谷間 三
谷 間 三
日暮れになっても討伐班が帰ってこないグルカ砦には、沈鬱な空気が漂っていた。
「なんで、誰も帰ってこないのだ・・・九十三人もの兵士が全滅したのか?」
八人の組頭を見回しながら、ミシロは苛立っていた。
「本当に全滅したのか?敵は何人だ?」
一番若い組頭が言った。
「一人も帰ってこないということは、全滅か、捕らえられたか。他に何がある」
ミシロが怒鳴った。
「その様なことを言い合っていても仕方ない。これからどう戦うかを考えよう」
ワクリが言い、続けた。
「敵の人数は?分からん。武器は?分からん。戦法は?分からん。これじゃあどうしようもない。まず人数だが、シオツの若造共がどの位いたのか、うちの若い連中の中には知っとる者がいるかもしれんぞ。誰か聞いて来い。武器は・・・あの傷跡を見ると槍のようだが、他に傷が無いところから考えるとやいば刃を交えたという訳ではなさそうだ。考えられるのは矢だが・・・躰を貫くようなやじり鏃があるのか?武器が分からなければ戦法の建てようがない」
そこへ若者に聞きに行った組頭が、フツシ達と交流があったという三人を連れて帰ってきた。
「こいつらの話によると、山で仕事をしているのは三十人か四十人らしい。爺達は十五人ばかりだったから、一緒になっていても五十人そこそこだぞ」
「若造達は何歳位だ?」
ワクリが若者に尋ねた。
「一番年上のフツシが二十歳で、一番年下がイトの十四歳です」
「なに・・・二十歳は何人だ」
「一人です」
「それ以下はどうなってる?」
「よく分からないけど・・・十九と十八が、十人もいたかな」
「すると・・・使える人数が十人ちょっとで、あとはガキばかりではないか。爺達がいても役には立たん・・・こんな奴らが戦を仕掛けるとしたら・・・やはり弓だな」
ワクリは腕組みをして考え込んだ。
「そうだ、弓だ。おそらく爺達が海の向こうの新しい鏃を知っていたのだろう。しかし何で造った?鉄は無いはずだ・・・青銅か?それならあいつらで造れる。そうか、弓で奇襲をかけたな。砦に帰る道も、砦も、弓の奇襲にやられたのだろう。全く警戒してなかったはずだからな・・・討伐班も弓の奇襲にやられたんだろう。それなら納得できる」
ミシロがワクリに向かって言った。
「うん、それしか考えられんな。敵は多くて五十人、しかも大半がガキだ。武器は弓で、戦法は奇襲。これだけ分かれば、それなりの備えができる」
ワクリの表情が明るくなった。
「そうと分かれば、盾を用意して奇襲を警戒せねばならん。砦の周りに鳴子を張ろう。奴らは弓の奇襲以外に手が無いはずだ・・・接近戦に持ち込めばひと捻りだ」
言いながらミシロは、若者と組頭達を促して武器庫へ向かった。
「そこの若いのちょっと待て」
ワクリが若者の一人を指さし声をかけた。
声をかけられた若者が、ワクリのそばに来た。
ワクリは、他の者は行けというふうに手を振った。
「その小刀はどこで手に入れた?」
ワクリは若者が腰に差している小刀を指さした。
「これですか?キルゲ砦の小頭を刺した奴が持っていたものです」
「ちょっと見せてくれ」
ワクリは小刀を手に取りしげしげと眺め、近くにあった小枝を試し切りした。
「これはハガネで出来ておるぞ。このような造りは初めて見た・・・儂らの山のものではないな」
これを聞いていた若者が言った。
「あいつらは、この辺りでは見かけない物を持っていることがありました。親父が海の向こうから持ってきたのをもらったと言っていましたよ」
ワクリは、湧き上がった疑問を捨て去った。