スガの森 三
スガの森 三
三十六本の火矢が、次々と飛び込んだ。
静まりかえっていた陣内が波をうち、女の悲鳴が夜空に響いた。
外周で寝ていた女達が逃げようとして、内側の兵士達とぶつかり合っている。
兵士の持つ盾が女達に引っかかり、兵士の胸や背中が遠目にも見える。
それを、最初の十三本の矢は見逃さなかった。
次の十三本も、兵士を捕らえた。
「身を低くしろ、低くして盾で防げ」
あちこちから、組頭らしき声が飛び交った。
「これまでだ、後退するぞ」
フツシが命じた。
十三人は弓持ちの所に集まり、通常用の弓矢を受け取った。
役目を終えた弓持ちは、遠射用の弓矢を持って奥に消えた。
陣内では、殿の方で喧噪が続いていた。
しかし、こちら側はひっそりとしており、見えるのは盾だけだった。
「やはり・・・追っては来ないな」
ムカリが陣の方を向いたまま言った。
「よし、引き上げよう」
フツシが言った。
「うん?警戒の待ち伏せはいいのか」
ムカリが怪訝な表情でフツシを見た。
「見ろよ、まだ攻撃を警戒してる。暗い間は動かないだろう・・・だが、明るくなれば偵察の組頭が動く。物見を倍にして、不寝番をさせよう」
言うとフツシは歩き出した。
オロチ衆の陣では、ワクリがスハラとコマキを前にして肩を落としていた。
「スハラの予測が当たった。外側の鳴子から・・・儂らの弓では当たる距離ではない。この様な矢は見たことがない・・・奴らは、他にも儂らの知らん武器を持っておるかもしれんな」
ワクリは、細身の長くて鋭い鏃を付けた矢を、しげしげと見ながら言った。
スハラは宵の口に何か異様なものを感じ、コマキを呼んだ。
二人で敵が潜むと思われる辺りを検討し、気配を探ったが、感じ取ることはできなかった。
夜更にも、再度二人で気配を探りに出かけた。
やはり何もなかったが、警備兵を伴って伐採地の外側の鳴子まで点検した。
スハラは、それでも納得できず、寝支度を始めていたワクリに進言した。
「鳴子の外から火矢を仕掛け、混乱に乗じて兵士を狙うことは、不可能ではありません。警備を増やしましょう」
眠そうな目で聞いていたワクリは
「万全の警備体制ができているではないか・・・例え火矢が届いても、兵士を狙える距離ではないぞ。お前は心配し過ぎだ」
と、意に介さなかった。
スハラは、頭としての緊張感に欠けるワクリに失望を感じたが、それでもと歩哨に注意を促した。
特に谷の奧を見張る歩哨には、動きを止めないことを命じた。
敵の攻撃は、スハラが眠りに就いて間もなくだった。