【短編小説】悲劇を楽しめ!第一話
これはミクシイでキャラ人気投票した時に書いた話です。もう何年も前なので初々しい話となっています。
2070年、1月1日 20時00分
ミステリアスビル・15階・パーティー会場。
「ジャン・グール主催・元旦パーティー」
横開きの正面入り口を開くと、まず上の文字が書かれた看板が目に映る。
その看板の下は立食パーティーが開催され、豪華なドレスを着飾った女性や、パーティー用スーツをビシッと着た男性が楽しそうに雑談している。
「なんつーかさ」
「なんスか?」
そのパーティー会場を恨めしそうに眺めてながら、ハサギが呟いた。
普段はヨレヨレのスーツだが、今日はビシッと着飾ったスーツを着ている。
ケシゴから借りたスーツを着ている。
隣りで話を聞いている男装した麗人はノリだ。
普段はファッションに気を取られない彼女だが、
今日はハサギ同様、黒いスーツを着飾っている。
短い茶髪は、彼女が女性であるという現実を忘れさせる程、スーツ姿に映えている。
ハサギは溜め息をつきながら、
「こうして見るとみ〜んな同じ奴にしか見えねぇんだよ。」
「あ、それボクも思ったッス。
特に女性はなーんであんな動きづらくてヒラヒラしたドレスを着るッスかねぇ?
ボクには理解出来ないッス。」
「私もだ。」
二人の会話に賛同したのはペンシだ。
彼女も白いスーツを着飾っているが、出るところは出ている。
それを見たノリはこっそり羨ましいなぁ、と呟いた。
「あれでは自分は弱いけど可愛いですよという事を叫んでるようなものだ。
私には一生縁が無い着物だな。」
ふん、と侮蔑するペンシを、
「お、つまり一生結婚しないんだな?
それは残念だぁ〜。」
ハサギがククク、と笑う。
・・その笑顔に拳骨がめり込んだ。
「ムギャ!」
「あまり着たくない服だと言っただけだ!
この馬鹿者!」
「ハサギさん、女性にそんなセリフは言っちゃ駄目ッスよ。」
「うぉぉ・・」
悶絶するハサギを心配する事なく、二人はハサギを責める。
「静かにしろ。仕事中だぞ。」
三人を諫めたのはケシゴだ。
白髪をオールバックにまとめ、盆を片手に給仕服姿をビシッと決めている。サングラスを掛けていなければ、カッコいい給仕として女性から好奇の目で見られただろう。
「へいへい」
ハサギは頭をポリポリとかきながら立ち上がる。
そして心の中で呟く。
(犯人もバカだよな、元旦に事件を起こそうとするなんて)
ハサギはふと、数日前の出来事を思い出す。
数日前、警察に一通の手紙が届いた。
中身は犯行予告状。
この元旦パーティーをテロリストが襲うという内容だった。
一応パーティー側に連絡すると、向こうにも同じ内容の手紙が届いていたという。
しかもパーティー側は公になるのを拒み、少人数の人間で動いて欲しいという無茶な要求をして来た。
二通の手紙でイタズラの可能性もあるが、無視は出来ない。
そこで暇なG対策課に白羽の矢が立ったのだ。
「・・って、俺達は暇人じゃねえよ。」
ハサギは思わず言葉に出してしまった。
すぐ隣りにいたノリが驚いた様子で、
「何スか?」
と尋ねた。
「あ、なんでもない。」と急いで否定し、辺りに目を向ける。
ハサギはやはり、俺には向いてない世界だと感じた。
食事は珍し過ぎて良く分からないし、周りの客の話しは全て豪華な金持ちの会話だ。
「いや〜、この前四十階建てのビルを建設したんですよ。」
「羨ましいですな。私はつい先日工場が一つ潰れましたよ。
最も、一番儲けの少ない工場だから問題はないですけど」
「奥さん、見てくださる?このバッグ」
「まあ素晴らしい!
真珠で出来たバッグ!
高かったでしょう?
え、四百万?
安かったじゃな〜い!」
「・・」「・・」「・・」
全員絶句していた。
話しに全然ついて行けない。
「な、何というセレブ会話・・」
「我々は何年以上も同じバッグを使って仕事しているというのに・・」
ペンシもノリも二の句が出ない。
ちらっとケシゴを見ると、てきぱきと仕事している。
(((我々も給仕服を着れば良かった)))
この瞬間、三人の思いは一つになった。
と、その時。
キキッ、と何か小動物の鳴き声が聞こえたかと思うと、
小さなリスがハサギの股の下を通り抜けていった。
「へ?リス?」
ハサギが首を傾げるのと同時に、リスはケシゴの足元にたどり着いた。
「む?
