スガの森 二
スガの森 二
スガに帰ったフツシは、小頭を集めた。
「あの二人、油断できんな・・・訓練していた奴はたいしたことはない。アスキ、お前、夜襲をかけようと言ってたが、あの陣を見て勝算ありと思うか?」
「うーん・・・警戒は甘いが、遠射で狙えるのは谷側の歩哨溜まり二ヶ所の四人だけだ。あとは山なりの遠射だが・・・火矢を仕掛けて混乱させ、兵士を狙うことはできるな」
アスキが答えた。
「遠射の腕を持つ者は十三人しかいないぞ。引きあげるまでに十三人が何人射てるかな?」
ムカリが弓の得意なスキタを見た。
「一本目は間違いないから十三人。その前に歩哨四人で十七人。二本目が狙えるかどうかが分からない。盾を持ってるからな・・・うまく行けば十人、そうでなければ五人かな。だから・・・二十人から三十人かな」
スキタが、状況を想像するかのように宙を見ながら答えた。
「奇襲を受けた敵は、俺達を追うか?」
フツシはツギルに問いかけた。
「追わないだろう、俺達の腕を知ってるからな。追うには灯りが必要だが、灯りを持てば的になることも知ってる・・・やる価値はあるな」
ツギルは、フツシを見据えた。
「そうだ、今夜ならやれる。俺達の足跡を見て、明日からは警戒するからな」
深夜、一番外側の鳴子に沿って、遠射の十三人が足場を整えた。
そのすぐ後ろに、火矢射ちの十二人が立っている。
火矢射ちと火矢射ちの間には、着火役がいる。
着火役は、種火の入った壷を明かりが漏れないように革で覆ってしゃがんでいる。
その数歩後ろには三人の弓持ちが、通常距離用の弓矢を束ねて背負っている。
二箇所ある谷奥側の歩哨溜まりでは、盾を抱えた歩哨が二人ずつ歩いている。
組頭から注意されたらしく、左右に歩きながらも視線は斜面と谷に向けている。
「やれるか?」
フツシが隣のスキタに尋ねた。
兵士を狙うのは最も的中率の高い四人で、スキタの指示で射つ。
この四人は、四本の矢を持っている。
他の九人は自分の判断で射つことになっているが、矢は三本ずつしか持っていない。
四人の歩哨が倒れたところで、火矢射ちが火矢を三本ずつ放つことになっている。
「四人とも、規則正しく動いている。立ち止まった時に顔に当てるつもりで射つしかないな。俺は、的が次に右で止まったら射つぞ、お前達も自分の判断で射て」
スキタは、横に並ぶ三人に言った。
スキタの弓から矢が放たれた。
矢は、向きを変えようとした歩哨の側頭部に突き刺さった。
スキタの直後に、もう一人を狙うミナカの矢が放たれていた。
この矢は、反対側で向きを変えた歩哨の、顔面から後頭部に突き抜けた。
二人とも、声も立てずに陣側に倒れた。
もう一つの歩哨溜まりの二人も、一声も発しなかった。
これを見た着火係が、獣脂を染み込ませた矢先の布に火を点け、火矢担当に手渡した。
十二本の火矢が、星だけがまたたく夜空を切り裂いた。
一本目が上昇中に二本目が放たれ、下降を始めた頃に三本目が放たれた。
着火役は、後退して弓持ちから弓矢を受け取ると、谷の奥に向かった。
火矢射ちも弓持ちの所へ後退し、矢を受け取ると後を追った。