表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スサノヲ  作者: 荒人
63/131

谷間 二

谷  間 二


昼過ぎ、討伐班の六組九十三人が、グルカ砦を出た。

川沿いに三十分ほど進むと川幅が狭くなり、両側の山が川を飲み込むように迫っている。

討伐班はその手前の山裾で止まり、組頭が集まった。

「この谷は何度か通ったことがある。だが、その時は敵などおらなんだ。今は奴らがどこかに潜んでおる。まず偵察を出して様子を探ろう」

組頭の一人がしたり顔で言った。

しかし命ずる者がいないため、結論が出ない。

結局、(くじ)を引いて偵察組を決めることになった。

兵士九人と若者八人の、数は多いが組織としては危うい組が引き当てた。


 偵察組は、縦一列になって、狭い谷の道に分け入った。

五百(メートル)ほど進むと川幅が少し広くなり、両側の斜面も緩やかになった。

ここで組頭は、二人づつの八つの組を作った。

左右の斜面に等間隔で四組を配置し、自らは一人で谷の道を受け持つことにした。

各組が持ち場に着くと、声を掛け合いながら奥に進み始めた。


 フツシ達十八人が、入口の急斜面の茂みに展開していた。

その中の九人が、偵察の歩調に合わせて奥に消えた。

残る九人は、入口からの侵入者に備えた。

待ち伏せの十八人が、偵察兵の姿を(とら)えた。

各自攻撃対象を決め、木の上の者は、射つ態勢をとった。

充分に引きつけて射つことになっているが、判断は木の上の者がする。

茂みの者にも偵察兵の姿が見え、射程内に入った。

頭上で弦の音が聞こえ、兵士の左胸に矢が突き立った。

射たれた兵士は、声も立てずに両膝から崩れた。

これに気付いた隣の兵士が梢を見上げた時、茂みから放たれた矢が胸板を貫いた。

苦痛の声が上がったが、それは谷を渡る風に吸い込まれた。

全ては一瞬の出来事だった。


 後をつけていた入口組は引き返し、待ち伏せ組は死体を近くの窪地に隠した。

現場の痕跡を消した待ち伏せ組は、再び元の位置に潜んだ。

(かしら)、全員一矢で仕留めたぞ。今頃は死体を隠して元の配置に戻っているだろう」

 戻ってきたアスキが、フツシの耳元で囁いた。

「見ろよ、こっちの連中は暢気なものだ。偵察が全滅したとも知らず、だれ切っている」

茂みの斜め下を見ながらフツシが囁き返した。

兵士達は、座って雑談しているようだが、寝転がっている者も何人か見える。

「今襲えば、何人殺れるかな?」

 アスキがフツシの顔を見た。

「初めに十八人、次はその半分として、二十七人。ここには七十六人いるからな・・・」

 フツシが思案顔で答えた。

「二十七人か・・・残りは四十九人。待ち伏せ組も攻撃に加えれば、二矢で五十四人は殺れる。取り逃がすのが二十二人・・・三矢目で何人殺れるか・・・どうする?」

 アスキが判断を求めた。

「仕掛けるかどうかは後にして、みんなをすぐに集めろ」

 周りに集まった小頭(こがしら)達に、フツシが問いかけた。

「三矢目を全部外しても、あと五十四人殺れる。それだけを殺って矢攻めを知られるか。それともここは引くべきか・・・みんなどう 考える?」

「俺は攻撃すべきと考える。早くしないと動き出すぞ、もう偵察隊が帰ってもいい頃だからな」

ツギルが珍しく強い口調で言った。

「よし、攻めよう、しかし弓だけだ。組頭(くみがしら)は絶対仕留めろよ、それに谷から出て追いかけるなよ。もし反撃してきたら、奥に逃げ込む」


散開する兵士達から少し離れた所に五人の組頭が集まっていた。

「あいつらどこまで入ったんだ?・・・もう帰って来てもよさそうなものだが」

 言いながら谷に躰を向けた組頭の目に、何かが飛んでくるのが見えた。

「矢だ」

 言おうとした時、胸を貫かれていた。

残る四人の組頭は、矢を見ることもなく倒れた。

兵士達も同じだった。隣の兵士が倒れたのに気付いた時には、自分も苦痛を感じていた。一矢で三十六人が倒れた。

第二矢も外さなかった。

これで更に三十六人が倒れた。

三矢の対象となった四人は、走り出していた。

数歩走った所で、四人とも何本もの矢を受けた。

異形の集団が谷から走り出て、突き刺さった矢の回収を始めた。

「息のある者は止めを刺せ。死体は・・・どうするかな」

 息絶えた兵士達の中に立ち、フツシはツギルを見た。

「こいつらもあの窪地に隠そう・・・思った通りになった」

 ツギルは、あちこちに転がる七十六の(むくろ)を見回しながら呟いた。

「思った通りとは?」

 フツシが尋ねた。

かしらは二矢目で仕留められる数を、半数と考えただろう。頭の立場ならそれが当然だ。しかし俺は、至近距離からの不意討ちだから、三矢まで射止められると思った。みんなの腕を知っているからね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