スガの森 四
スガの森 四
「宵の口に何かを感じたのは、敵の本体が来ていたからです。この陣を見ていたのです。
敵の頭はたいした奴ですね。警備を見て、奇襲ができるとふんだのです」
スハラが悔しそうに言った。
「本体が遠くにいたのは確かだろう。物見が殺られたから帰って来たのだ。それで、頭が自分の目でこちらの状況を見ようと思ったのだろう。お前が俺を呼んだ時に、奴はいたんだ。だが、見ているだけだった。だから気が感じ取れなかった。引き返してから攻撃を決定し、準備して、ここまで来て、仕掛けた」
コマキは深く考えながら言った。
「待ってください・・・二人で気配を探ってから襲撃まで五時間程度です。あの攻撃の準備にどのくらいかかるでしょうか?」
スハラがコマキを見た。
「すぐだな・・・奴らの動きからすれば一時間かかることはない」
コマキがスハラを見返した。
「すると、ここから二時間の場所に、奴らの陣があることになりますね」
スハラはワクリを見た。
「いや、もっと近いだろうな・・・急に決めた攻撃にしては、手際がいい。三十本の矢で三十人を射ち、狙いにくくなってからは、一本も射ってない。綿密な打ち合わせをしたはずだ。打ち合わせに一時間はかけている。それに、攻撃前に持ち場を決め、足場も充分に固めたたはずだ。そう考えれば、往復にかけた時間は二時間程度だ。つまり奴らの陣は、一時間の距離になる」
コマキは断言した。
「すると、この調子で進めば四日の距離だな」
ワクリがコマキに確認した。
「頭、明日の進行はやめましょう。それより斜面の伐採地を広げましょう。その代わり、偵察を倍、いや三倍に増やし、一時間の距離まで行ってみます」
コマキが進言した。
「奇襲は大丈夫か?」
ワクリが案じた。
「こちらの動きは筒抜けで、待ち伏せの可能性もあります。しかし行かなくては何も分かりません。どれだけ犠牲を少なくするかです」
これを聞いたワクリは、スハラを見た。
「コマキの言う通りだと思います」
スハラが応えた。
「よかろう。ところで奴らの作戦を、どう読む?」
ワクリはコマキに目を転じた。
「弓で迎え撃つ陣を構えています。中からの狙い射ちで、こちらの戦力を減らすことを考えているはずです。接近戦も相当訓練を積んでいます。戦闘力は、敵一人に対して三人必要と考えておいた方がいいでしょう。接近戦に備え、兵士百人の温存が必要です。ですから、陣攻めの犠牲は百五十人以内に押さえなければなりません」
「百五十人以内?たかが三十四人の陣を攻めるのにそこまで考えるのか?」
ワクリが目を剥いた。
「頭、奇襲とは言え、これまでの犠牲は四百人近いものです。その間、敵はわずかに三人。多勢に無勢を承知で挑んできたのは、奴らなりの勝算あってのことです。物見以外が奧に籠もっていたのは、陣造りのためと考えねばなりません。明日には確認できるでしょうが、策を練った造りになっているはずです。奴らはそこで、全滅か生き残るかを賭けているのです。陣にはシオツの連中も籠もっているでしょう。女子供も合わせて六十人とすれば、半数は戦の手助けにはなります。つまり陣内の防ぎ手は七十人近いと考えてかからねばなりません。百五十人の犠牲は少ないくらいです」
コマキは静かに説明した。
「頭、まず敵陣を発見し、こちらもそれに合わせて布陣しましょう。攻撃の策は、それからじっくり考えてはどうでしょうか」
スハラが提案した。
そこへ被害状況を調べていたミシロがやって来た。
「火矢で兵士が二人怪我をしたが、戦には使える。それと女が三人怪我をして、一人は死
んだ。それを見て、女子達は殿に集まって怯えおる。何とかしてくれ」
「頭、若い連中と同じようにしましょう」
スハラが言った。
「うん?・・・帰りたい者は、帰れ。と言ってみるか」
ワクリが気の進まない返事をした。
「全員帰らせましょう。これからは動きが早くなり、年寄りや女子達は邪魔になります」
コマキが言った。
「動きが早くなる?・・・どういうことだ?」
ミシロがコマキを見、ワクリを見た。
「・・・あとで説明する。よし、女子は帰らせよう」