・・なるほど・・そうか・・では次は・・」
ケシゴは急に独り言を呟く。
ハサギはペンシに尋ねた。
「ペンシ」
「なんだ?」
「あいつ、動物と話せるの?」
「ああ、何せ奴は『動物使いの天才』だからな。」
「ああ〜、なるほどー。」(そう言えばあいつ、人を見るだけで震えさせる変な目もあるんだよな。
動物と喋れる事といい、能力者以上に能力者っぽい天才だな)
「お、久しぶりだなぁ!」
不意に、後ろから声をかけられる。
ハサギは酔っ払いが声をかけてきたと思い、陽気な声を出して振り向く。
この時、少しでもビクついてしまえば一気に酔っ払いにペースを持ってかれてしまい、何をされるか分からないからだ。
酔っ払いを相手にした事が多い警察のハサギは、経験でそれを知っていたために陽気な声を出して振り向いた。
それが仇になると知らずに・・
「おう、久し、ぶ・・り・・」
「なんだ?どうしたよ。ハサギ、
カッコいい服着やがって。アイちゃん嬉しー!」
振り向くとそこにいたのは、アイだった。
彼もしっかりとパーティースーツを着こなし、右手左手の銀色の義手には白ワインがなみなみと注がれたワイングラスを掴んでいる。
(ゴブリンズリーダー、アイ!?)
「な、あ、アイ!?
なんでここに・・なんでそんな格好して・・
か、かくほ」
「おっとその前に一杯■D\(^^」
ハサギが叫んだその口に、アイは強引に白ワインを飲ませた。
ゴクン!
「!?
の、喉が・・」
「アルコール度数70パーセントの白ワインの味はどうだい?」
強引に飲ませられた酒のせいで一気に喉が痛くなる。
ハサギが水、水とミネラルウォーターを探し、大急ぎで口の中に飲み干した。
「ぶはーーーーー!
・・なんてもん飲ませるんだよ!」
「これでちょっとは落ち着いただろ?
俺達を確保するのは俺の話しを聞いた後にしてくれないか?」
アイはワイングラス片手に話しかける。
この男は義賊ゴブリンズのリーダーであり、不正企業から不正な金を盗む仕事(?)をしている。
しかしたまに、金以外の不正を働いている企業に対しては素直に警察に話す事もあるのだ。
ハサギはしばらく考えたが、
「・・いいだろう」
と答えた。
仲間がすぐ近くにいるという安心感が、ハサギに聞く耳を持たせた。
アイはニンマリと笑って、
「よしきた。
まず一つ目。
お前達に送った手紙、あれは俺達が送ったんだ。」
「やはり・・では」
「2つ目」
アイは間をおかずに話す。
「手紙を送った理由だが、それは俺達とは別に義賊気取りのテロリストが本当に来るからだ。
俺達はそれを阻止するためにお前等に手紙を送った。
分かったか?」
「・・テロリスト?」
ハサギは思わず言葉を復唱した。
ハサギはアイを良く知っている。
彼が何故義賊ゴブリンズを作ったのも、彼が何故悪人への道に走ったのも、彼が嘘が得意ではないという事も。
だから信じられなかった。
「お前達以外に義賊名乗る馬鹿がいるなんて」
「それがいるんだよ。
ただ、あっちは殺す事が正しいと考えている馬鹿者だがな」
アイは面白くなさそうにふん、と息をした。
アイ「グループ名は『バッドエンド(悲劇の)・サンタクロース』。
メンバーは蛮バングとその妹、蛮キンコ。
厄介な事に二人共能力者だ。」
「ばんばんぐ・・変な名前だな」
「全くだ。」
アイとハサギは全くだと同意した。
アイはハサギから目線を外し、パーティー会場に目を向ける。
「俺の部下も何人かこのパーティーに紛れている。
そいつがいる限り、どんなテロリストが来ても大丈夫だろう。」
「大丈夫?」
「そいつなら皆を守ってくれる。実力もあるし、そいつ一人居ればこのパーティー会場の客の命は絶対安心だ。」
「・・そいつは誰だ?」
思わずハサギは尋ねた。
アイの目が妖しく輝いている。
このあと、必ず恐ろしい展開が起こる前触れだ
もし『そいつ』が気さくな魔法使い、ダンクならまだ安心できるが、もしアレならそうはいかない。あまりに危険過ぎるからだ。
ダンクであって欲しい。
アイだってアレ…シティの事は良く分かってるはず。
分かってるはずだ!
「ああ。一応伝えとく。
・・シティだ。」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない絶叫がパーティー会場に響いた。
角有る者達劇場
~マッチ売りのシティ~
シティ「マッチ~、マッチいらなーい?
今なら安いよー・・・うーん、買わないわね。
寒くなってきたし、今日はここで寝るしかないか?
コンクリート・ロード」
ひゅーーんという音と共に廃ビル落下!
シティはその中に入り込み、ベッド、ソファ、カーペット、机、ストーブを出しふかふかの布団を敷いてぐっすり眠る。
シティ「お休みー」
全員「迷惑だよ!
というかマッチ売る意味無いよな!?」
終了