接見 三
接 見 三
四日目の朝陽が登り始める頃、通詞が現れた。
『頭が会います。皆さんついて来て下さい』
通詞は西でも南でもなく、フツ達が上陸した崖の方向、つまり東に歩き出した。
上陸地点を越え、更に東に進むと下り坂となり、こちらにも入江が現れた。
この入江は崖ではなく、水際から広い砂浜となっている。
砂浜は草原となり、林に入り込む。
そこには人の踏み分けた道が付いており、次第に登り坂となりながら山間に入る。
歩き始めてから一時間ほどで山を抜けた。
そこからは緩やかに下る草原が続くばかりで遮るものはない。
更に半時間ばかり進むと、集落が見えた。
・・・あれがホキシの言ってた集落だろう。確かに大頭が棲むような建物はない。
通詞は集落を抜けて西の入江へ向かい、右に海を見ながら砂浜を進んで行く。
左には、湿地状の草原が広がっている。
一時間ほどで右側が河口となり、左は密生する木に覆われた小山の連なりとなった。
通詞は、その山裾に沿って南東へ進む。
右手に河が光っている。
ここまでずっと無言で先導してきた通詞が声を発した。
『この先で河を渡ります。流れはゆるやかですが、所々深みがあります』
『まだ先は長いのか』
フツも口を利いた
『あと一時間ちょっとです』
頭が棲む所は、河を渡ってから山を三つと川を一本越えた所の、谷間の高台に造られた砦だった。
その男には、フツ達と同じ民の血が流れていることが見て取れた。
言葉も堪能だった。
フツの目を見据え、やや甲高いが力のある声で尋ねた。
『この地に、鉄砂と鉄炭が豊富だと聞いてきたとか・・・それは辰韓でか?』
『いかにも』
フツは視線をそらさず答えた。
『儂らの爺さんは、百年前に漢の地で同様の噂を聞き、辰韓を経て海を渡ったと聞いている。彼の地からここへ来るより、この地からあちらへ行くことは数倍困難だ。親父や儂らがここを差配するようになって以来、この地から彼の地へ行ったものはいないはず。ということは、百年前の漢での噂が、今も辰韓で伝えられているのか』
『漢でも辰韓でも、鉄の需要は高まるばかり。儂らの爺さんは、西北の方角から、高句麗の民の土地に至ったと聞いております。親父は南下し、辰韓で仕事をしておりました。しかし儂らの代になってからは、鉄炭に適した木は減り、鉄砂の出の良い土地も少なくなりました。この地の話は、親父から聞いておりました。儂ら陸の民にとって、海は未知で恐ろしい場所。それを渡るには、必死の覚悟が必要でありました』
『辰韓の地で、必死の覚悟を決めなければならない事情でもあったのかな』
『いえ、細々となら仕事を続けることはできました。しかし、子の代に知恵と技術を伝えるには充分ではありませんでした。自分達の年を考えると、海を渡れる時は今しかないと思い、決行いたしました』
『子の代に伝える知恵と技術?それほどのものを持っているのか?』
『儂ら鉄の民は、材料を求めて放浪をするのが定め。見知らぬ土地で木を見、土を賞味し、そこが適地なら、その地で炭を焼き、鉄砂を掘り、たたらを造らねばなりません。その全てを言葉と体で教えなければならないのはご承知のはず。辰韓の地でそれをすることはできなくなっておりました』
『上陸後あちこち探索していたようだが・・・この地でそれができると見たか?』
『食糧を求めて歩き回りましたが、鉄炭に適した木が豊富なことに驚いております。海岸近くには、鉄砂は見当たらぬようでした』
『ふむ・・・はっきりさせておこう。確かにこの地には鉄砂がある、山の中にな・・・。しかし、山には線引きがしてあり、充分に人手を揃えた鉄衆が割拠しておる。おまえ達に割り当てる山は無い』
『そうは申されましてもこれだけ広い土地。手薄な場所もございましょう。下手間でも結構、この十五人が働ける場所をご配慮頂きたい』
『・・・道具と製品は見せてもらった。なかなかの物だ。それなりの腕の者が揃っているのであろう。実はな、儂は頭ではあるが大頭ではない。全てを決めるのは大頭だ。連絡するまであの地で待て』