接見 四
接 見 四
二日後通詞が来た。
入り江に沿って歩き、山裾を巡る所までは同じ行程だった。
しかし渡河はせず、そのまま河を右手に見ながら進んだ。
二日前、渡河をした場所から一時間ほど歩いた所で、河に東から川が合流していた。
この川には橋が架けられていた。通詞は橋を渡り、相変わらず河を右に見ながら進む。
三十分ほど歩くと、左の高台に二日前に連れて行かれた所と同規模の砦が現れた。
通詞は振り仰ぎ、その砦に目を転じたがすぐに前を向き、歩き続けた。
間もなく河は二つに分かれていた。
双方とも同じような河幅で、水量も豊かだった。
やがて左に、見るものを威圧する大きな砦が現れた。
二日前に見た砦の数倍はある。
三層になった二棟の櫓が門を形成しており、そこには武器を携えた兵士が見える。
門を入ると、高床式の建物が点在する。
中心に、ひときわ高く大きな建物があった。
入り口に至る階段の左右には、警護の兵士が立っている。
通詞はその兵士に耳打ちした。
兵士は階段を上がり、入り口の外から中へ声をかけた。
現れたのは二日前の頭だった。
『大頭が話を聞きたいそうだ。フツ、おまえ一人上がってこい』
建物には窓があり、外の光が差し込んでいた。
頭に背中を押されて一歩中に入ると、三方の壁際に人の気配があった。
しかし逆光で、人数までは分からなかった。
床には獣の毛皮が敷き詰められているが、中央だけ床がむき出しになっている。
うしろから頭の声がした。
『中央に座れ、正面が大頭だ』
フツは中央に進み、その向きで床にあぐらをかいた。
「メキトから話は聞いた」
正面からフツに理解できない言葉が発せられた。
すると背後から、メキトと言われた頭が通訳した。
「メキトが伝えた通り、おまえ達に分ける山はない。しかしお前達の持って来た道具は、ここで使っている物より優れている。鍛冶をする者は何人居る?」
『儂を入れて、熟練が六人と見習いが二人』
「残りの者の内訳はどうなっている」
『金堀りが五人と炭焼きが二人』
「炭焼きが少ないな」
『鍛冶に炭焼きが出来る者が二人おり、見習いは炭焼きもやります』
「なるほど・・・命懸けで海を渡って来たそうだから、仕事を与えよう。金掘りの五人はメキトが山へ連れて行く。残りは今居る所で炭を焼き、道具を作れ。運んできた荷は返そう。鉄と食糧は供給する。これでどうだ」
『ありがとうございます。これで生きてゆくことが出来ます』
「話は終わった。帰って、仕事に取りかかれ」
仲間の所に戻されたフツは、接見の結論を伝えた。
『やはり儂らに割り当てる山は無いとのことだ。だが大頭は儂らの道具に目を付けた。それをあの海岸で作れと言った。そのために炭焼きと鍛冶は帰る。キヌイ、ヨモリ、ツモリ、ミツナ、ナモチ、お前達金堀り五人は山に入る』
『では儂ら五人は、バラバラになるのか』
キヌイが囁いた。
『それは分からん。それよりあの建物の中には大頭以外に五・六人はいたが、誰も一言も発しなかった。多分メキトの話を聞き、結論を出していたのだろう。仕事を与えたのは、儂らの様子を見るためだろう。ならば、こちらも様子を見よう。お前達は連れて行かれた所をよく観察しろ。儂らも道具造りをしながら、大頭が銅のことをいかほど知っているのか調べる。うまく行けばお前達を呼び戻せる』
建物の中では大頭を中心に、フツ達に対する評定が行われていた。
「鉄衆頭達よ、あの男をどう見た?」
大頭のオロチは、西のトルチ、南のオンゴル、東のキルゲの顔を交互に見ながら尋ねた。
トルチがのんびりした声で
「仕事は出来そうだ。儂らにとって、増産は結構なこと。上納分を多くして、山を割り当ててやればいい」
隣のオンゴルに同意を求めた
「始めから上納分を多くして割り当てるのはよい。だが、後で周辺の額を知って泣き言を聞かされるのはかなわん。散々待たせておいてから割り当ててやれば、大人しく働くと思うが・・・なキルゲ」
「儂はあいつの面が気に食わん。妙にふてぶてしい。ああいう面をしとる奴は、後で面倒を起こす。道具だけ作らせて始末した方が後々のためになる。メキトはどうだ」
キルゲはメキトに向かって言った。
「たかが十五人、どうってことはない。儂は稼ぎが増える方がよい。万一変な動きをするようなら、儂の兵士でひと捻りよ」
「ふっふっふっ、兵士頭にかかったらそういうことだな。あの男の道具を見ると、儂らが知らぬ技を持っているようだ。それが儂らの立場を危うくするようなものかもしれん。新参者には注意し、邪魔な芽は摘む。あの男が邪魔者となるかどうかは分からぬが、儂も面が気に食わん。まずは道具を作らせて様子を見るとしよう」