スガの森 十
スガの森 十
兵士達は、連ねた盾に身を隠しながら、小岩を手渡しで運び始めた。
手前の盾の兵士の動きは見えないが、声の感じから、何人かは穴の方を向いているようだ。
フツシが指示を出した。
左右二手に分かれた襲撃班が、約五十歩の距離を走った。
「敵襲」
横並びになった二台の盾から声が上がった。
直後に盾の両側に二人ずつが飛び込み、同時に残る三人ずつが盾を引き倒した。
盾の向こうが見えた。
左右から飛び込んだ四人が、短めの槍で兵士を貫いていた。
「敵襲だ」
再度何人かの兵士が叫んだ時には、十六人の躰に矢が突き刺さっていた。
その時襲撃班は、垣のすぐ近くまで駆け戻っていた。
指揮盾から作業を指示していたコマキは、先頭の盾から何か聞こえた気がした。
目を転じた時には盾が倒されており、左右の兵士が槍で刺し貫かれていた。
盾を倒した者と槍で襲った者達が身をひるがえ翻すと同時に、矢が兵士を襲っていた。
全てが、あっという間の出来事だった。
コマキは指揮盾を穴の手前まで進め、自らは三台目盾の陰に移った。
「これを倒された盾の前に出せ」
前に出した盾の陰で倒れた二台を建て直し、兵士の脈を診た。
「死体は穴に放り込め」
そこに、後方で作業を見ていたスハラがやって来た。
「やはり先頭警備は、若い連中ではだめですね。俺の組でやります」
「そうだな。頭は俺達を側に置いておきたいようだが、穴を埋めるまでは俺達でやろう」
奇襲で騒然となった兵士達は、スハラが警備に就き、コマキが先頭で指揮を執り始めたことにより、整然と動き始めた。
落とし穴は次々と埋められ、戦垣まで十歩に迫った。
曇り空はまだ明るかったが、コマキは引き上げを命じた。
「一人も殺られないはずでしたが、二十人も殺られました。先頭で指揮を執るべきでした」
集まったくみがしら組頭を前に、コマキが言った。
「いや、お前のせいではない。若手に警備をさせればいいと言ったのは儂だ。それにしても、奴らの動きは素早いな・・・だが、明日からは奴らに痛い目を見させてやる」
ワクリは隣のミシロを見、全員を見回した。
「頭、明日の攻撃の手順はどうなっているんで?」
年嵩の組頭から声が上がった。
「コマキ、説明しろ」
ワクリがコマキを見た。
「垣の前に落とし穴がありますが、敵が通路を教えてくれました。我々もそこから攻め入ります。その前に、一の垣の中央と二の垣、三の垣がある奧に火矢を打ち込みます」
コマキは地面に図を描いて説明した。
「なるほど、火矢で混乱させて突入する訳だな」
ミシロが唸った。
「そうですが、こちらが混乱するのは困ります。そこで両側の尾根に兵士を登らせて、敵の動きを伝えさせます」
コマキがミシロを見た。
「攻撃を仕掛けてる最中に、どうやって伝えるのだ?」
ミシロがコマキを見返した。
「総攻撃ではなく、一人ずつ潰して行きます。左右の通路から入り、最初に出くわした敵集団を尾根の指示で追い詰めます。ですから、尾根との連絡役が左右に一人ずつ必要です。これは俺とスハラがやります。それと攻撃組には、常に俺達の指示を見ている者が必要です。直接見えない場所に入り込んだ場合には、間に伝令を入れます」
コマキは、組頭全員を見ながら説明した。
「現在のこちらの手勢は、二百二十人です。狭い場所での戦闘に都合がいいように、十人体制二二組に再編成した方がいいと思うのですが」
コマキはワクリに向かって言った。
「儂も編成替えが必要だと考えていた。偵察と警備は、十四人体制にする。攻撃組は十人体制の十九組とし、ミシロが総指揮を執る。尾根には偵察組の者を登らせろ。それに、攻撃組の連絡役も偵察組から二人出せ。明日の攻撃は四組、その支援に八組、残りの七組と警備組は後方待機だ。細かいことは各組で話し合え」
ワクリが断を下した。