スガの森 八
スガの森 八
「垣の中に何人いようが、接近戦に持ち込まねばならん。それには、落とし穴を埋めて垣を越えねばならん・・・何か策はないか?」
ワクリは、出来上がった陣の中央に集まった組頭達を見回した。
「矢を防ぎ、落とし穴も回避せねばならん。防御を乱すことなく前進する策が必要だな」
ミシロがしたり顔で言った。
「頭、身長より高く、十人くらいが身を隠せて、移動できる盾を造りましょう」
スハラが提案した。
「そのような物が造れるか?」
ワクリが身を乗り出した。
「造ります。盾を少しずつ前進させ、落とし穴を見つけたら埋めるのです。時間がかかりますが、敵の垣まで無傷でたどり着けます」
スハラの声は自信に満ちている。
「よかろう、すぐに取りかかれ」
前線警備以外の者達全てが、大盾造りに動員された。
斜面の伐採は、材料集めにもなる。
日が暮れる前に五台が完成した。
「あと五台もあれば充分でしょう。明日の午前中には揃います」
状況を見に来たワクリとミシロに、出来具合を確認していたスハラが語りかけた。
「では午後から前進だな」
ミシロが満足そうに頷いた。
「これを使って、どのように攻めるかは考えているのか?」
ワクリが尋ねた。
「まずは穴の埋め戻しです。地面の色具合では、垣のすぐ前と少し離れた所に交互にあるようです。離れた所にも無いとはいえませんので、慎重に進みます。その間に様子が分かることもあるでしょう。攻撃の策は、埋め戻し作業が終わってから練りましょう」
確認作業を手伝っていたコマキが言った。
翌日の午後、冷たい雨の中を大盾が前進を始めた。
「俺が考えていたよりは随分大きなものを作ったな、うしろに十人はいるぞ。小振りの一台は、指揮用か」
ツギルが感心したように言った。
「そのようだな、なかなかやるな・・・十台ということは百人か。百人で落とし穴を埋め戻す気だな。だが、あの進み具合では・・・今日は真ん中までで引き返すつもりかな」
フツシが言った。
「仕切っているのは、偵察組頭だろうな。多分、今日は真ん中で引き返す。明日は一日かけて、垣の前までを埋め戻すつもりだな。明後日は、総攻撃を仕掛けて来る・・・その前にこちらから仕掛けて、少しでも敵を減らしておかないとな」
ツギルはフツシに決断を求めるように言った。