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第2話:妖精エインセール

投稿が遅れたのはリア充してたからです。

 森は不気味なほど静かなものだった。時折小動物を見かける程度であり、獣の気配が全くしない。普通であれば、人の気配を感じて大なり小なりの獣が顔を出すものだ。もちろん、人間側は武装しているため、獣が迂闊に近づいてくることはない。

 それでも、獣のいるような気配が全く感じられない。あまりの不自然さに、彼の手が剣の柄に行ってしまったくらいだ。


 それなりに歩けるように整備された道を、彼はあちこち見渡しながら歩く。

 整備とは言っても、舗装されているような道ではなく、貨物馬車が通ってできた道であるため見栄えはよくない。草木ばかりの道よりは幾分か安全に進めるだろう。



 その時だった。



 「……!!」


 道の端、車輪の跡で禿げた地面と、草が生えている場所との境界線。馬車が倒れている。引き手である馬はおらず、車輪は片方が吹き飛んでしまっている。


 彼は腰から剣を抜くと、ゆっくりと馬車に近づいていった。リュックは背負ったままだ。

 足音を小さくするように馬車ににじり寄る。一瞬さえ見逃すまいと注意を払う彼は、そのまま人が乗るであろう座席に回り込む。


 しかし――


 「……いない、か」


 座席はもぬけの殻であった。しかし収穫がなかったわけではない。

 その座席についていたであろう肘掛が折れていた。摩耗して折れた跡ではないことは、彼の素人目にもすぐわかった。そして、地面についている側の日よけのための布が切り裂かれてもいた。


 何かに襲われたと考えるのが自然だ。

 やり口は荒いものであるからして、盗賊などといった知能を持つ者に襲われたわけではないのは確かだ。


 「大型の生き物か……あるいは数がいるか」


 彼は今までの経験から、大まかな予想を立てた。幾度も経験したことだからこそ、迷いなく現実的な予想を立てることができる。


 彼は今度こそ腰から剣を抜く。

 油断なくあたりを見渡し、地面についた争った跡をたどって森の中へ入っていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「はぁ……はぁ……」


 後ろから追いかけてくる脅威をチラリと見やる。灰褐色の毛色を持つ、オオカミに分類されるヴェオウルフだ。ルチコル森では獰猛なことで名が通っている。

 その動きは、獲物を目の前にした獣の動きそのものだ。むき出しの牙を見ると、ゾクリと身体が震えた。まだ戦闘の経験が浅くても、身に付いた恐怖というのはなかなか拭えない。

 まだ、離してくれるつもりはないらしい。


 だが、それ以上に頭を巡るのは、仲間とあっさりはぐれてしまった事実である。

 思えば彼女のミスであるのだ。何も考えずに自分勝手に逃げ回った結果、身体的に劣っている仲間とはぐれてしまうのは当たり前だった。


 「くっ……!」


 矢筒から1本の矢を抜き、弓に矢筈をつがえる。走ったまま弦を引き、後ろへ向けて放つ。だが、当然そんな甘い技術でヴェオウルフを捉えることなどできるはずもなく、矢はあさっての方向へ飛んでいく。


 「また当たらない……」


 矢筒に残るのはあと3本。元々入っていたのは12本のため、すでに9本を撃ち損じていることになる。



 攻撃手段は残り少ない弓矢のみ。どこをどう逃げているのかさえ分からない。仲間とはぐれて所在不明。

 若干14歳の彼女が、そんな状態に陥って正常な判断を下すなど、到底できるものではなかった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 「ギャーッ! ちょっと誰か助けてェーッ!」


 耳をつんざくような悲鳴を、確かに聞いた。


 (10(ぺん)の方角)


 戦場における方角は、円を12分割したものが使われる。自軍を中心として、敵の方角を1から12の間で表現するのだ。

 戦場では皆が皆同じ方向を向いているわけではないため、こういった誰にでも理解がしやすい表現方法を使う。集団戦などでは、この表現をお互いにすることで奇襲を防ぐ。


 今は集団戦ではないため、余計な音を立てないように声にはしない。



 彼は急ぐ。


 聞こえた悲鳴は決して大きいものではなかった。それはつまり、襲われている側が負傷していたりと、何らかの足かせがあるに違いないということだ。


 「……!!」


 見つけた。


 目に入ったのは、灰褐色の動く生き物が2匹。次いで見たのは、ソレに追いかけられて逃げ回る妖精だった。


 「妖精が一体なぜ……それにヴェオウルフが2匹も……」


 疑問に思うとことはある。しかし、今それを憂慮している暇はなさそうだった。


 彼は剣を一度地面に突き刺し、背負ったままのリュックを捨てるように降ろす。そして再び剣を手に取り、妖精が逃げてくる方向へ走り出した。


 「こっちだ!」


 走りながら妖精に声をあげた。その声に気がついたらしい妖精は、これ幸いとばかりにこちらへ向かってくる。


 彼は走る速度を落とさないまま、まるで妖精とぶつかりに行くかのように進んでいく。その行動に驚いたのか、妖精の逃げる速さが落ちるが、彼はそんなことを気にしてはいない。


 彼の目線は、先に見える地面が少し盛り上がっているところだ。


 速度を落とさないままその盛り上がりに左足をかけた彼は、その足に力を目一杯かけて飛び上がった。

 その飛び上がり方は、迫る妖精を飛び越え、ちょうどヴェオウルフが来るところを落下地点としていた。


 落下にはいり、彼の目は1匹目のヴェオウルフを捉えた。

 左手で構えた剣を、落下の力を乗せて振り抜く。剣はヴェオウルフを見事とらえ、その首み大きな傷を残した。

 さらに彼は、剣をヴェオウルフにあてがうようにして反動を起こし、その勢いで獣の背後をとった。


 飛び越えた妖精と、ヴェオウルフ、そして彼とが一直線になる。


 そして、彼は仕掛けた。相手の行動を待つことはない。


 一気に彼我の距離を詰める。


 当然のことだが、ヴェオウルフとて黙って見ているわけではない。

 その鋭い爪を振りかざし、一直線に突っ込んでくる人間を切り裂こうとする。


 しかし、彼はまるでその攻撃を読んでいたかのように、最小限の体の動作で躱すと、丸見えになったヴェオウルフの腹へ切り上げる一撃を入れた。

 叩き切るという表現が当てはまるような、鈍く重い一撃であった。


 彼の動きはそこで終わらない。


 振り上げた腕は大きく弧を描き、力を溜めるように下段に構えなおす。それに連動するかのように体の態勢を整えていた彼は、2匹目のヴェオウルフへ突撃した。

 今度は、相手の攻撃を許さない速度で一気に横薙ぎに切り伏せる。


 2匹とも、ピクリとさえ動かない。どちらも致命傷だ。


 「ふぅー……」


 力が抜ける。


 彼は剣を振って血を払い落とすと、静かに鞘へ収めた。

嘘です。ストーリーの見通しと執筆速度の関係で遅くなっただけです。

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