スガの森 九
スガの森 九
雨は明け方にやんだが、空は雲で覆われており、冬が近いことを感じさせた。
オロチ衆の大盾は、引き返した所まで一気に前進し、そこからは慎重な足取りとなった。
前日、落とし穴はひとつもなかった。
「そろそろ最初の落とし穴だ」
大盾の動きを見ていたアスキが、隣のオモリの肩をつっついた。
「どうやって埋めるのかな?」
オモリがアスキを見た。
「穴があるぞ」
中央の大盾の隙間から地面に長い棒を突き刺していた兵士が叫んだ。
全体の前進が止まった。
「ここにもあったぞ」
その左側の盾からも声が上がった。
「盾をずらして幅と奥行きを確認しろ。分からなければ小岩を放り込め」
指揮盾からコマキの声が飛んだ。
盾から小岩が二個飛び出した。落とし穴の上に落ち、覆いが陥没した。
左からも小岩が飛び出した。
一台の盾が右の穴を迂回して前で止まった。
左の穴との距離が盾の幅より短いため、他の盾は右の穴の右側に後退を始めた。
やがて穴の右側に一台を置き、少しずつ重なりをつけながら、九台の盾が斜めに並んだ。
「なるほど・・・あれでこちらの攻撃を防ぎ、後から土砂を運んで埋めるのか」
アスキとオモリが顔を見合わせた。
「穴を右横から埋めるつもりだな。穴の横の盾を前に出されればだめだが、穴ぎりぎりに置いてくれれば、前の盾は孤立する・・・うしろに何人いるのかな?」
ツギルがフツシを見た。
「十人までだろう・・・孤立すれば、あれを襲うか?」
フツシが見返した。
「孤立させてくれれば、襲える」
ツギルは言いながら、盾の動きを追っている。
動きが止まった。先頭の一台が孤立している。
ツギルとフツシが顔を見合わせた時、指揮盾から声が飛んだ。
「先頭はもう少し左に寄れ、二番目、前進して先頭と並べ。残りも空いただけ前進しろ」
全体が動き出した。
三台目は、穴から、かろうじて人が通れる程度の間隔を空けた横に置かれた。
埋め戻し作業が始まった。
「二十人・・・やるか?」
フツシがツギルに囁いた。
「十人出そう」
ツギルは答えると、襲撃班を率いて出口に向かった。
フツシは射手を集めた