スガの森 十四
「ツギル、話してくる」
言うや、フツシは入口に向かった。
垣の内側では、小頭達が傷の手当てと迎撃準備を指揮していた。
「ちょっと出てくる」
驚いた小頭達を無視して、フツシは扉を開けた。
「ムカリ、頭が偵察組頭と話しに行く。俺が垣から見ているから、このまま準備を続けてくれ」
ツギルは、ムカリの耳元で囁いた。
フツシは丸腰のまま真っ直ぐ二人の方へ歩いた。
「俺はここの頭のフツシだ。少し話がしたいが、どうかな?」
フツシは、崩れた二の垣の手前から、仲間に語りかけるように言った。
垣の向こうに緊張が走ったのが感じられた。
スハラとコマキは、顔を見合わせた。
「俺は偵察の組頭コマキ。お話とは?」
「お二人と腹を割った話がしたい。今ではない。今夜・・・できるかな?」
一瞬の沈黙の後、コマキが答えた。
「できぬ事もありませんが・・・場所と時刻は?」
「お二人の都合に合わせる」
フツシの声は穏やかだった。
「ならば、深夜、この場所で」
コマキはスハラの目を見ながら答えた。
「警備組頭の名は?」
フツシが尋ねた。
「スハラです」
スハラが名乗った。
「では深夜に。こちらはツギルという者が同席する」
言うとフツシは背を向け、何気ない足取りで三の垣に向かった。
「奴を信じられますか?何を話すつもりなのでしょう?」
立ち去る音を聞きながら、スハラがコマキに囁いた。
「さあ・・・このまま行けば、俺達は死ぬ。どうせ死ぬなら、これだけの戦を仕掛けた男
と話してみるのも悪くはないと思って受けたが・・・あの頭フツシと言ったな。丸腰で
やって来て、背中を見せて悠々と引き上げた。うちの頭にあんな真似はできない・・・
」
コマキがスハラの顔を見た。