谷間 七
谷 間 七
兵士は、フツシ達が潜んでいた場所を正確に見つけ出し、足跡を追い始めた。
物見の二人は顔を見合わせ、足跡を残さないように注意しながら奧に退いた。
この動きを見た木の上の者が、連絡役に合図を送った。
「頭、奴らが俺達の足跡を追い始めた」
走り帰った連絡役が伝えた。
「ここまで深追いしてくるかな?」
フツシはツギルを見た。
「この様子だと、今夜も明日も雨にはならない。足跡が消える心配はないから・・・来ても、せいぜい木に登らせた場所辺りまでだろうな」
ツギルが空を見上げて言った。
「まだ陽は真ん中にも来ていない、女が案内した場所から一時間奧に俺達の拠点があると思っているのだから、そこまでの確認はするだろう」
アスキが異を唱えた。
「三十五人を殺られ、俺達の鏃を見た。それに、足跡を追い始めたということは、矢を射た者の足場を確認したということだ、つまり射手が三十六人だと知ったはずだ。それ以外の者が潜んでいれば、その足跡もあるはずだからな。察しのいい奴がいれば、俺達が三十六人だけだと気付いたかもしれないぞ。あっちはまだ八十二人いるし、補充もできる。今は深追いするより、作戦の立て直しが先だろう。じきに引き上げるさ」
ツギルは冷静に分析してみせた。
そこに新しい連絡が入った。
「物見は更に後退し、木に登った者と合流した。このあとどうすればいい?」
連絡役が指示を求めた。
「一旦谷に降りて、奥に入らせろ。それからここに合流させろ」
フツシが命じ、尋ねた。
「お前達のいるところから 敵の動きが見えるか?」
「見えない」
「では、お前達は敵が見えるところまで出ろ。見つからないように注意しろよ。もうじき奴らは引き返すはずだが、谷を出るのを確認しろ。二人じゃ足りないだろうからあと六人増やして、こまめに中継連絡を入れろ」
言いながら、フツシは連絡役の背中を叩いた。
連絡役は、六人を従えて灌木の中に消えた。
兵士達は慎重に足跡を追っていた。
足跡は斜面を斜めに下り、攻撃地点から数百米奥の谷で合流していた。
そこから奥に続く足跡は、慌ただしく逃走したことを示していた。
「逃げたと見せて、また仕掛けて来るかもしれんから、左右の斜面を警戒しろよ」
組頭が目配りをしながら声をかけている。
フツシ達の合流地点から五百米ばかり進んだ所で、ミシロがワクリに声をかけた。
「どう思う?・・・斜面を下りて合流し、奥に逃げ込んだ。もう一度斜面に潜んで奇襲をかけるつもりか?」
「今度はこちらも斜面を警戒しているから、さっきのようにはいかんことは分かっておるだろう。同じ攻撃で何人か倒せても、今度は奴らにも被害が出る。あっちの手勢は三十六人だから、被害が出ればでるほど不利になる。今日はもう仕掛けてはこんだろうな。その辺の斜面に物見を伏せている程度だろう」
ワクリが斜面を見回しながら答えた。
「本当に三十六人しかいないと思うか」
ミシロは、斜面から谷の奥に目を移しながら確認した。
「儂はそう読んだ」
その時少し前を調べていた兵士が声を上げた。
「斜面を歩いた跡があるぞ」
全体に緊張が走ったが、ワクリは平然として言った。
「斜面を登ってよく調べて見ろ、その辺の木に人が登った形跡があるはずだ」
数人の兵士が斜面に入り込んだ。
「あったぞ、二人いたようだ・・・谷の入口の方にも足跡があるぞ」
「もういい、下りてこい。ミシロ、今日は引き上げよう。作戦の立て直しだ」