兵士砦 二
兵士砦 二
翌朝、澄み切った秋の日射しは、砦の片隅に集められた死体にも降り注いでいた。
しかし、注意を払う者はいなかった。
引き取りを邪魔だてする者はいないが、寄りつく家族もいなかった。
陽がかなり高くなった頃、組頭達が集会用の建物に集まった。
ミシロが口を開いた。
「兵士砦の様子を見に行かにゃならんな。用心のため三組で行くか。残りの六組で、もう一度この周辺を調べよう。ところであの死体はどうする?家族も始末を厭がっとるようだ」
「置いておけば目障りだ、砦の外に穴を掘って埋めてしまおう」
誰かが言うと、即座に周りから同調の声が上がった。
組頭達はくじ引きで担当を決め、三組ずつの九組が、重い足取りで兵士砦に向かった。
彼らが兵士砦で見たのは、やはり心の蔵を貫かれた死体だった。
不思議なことにどの砦でも、兵士小屋の外の一人だけが、肩に傷を負っていた。
砦の女子供に聞いても、不寝番から呼び出されて出かけたこと以外、何も分からなかった。
グルカ砦からの情報は、他の二つの砦とは違っていた。
食糧小屋が襲われるところを見た者が何人かいた。
見た者達は、襲撃者達は食糧を担いで谷に向かったと言った。
しかし人数に関しては、二十人と言う者もいれば、百人と言う者もいてはっきりしない。
グルカ砦の住民は、調査隊に警備を要請した。
しかし調査隊の組頭達は、その要請を無視して引き返して来た。
「本体は留まって、連絡役だけ帰せばよかったではないか」
ワクリがいら苛ついた声を上げた。
「何を言う、敵の人数も武器も分からん状態で、儂ら五十人足らずに何が出来る。万一夜襲でも受ければ、こちらの手勢が減るだけではないか。奴らが谷に逃げ込んだのは間違いないのだから、全組がグルカ砦に集まり、砦を拠点として戦うのが一番だ」
グルカ砦から帰った組頭の一人が気色ばんだ声を上げた。
「確かにその通りだ。事の始まりはシオツの若造共の襲撃だ。これを片付けないことには何もできん。全組でグルカ砦に向かおう。先々の事を考えると、奴らを根絶やしにしておかねばならん」
ミシロが分けて入った。
翌早朝、全組二百二十七人は、持てるだけの武器を携えてグルカ砦に向かった。
一時間も歩くと砦の櫓が見えて来る。
しかしこの日兵士達が目にしたのは櫓ではなく、立ち上る数本の煙だった。
兵士達の間に、怒りではなく、見えない敵に対する怯えの動揺が走った。
先頭を進むワクリが言った。
「偵察を出そう、あとの者はここで待機だ。組頭を集めろ」
先頭が立ち止まったため進めなくなった後続集団から、組頭達が駆けつけた。
「夜襲をかけたな」
誰かが言った。
「偵察を出したから、おっつけ様子が分かる」
砦に目を向けたままワクリが答えた。
ほどなく偵察が帰って来た。
「襲われたのは夜明け前で、食糧を奪ったあと、三つの食糧倉庫と、櫓と、入口の兵士小屋に火をかけ、騒ぎで出てきた娘を谷に連れ込んだと言っています」
「何人だ?」
「三人です」
「死人は?」
「おりません」
組頭達は、砦で今後の策を練ることにした。
しかし、食料を持参していないことに気付いた。
そこで、五つの組が大砦に引き返して食糧を運び、残る十の組が砦に入った。
普段五組しかいない兵士が十組も入ったのであるから、砦の中に活気が蘇った。
早速組頭達が集まり、砦の守備と討伐の打ち合わせが始まった。
これにより、十五の組を三組ずつ五班に分けた。
三つの班の九組を、昼夜三交代の守備に当て、残る二班の六組が、討伐に向かうこととした。