえか!あれ操れと!?
俺が操って、最高級レーションを盗み出して来いと!?
お前の脳ミソに『G』が入ってるんじゃないのか!?
バカなの!?マジバカなのおおぉぉぉ!?」
エッグ1(おお、あの無口なクックロビンが喋ってる!)
エッグ2(これは珍しいなぁ)
エッグ二人組はのんびり鑑賞する事に決めたようだ。
ズパル「何を言っている、貴様は動物や植物と会話出来るのだろ?
今こそそのジミーなスキルを最大限使えるじゃないか、
フゥーハハハハァ」
エッグ(え、なに今の笑い方キモい)
一瞬ツッコミを入れたくなったエッグ1、しかし場の空気を読んで黙ることにした。
クックロビン「ああ確かに喋れるさ、だがなぁ『G』を使って食品盗ませては優実高妙な最高級レーションが駄目になってしまう、正に本末転倒ではないか!
それ以前に、その『G』は和衷共同を大事にしないやビュッ!」
エッグ2(噛んだーーー!!)
エッグ1(そりゃ普段無口な奴がいきなり四字熟語使えばそうなるよなーー!!)
ズパル「おま、ここで噛むなよ(苦笑しながら)」
クックロビン「…ええい、兎に角俺はそんな事しないからニャ!
痛い!ほっぺ噛んだ!」
ズパル「お前、なにしてんだよ、アッハハハハハハ!」
エッグ1「もう無理、ゲラゲラゲラ!」
エッグ2「二回も噛むとか、ほっぺ噛むとか…無口は大変だな!
ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
クックロビン「う、うるしゃい…(口元を抑えながら)」
サイモン「どうしたんですか、クックロビン。
唇を噛んだのですか」
ひょこっと出てきたサイモン隊長に、ズパルは楽しそうに答える。
ズパル「アハハハハハハハハ!聞いてくれよサイモンこいつったらさっきよー………………………え?
サイモン、隊長?」
そして、その笑みはさっと消えていった。サイモン隊長はニコニコ笑っている。
サイモン「全くさっきから何を笑いあっているのですか?
…なんて下手な嘘を言う気はありませんよ(逃げ出すエッグ達の裾を掴みながら)」
ズパル「あ、あははははは…あ、用事をおもいだーしーたー」
ズパルとは先程とは全く違う乾いた笑みをしたあと、顔色を真っ青にした。
そして逃げようとくるりと背を向ける。
サイモン「ニガシマセンヨ、ズパル、エッグ、クックロビィィン」
ズパル「ひ、ひぎゃああああ!」
エッグ1「俺、これが終わったら犬を飼うんだ…」
エッグ2「奇遇だね、俺は頑丈な家を買おうと思ってたんだ…」
クックロビン(……ああ、
俺も説教されるのか…)
その後四人の叫び声が聞こえたが、誰も気にはしなかった。
次の日の夜。
『聖夜じゃないけど勝手に聖夜にしちまえ』パーティーが始まった!
最高級レーションが届く事はもう部隊中で広まっていたので、サイモン隊長が変な口上で見せるのを勿体ぶらせた時は全員苦笑した。
また、何故か8888番隊の何人かは『俺がススちゃんと一緒に踊るんだ!』『バカ!俺に決まってるだろう!』『バカめ俺に』『さっさと踊ろうぜ』『言わせろよおおお!』と叫んでいた。
そしてレーションを食べる時は酒も無いのに皆大いに盛り上がり、楽しんでいた。
それは敵を倒して得た戦利品を楽しんでいるからではなく、この貴重な一瞬を大切にしたいと思っているからだろう。
その様子をスス、スミー、セキタの三人が見つめている。
スミー「いい雰囲気ね。
これなら多少芸がすべっても笑って誤魔化してくれそうだわ」
スス「あと少し、あと少しで皆の前で歌うんだ…。
深呼吸深呼吸」
スミー「頑張るわよスス、お姉ちゃんも頑張るから貴方も頑張ってね!」
スス「うん、頑張るわ!」
舞台裏の一瞬の緊張は、とてつもなく重い。
その重みをセキタは何処か楽しんでいた。
セキタ(ああ、やっぱり舞台に立てるのは嬉しいな。
皆が皆、この瞬間を楽しもうと頑張れる。
まるで昔に戻ったようだ。
…きっとこれが、お父さんの望んだ、サーカスなのかも…)
スス「セキタ、何をしているの!?
舞台はすぐそばにあるわよ!」
スミー「そう、緊張しちゃダメダメ。
私達は誰よりも誰よりもこの一瞬を楽しまなきゃ!」
セキタ「…ああ、そうだな!
俺もこの聖夜を楽しもう!」
そして、三人は観客達が待つ舞台に向かって走り出した。
Fin




