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スサノヲ  作者: 荒人
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転進 一

転  進 一


 海岸の(ねぐら)に帰り着いた時には、陽は傾いていた。

誰一人欠けることなく渡海したが、目指す所に来て五人を失った。

・・・死んだ訳ではない、こちらの持って行き方次第で、取り返せる。

フツは自身に言い聞かせた。


 フツはカナテに、鍛冶用の炉の設置場所を選定するよう指示した。

海風が、自然のふいごとなる場所でなければならない。

カナテは風向きによって使い分けられるよう、三カ所を決めてきた。

海岸に帰った十人は、五人を取り戻すには何よりもまず実績作りだと、仕事に励んだ。

出来上がった道具類は、ある程度量がまとまると運ばれて行く。

運搬は全て見回り組の男達の仕事だ。


 日が経つにつれて、男達と顔馴染みとなった。

分からないながらも、言葉も交わすようになった。

冬が来る頃には、片言ながら土地の言葉で話せるようになった。

見回り組の男達から、大頭(おかしら)の名がオロチだと教えられた。

更に大砦の東西南に、兵士(かしら)と鉄衆(かしら)が置かれている事を聞き出した。

彼らの名前は、兵士(かしら)がグルカ、メキト、ダキル、鉄衆(かしら)がキルゲ、トルチ、オンゴル。

大砦には、コムスという食糧(かしら)が置かれている事も分かった。


 海からの風と雪が厳しい冬も(ねぐら)の補強でしのぎ、一年が経った。

この頃には、日常会話には殆ど不自由しなくなり、土地の民とオロチ衆の関係が、どのようなものであるかも分かってきた。

鉄衆(かしら)は、五カ所程度に分散した鉄衆を統轄しており、兵士(かしら)が、五十人程度の兵士を従えていることも分かった。

更に、この地で青銅が造られていないことも分かった。


 この地に辿り着いた一年前の日とよく似た昼下がり、フツは全員を集めて切り出した。

『そろそろ儂らの作った道具が全体に行き渡った頃だ。他の物を作れと命じるのか、儂らをあちこちの山に分散させるのか・・・いずれであれ、何か言ってくるだろう』

 うつむいて考え込んでいたホキシが言った。

(かしら)、奴らは儂らを警戒しておる。分散させるのではないか』

 これを聞いてカナテが言った。

『ならば青銅の話を持ちかけよう。青銅造りにはキヌイ達が欠かせない。これなら全員が集まれる』

 他の者達も同意の声を上げた。


『折り入っての話とは、何かな?』

 メキトは興味なさそうに尋ねた。

(かしら)、儂らはこの地に鉄が出ると聞いてきました。事実ありました・・・が割り当ててもらう山がない』

『そうだが・・・』

『実は儂らは、青銅も造れます』

『青銅?・・・この地に青銅が造れる石があるのか?』

『青銅を造るには、銅と(すず)と鉛が必要ですが、その全てが同じ場所にあります』

『どこにだ?』

『狼煙の岬の付け根は湾になっておりますな。その奥の山です』

『道具を造っているとばかり思っておったが、歩き回っておったのか』

『そうではありません。大頭(おかしら)からの連絡を待っておる時、食糧が無くなって調達に出かけました。その折りに金掘り{小頭こがしらが見つけましてな。儂らは辰韓で、青銅造りの衆と組んで仕事をすることもありました。その時に石の見分け方、たたらの造り方、石の配分を学んでおります』

『なぜその話を今まで伏せていたのだ』

『あの地より適した場所で造っていると思っておりました。しかし、その気配がないようですからな・・・で、話に来ました。漢では銅が出る場所が少なく、貴重品だということは御存知でありましょう』

『確かに銅は貴重品・・・儂らの爺さんは、青銅造りを知らなんだ。だから儂らも知らぬ。それに、これまでここには、青銅造りの者が流れ着いたこともない』

『青銅造りのため、あの地を儂らに割り当ててはもらうことはできませぬか?』

『・・・大頭(おかしら)に相談する。話はこれだけだな』

『青銅造りには、うちの金掘り小頭(こがしら)達が必要です』



 青銅造りは順調で、大頭(おかしら)達に富を提供し、フツ達も足場を確固たるものとした。

一個しかなかった入り江の高台の(ねぐら)は、十五個に増えていた。

最初に嫁を取ったのはフツだった。

青銅器を造る集団の(かしら)であるという地位を見込まれ、この地の民から提案されたのである。

その民とは、一番櫓の男ウヒコであった。

ウヒコは、海の向こうの民が富をもたらしてくれることを知っていた。

(かしら)、男手だけでは不自由だ、儂の娘を嫁にしろ。嫁取りの品は青銅の器」

「儂の嫁は後でよい。若い者の嫁を考えてくれ」

「何を言ってる、まず(かしら)が土地の女を嫁にせにゃ、若い者は手が出せん。若い連中の間では、気に入った娘との話が色々あるのを知らんだろう」

 青銅造りを軌道に乗せることに気を取られていたフツは、迂闊にも土地の女と所帯を持つつもりで渡った若者達に対する配慮を欠いていた。

四十歳になったフツは、十七歳のカテルを娶った。


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