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スサノヲ  作者: 荒人
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谷の外 三

谷の外 三


 夜半前に大砦の前を通り過ぎたミシロ達は、深夜二時前にグルカ砦に着いた。

兵士を休ませ、ミシロと五人の組頭(くみがしら)はワクリの小屋に向かった。

到着の知らせを受けた十三人の組頭も集まって来た。

「こちらの動きを読んでおったか・・・シオツが独自に動いたのではなかろう。谷から知らせを出したに違いない。なかなかの切れ者がおるようだな。よかろう、明日から進撃を速めるぞ。シオツの年寄り共の始末は後回しだ」


翌朝、陽がかなり高くなってから、オロチ衆はグルカ砦を出た。

ワクリは谷の斜面からの攻撃を不能にしようと、尾根までの灌木を伐採する作戦を採った。そのために、兵士以外の者達も男女の区別無く動員した。

三人ひと組の偵察六組が、三方を盾で防御しながらゆっくりと前進する。

その後ろに、同様の防御態勢をとった三組の兵士が続く。

安全が確認できると一組が警備に当たり、二組の兵士と動員された者達が灌木を始末する。

一時間に十メートル米程度しか進めないが、オロチ衆の支配地域は着実に谷の奥へと広がる。

その日は、百メートル米も進むと日が暮れ始めた。

ワクリは、砦に戻った組頭を招集した。

「今日は一人の犠牲者も出さなかった。当分これで進むぞ」

(かしら)、このやり方は安全だが、時間がかかりすぎるのではないか」

 ミシロが不満げな表情をした。

「時間をかけるのが目的だ。十日ばかりこの調子で進むつもりだ」

 ワクリは落ち着いた声で答え、続けた。

「儂らには充分な食糧がある。だが奴らにはここから奪ったものだけだろう。事を構える前に用意していたものが十分にあったのなら、ここを襲う必要はなかったはずだ。それにシオツの連中を抱え込んだのは計算外だろうな。すぐに食い物が足りなくなる。儂らと戦いながら、どうやって調達する?」

「森や野辺の連中から借りるか、奪うという手があるではないか」

 ミシロがしたり顔で答えた。

「返ってくるかどうか分からんものを貸す奴はおらんだろう。奪う事は出来るだろうが、あれだけの人数の中から、奪いに行く手勢を割けるか?小人数で行けば、追い返されるか、殺られるだけだ」

ワクリが鼻で笑った。

「なるほど・・・じわじわと追い詰める訳だ」

 ミシロが納得した表情で組頭達を見回した。

「山を越えて、湖の東に逃げ去る事は考えられませんか?」

 若い組頭スハラがワクリを見た。

「これから冬だ・・・食い物も持たずに東へ逃げても、飢え死にするだけだろうが」

 ワクリはスハラの顔をじっと見た。

「そうですね・・・奴らが生き残るには、俺達を倒すしかない」

スハラは独り言のように呟いた。

「そうだ。奴らは俺達を倒さなければ全滅だ・・・だから必死だぞ。油断すれば俺達が全滅の憂き目にあうということを忘れるな。兵士にそのことを徹底させておけよ。明日は日の出とともに仕事にかかるぞ」

ワクリは組頭の顔を確認しながら言った。


 同じ時刻、スガのいくさがき戦垣の中でフツシが物見から報告を受けていた。

「斜面の灌木全てを切り払っているのか。奇襲が余程こたえたと見えるな」

 フツシがツギルに言った。

「兵士以外の人数はどの位だった?」

 ツギルが物見に尋ねた。

「七百人以上はいたと思う」

 物見が答えた。

「七百人・・・ということは、三つの兵士砦の者達全員を動員したな。子供はいたか?」

 アスキが物見の顔を見た。

「いなかったな。そう言えば婆さんの姿もなかった」

「そうか、足手まといになる者は大砦に残し、動ける者全員をグルカ砦に集めたのだ」

 ツギルが言い添えた。

「総動員で来たか・・・一日百メートル米、灌木が少なくなれば四百メートル米進むとしても、ここまで来るのに二十日はかかる。俺達に柵を作る時間を与えるとは、あいつらは一体何を考えているのだ」

フツシは小頭(こがしら)を見回した。

「食糧だよ。時間をかければ俺達の食糧が尽きると考えたのだ・・・シオツが俺達と合流したと読んだんだ。グルカ砦の食糧を襲ったから、俺達の食糧は襲って手に入れただけだと考えたんだ。馬鹿ではないが、読みが浅いな」

ツギルが歯を見せた。

「そうか・・・いやそう思うのが普通だぞ。二年もかけて準備したと読む奴はいないだろう。ツギルが半年分以上用意しようと言った時は、用心が過ぎると思ったけどな。シオツとの合流は計算外だったけど、奪った食糧と合わせれば半年以上もつよな」

アスキがフツシを見、他のこがしら小頭を見回した。

「充分もつ。どう思っていようが、敵は俺達に時間を与えた。ならばこの時間を活用させてもらおう」

 言いながら、フツシは地面に何かを描き始めた。

「奴らは木の上や茂みばかりを警戒している。三人組の偵察六組が先導しているのだな」 フツシは物見に確認した。

物見が頷いた。

「二度の失敗に懲りて、周りへの警戒には隙がなさそうだ。そうだな」

 再度フツシは物見に確認した。

 物見は頷いた。

「奴らの盲点は足下(あしもと)だ、腰から上ばかりを警戒している。これは穴だ。地面に穴を掘り、その底に竹槍を立てておく。穴の上は竹や小枝で覆い、薄く土をかける。一人くらい乗っても落ちないが、三人が乗れば落ちる程度の強度にしておく」

 フツシは絵の説明をした。

「これは・・・相当大きな穴を掘らなきゃならんが、面白いな」

 アスキが嬉しそうな顔をした。

フツシ達は、オロチ衆の五日行程先の、偵察隊が通りそうな場所に穴を掘った。

木の根や石があって掘りにくかったが、鍛冶の道具が威力を発揮した。

二日かけて、三歩四方で、深さも同じくらいの落とし穴を十五個ばかり作った。

三日目の朝、フツシは小頭達に告げた。

「奴らが落とし穴地帯に来るには、今日を入れて三日ある。ここの戦垣(いくさがき)はこれで十分だろう、サクサの様子を見に行こう」

 スガからサクサまでは二時間の距離だが、サクサでの戦垣造りはシオツ組に任せていた。


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