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スサノヲ  作者: 荒人
67/131

谷間 六

谷  間 六


「襲撃だ。左から射ってきたぞ」

 兵士は、盾の下から声を上げた。

ややあって、後から誰かが叫ぶ声が聞こえてきた。

「身を低くして固まれ、固まって盾で防げ」


 この時フツシ達は、物見の二人を残し、奧へ移動中だった。

途中、物見を見張る者二人を、木に登らせた。

更に、木に登った者からの連絡を受ける者二人を、奧の茂みに潜ませた。

攻撃を仕掛けた斜面から三十分ばかりの尾根に、拠点のひとつがあった。

「何人殺れた?」

 フツシは、戦闘姿をした三十人を見回した。

「俺の矢は外れた。的がつまずきやがった」

 カラキが言った。

「他に外したと断言できる者はいないか?俺が見た限りでは、カラキの的以外は仕留めていた・・・ということは三十五人だな。みんなよくやった」

 フツシは、緑と赤の顔の中に白い歯を見せた

「こんな攻撃が出来るのは今日までだぞ。敵も馬鹿じゃない、襲ったらすぐ逃げるという鉄則を忘れるな。それに、逃げ遅れた者を助けようとするな。逃げ遅れた者も助けが来ると思わないで、殺されるまで戦え」

ツギルが気の緩みを戒めた。


 身を低くし、盾越しに周囲の気配を窺っていた兵士達は、すぐには動き出さなかった。

身を出せば矢を受けるのではないかとの恐怖心が、彼らを金縛りにしていた。

すると、後方から組頭(くみがしら)らしき声が飛んだ。

「いつまでびくついてるのだ。斜面に向かえ」

 この声が金縛りを解いた。

兵士達は盾で上半身を(まも)りながら、斜面を登り始めた。

「敵はもういないはずだ。奧に逃げ込んだと思うが、痕跡を見逃すなよ」

 兵士達は斜面に展開し、残った六人の組頭は、女がしゃがみ込んでいる場所に集まった。「兵士三十三人と組頭二人が殺られた。こんなに大きくて鋭い(やじり)を見るのは初め

てだ、鉄製だぞ。奴らめ、どうやって手に入れた」

 射たれた兵士から抜き取った矢を手に、さっき兵士を叱咤した組頭が言った。

「こいつはすごい鏃だ、儂らの考えが甘かったな・・・やはり奴らは、どこかのたたら場と組んでいる。どうあっても奴らを皆殺しにせにゃ、あとが面倒になるぞ」

ワクリが言った。

「飛んできた矢は全部で三十六本、同時に射って二本目を射っとらん・・・弓を使うのは三十六人だ・・・それにしてもすごい腕だな。外れたのは一本だけだ」

ミシロが矢が放たれた辺りを見回した。

「お前達が捕らわれていた場所はまだ遠いのか?」

 ワクリがようやく立ち上がった女に尋ねた。

「あの岩の左を少し登った所です」

 女は小刻みに体を震わせながら指さした。


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