大砦 四
大 砦 四
大砦の兵士達の動きは、静かだった。
組頭が集まって相談が始まった時、広場の兵士の姿は、幾分か減っていた。
突然、コムスの建物のある方角から女の悲鳴が聞こえた。
組頭達は立ち上がり、声のする方へ走った。
今度は、オロチの館の方角からも悲鳴が上がった。
組頭達は二手に分かれ、広場の兵士に声をかけながら走った。
コムスの建物の外には、略奪物を運び出す兵士がいた。
中にも兵士の姿が見える。
駆けつけた組頭の一人が、手にした槍を、外の兵士の胸に突き刺した。
もう一人の組頭が建物に駆け込み、中にいた兵士二人を槍で貫いた。
その組頭と、中にいた他の兵士の視線がぶつかった。
兵士は無言で駆け寄り、槍を抜こうとする組頭に組み付いた。
それを見たもう一人が、腰の短剣を抜き、その組頭の胸に突き立てた。
この動きを合図にするかのように、中から三人の兵士が走り出た。
外には、三人の組頭と三十人ほどの兵士が、様子を窺っていた。
走り出た三人の兵士は、一斉に短剣を抜くと、組頭に襲いかかった。
中で組頭を倒した二人の兵士も、駆け出て加勢した。
これを見ていた外の兵士達は、互いに顔を見合わせた後、組頭に襲いかかった。
オロチの館では、押し入った兵士十数人と六人の組頭達が、館の内と外で対峙していた。
五十人弱の兵士達が、少し離れた所で遠巻きにしている。
組頭の一人が建物から離れ、部下の兵士を呼び集めた。
九人いるはずだが、六人しかいなかった。
それを見た他の組頭も、建物に背を向け立ち、集合をかけた。
兵士達はのろのろと移動を始めた。
その時、館の中から槍や短剣を手にした兵士達が、組頭の背中に突進した。
倒れた組頭の背中から槍を引き抜きながら、年嵩の兵士ミシロが怒鳴った。
「みんな聞け、強欲な頭の身内はいなくなった。中にある物を運び出せ、山分けにするぞ」
兵士達の間から、歓声が上がった。
ミシロは、コムスの建物に向かった。
そこでは既に運び出しが始まっていたが、やはり年嵩の兵士ワクリが指揮を執っていた。
「おう、こっちは三人が槍で殺られたが、四人の組頭を殺ったぞ。そちらはどうだった?」
「大人しく出て来れば咎めないなどとぬかすから、組頭も一緒になって山分けをするか?と聞いてやった」
「ほう、何と答えた?」
「それは出来ぬ、とさ」
「で、どうしたのだ?」
「突撃させようと点呼を始めたから、飛び出して六人とも殺った」
「ということは、組頭は全部殺ったわけだな」
「そうだ、・・・これからどうする?」
「お宝をみんなで分けよう」
「そうではない。この砦や鉄衆砦をどう仕切るかということだ」
「そっちの話か。兵士砦の組頭がどう出るかだな。とりあえず、ここの全員を集めよう」
「若い連中はどうする?頭 や《くみがしら》組頭のガキもいるぞ」
「逆らいそうなのがいるか?・・・ごちゃごちゃ言えば殺ればいい」
「言わなければ?」
「みんなと同じだ。今まで親父の威光でいい思いをして来たが、これからは同じ扱いだ」