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スサノヲ  作者: 荒人
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スガの森 十三

スガの森 十三


(かしら)、態勢を整えてすぐに攻めましょう。三十四人だったのなら、三の垣にいたのは十人です。こいつらは元気でしょうが、十五人は相当疲れているはずです。こちらには全く疲れていない者が百人以上います」

スハラが進言した。

「そうです。今すぐ総攻撃をかければ、今日中に全滅です」

コマキも進言した。

「ちょっと待て、八十一人の犠牲で倒した敵が九人だぞ。一人倒すのに九人もかけた。この調子で行けば、敵が二十五人としても、二百人以上必要だ。だが、こちらには百三十九人しかおらん。ここはじっくりと策を練り直すのが一番だ」

ミシロが大声を上げた。

「一の垣突破で犠牲者が最も多くなるのは、承知の上だったはずです。次の攻撃で一人倒すための犠牲は四人以下です。四人としても百人程度です」

スハラが反論した。

「馬鹿な、今まで計算通りに行ったことはない。例え計算通りに行ったとしても、四十人そこそこが生き残って何が出来る」

 ミシロは目を剥いてスハラを睨みつけ、ワクリを見た。

「お前達はどう思う?」

 ワクリは居並ぶ組頭(くみがしら)に向かって言った。

頭達は顔を見合わせるだけで、声を上げる者はいなかった。

「これまでに多くの部下を失いました。それは、敵が全滅覚悟できているからです。今日、正面からぶつかり、二の垣まで突破しました。敵は最後の垣に籠もっていますが、半数以上が傷だらけで疲れ切っています。ここで休む時間を与えるべきではありません。今すぐ叩き潰すべきです」

スハラは組頭達に訴えた。誰も答えず、ワクリを窺っている。

ワクリは全員を見回し、ミシロに目を転じながら言った。

「今すぐに攻撃すべきと考えているのは、スハラとコマキの二人だけのようだな・・・ではミシロが言うように策を練り直そう。それぞれ夕方までに策を考えて来い」



 遮る物の無い低地に陣取るオロチ衆と高台に籠もるフツシ達は、二百歩の距離で対峙していた。 

オロチ衆は遠射を警戒しているだけで、陣内は丸見えである。

フツシとツギルが、陣中央での集まりを見ていた。

「攻撃のための作戦会議ではないな・・・お前の言うように陣内に覇気が感じられない」

「あの攻撃で、戦況を冷静に見ながら指示していたのは、警備と偵察の組頭だけだ。あとは一兵卒に過ぎない。作戦会議でまともなことが言えるのも、あの二人だけだろう。」

「俺もそう思う。火矢攻撃を考えたのも、二人のどちらかだ。二人は、もう一度火矢を使

って、攻めようと言ってるのだろう。だがあの様子だと、頭にはその気がないようだな

「そうらしいな。俺達は、今攻められれば逃げるしかない・・・頭にはそれが分からんのか?そんな頭に、二人は最後まで従うのかな?」

「ツギル、今何と言った?」

「うん?火矢のことか?」

「そうではない、二人が、頭に最後まで従うか?と言ったな」

「ああ、言った。あいつらは本物の指揮官だ。あの二人が、判断力の無い頭にいつまでも従うとは思えない・・・フツシ、お前、何を考えている?」

 ツギルはフツシの目を覗き込んだ。

「お前が、今、思いついたことだ」

 フツシは、真っ直ぐツギルの目を見返した。 

「ツギル、やってみる価値があるとは思わないか?」

「やってみるのはいいが・・・どうやって接触する?」

 二人は、陣中央の集まりに目を凝らした。


 中央の集まりに動きが出た。

何人かが立ち上がり、部下の所へ歩き始めた。

その動きは、攻撃を伝えるものではない。

警備と偵察の組頭が、こちらに歩いて来る。

どうやら二人の組の兵士が、最前線の警備を受け持っているらしい。

二人は兵士の集団に声をかけ、盾を受け取ったが、歩みを止めない。

狙撃を気にする風もなく一の垣まで来て、足を止めた。

フツシのいる所から六十歩の距離である。

まだ燻っている垣の構造を見ながら、右の入口に向かった。

転がっている兵士の死体をまた跨ぎながら、一の垣に入った。

二人は、一人の兵士に突き刺さったままになっている槍に目を止めた。

「これは俺達の槍とは違うな」

コマキが、抜き取りながら言った。

「この短剣もだ。奴等は接近戦用に、武器にも工夫をしている」

スハラはしゃがみ込み、茂みに落ちていた短剣を拾い上げた。

「武器だけではないな・・・奴等は毛皮を身に纏っていた。あれにも工夫がしてあるにちがいない」

コマキは周辺を見回した。

しかし転がっているのは兵士だけで、敵の遺体はなかった。

「スハラ、敵の遺体がひとつもないぞ・・・」

スハラは立ち上がり、拾った短剣を手に周辺を見回しながら二の垣へ歩いた。

コマキも、抜き取った槍を持って続いた。

フツシ達と二人の距離が三十歩になったが、垣と立木で狙うことはできない。

二人にはそれが分かっているのであろう、臆することなく遺体の検分をしている。


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