谷の外 四
谷の外 四
サクサは内陸の山岳部が湖に向かって張り出した先端で、起伏は緩やかだが杉や檜の巨木が鬱蒼と茂る森である。
陽当たりのよい森の外周には灌木が密生しており、人の進入を拒否しているように見える。
森はどこから入っても、中心部まで二キロくらいであるが、森の中は陽当たりが悪いために灌木は周辺ほどには密生していない。
そのため森の中では、巨木以外に身を隠す場所はない。
フツシは、サクサを決戦の場と考え、森の中心部に拠点を作るつもりだった。
周辺から奥に至る適当な場所に戦垣を点在させ、残るオロチ衆を分散させて迎え討つ作戦を建てていた。
フツシ達は、南にある獣道を進入路としていた。
いつも通りにその獣道から入り、しばらく進んだ。
やがてフツシが垣を作ろうと考えていた場所が見えたが、そこには何もなかった。
しかし更に奥に進んだ所で、巨大な壁を目にした。
巨木を支柱として、枝を払った小径木と竹で造られた、人の倍以上の高さの壁が張り巡らしてある。
壁の外側には、先を鋭く尖らせた腕の長さほどの太い竹が、下向きに突き出ている。
壁に沿って進むが、入口がない。
突然壁の上から声がした。
「どうじゃ、この垣は・・・驚いたか?」
フツが壁の上から見下ろしている。
「この下を開けるから入って来い」
フツの下の壁が内側に開けられた。
中に入ると、壁の内側に足場が組んであり、物見兼弓の射場となっている。
十メートル米ほど内側にも、同じ造りの壁がある。
唖然としているフツシ達に、今度は内側の壁の上から声がした。
「この下を押せば内側に開く」
ホキシの声だった。
フツが足場から下りてきた。
「お前が拠点と決めた場所を中心に、八重に垣を造る。垣の間隔は十五歩とした・・・お前達の弓で絶対に外さない距離だろうと考えてな」
「この高さの垣を八重も造ったのですか?」
「これから造るのだ。一番外側もまだ完成しておらぬ」
「でも内側にも出来ているではありませんか」
「どういう感じになるか、この辺りだけ造ってみただけじゃ。これだけの物がそんなに簡単に造れる訳はないだろう。ヤツミの話では、オロチ衆がここに攻め寄せるまでに二十日以上の日数があるとのことだが、一日も早く完成させようと思って突貫作業じゃ」
「何日くらいで出来ますか?」
「今の手数できちんとした物を造ろうと思えば、六十日はかかるだろう。人数は七十ほどだが、男手は十五しかないからな。お前達の手が入れば、二十日程度かな」
これを聞いて、フツシはツギルに声をかけた。
「奴らが落とし穴に気づくのが今日を入れて三日後。何人落ちるか分からんが、そこからはもっと慎重になるはずだ。そうなるとスガに来るのに三十日はかかるだろうな」
ツギルは間髪を入れずに答えた。
「物見と連絡役の六人は外さなければならないが、三十人はここを手伝える。すぐに取りかかろう」