大砦 二
大 砦 二
イツナミから指示を受けたアカリは、自分の席でうたた寝をするハツミの後に立った。
手にした酒の瓶を下ろそうとした時、後から腕を捕まれた。
振り返ると、寝転がっていた兵士が椀を差し出していた。
腰を折って酒を注いでやると、兵士は半分以上こぼしながら口へ流し込み、目を閉じた。アカリはそのままの姿勢で瓶を置き、懐に忍ばせている両刃で細身の小刀を手にした。
ゆっくりと立ち上がりながら、ハツミの後頭部のくぼみへ、下から上に刃を差し込んだ。
刃先が、頭骸骨の内側に触れる手応えを感じた。
小刀をくるりと回しながら抜き、酒の瓶を手にすると、イツナミの目の方向へゆっくりと立ち去った。
ハツミは大きく口を開き天を仰ぐ格好となったが、酔って寝ているとしか見えない。
イツナミが示した所では、血に染まった右腕を草の葉でふき取っているフツシがいた。
「頭、怪我をしたのか?」
「いや、返り血だ」
二人はイツナミに誘導され、ダキル砦へ向かう道へ走った。
他の五組も、それぞれ砦を脱出していた。
アスキとヤツミの二組が、まだ手を出せないでいた。
オンゴルとキルゲ、それに二人の小頭は、篝火のすぐ近くで、若者達に取り囲まれて大騒ぎをしていた。
「頭、もっと酒を持ってきましょうか」
アスキがオンゴルに声をかけた。
「おい、お前達もっと飲みたいか」
オンゴルが周りの若者に声をかけた。
「おう、まだまだ飲むぞ」
躰をふらつかせながら、何人かが声を上げた。
「酒を汲んできます」
アスキとヤツミは空になった瓶を持ち、酒置き場へ向かった。
小頭を受け持つツグヒとイクチは、若者達に小瓶の酒を注いで回っている。
「このままではまずいぞヤツミ。他の組はもう脱出したはずだ」
「うん、姿が見えんからな・・・どうする?」
「頃合いを見計らって、同時に喉を掻き切って逃げよう。若い奴らもあれだけ酔っていれば何もできないだろう」
「ツグヒとイクチにどうやって伝える?」
「目で伝えるしかない。俺が殺ったら、お前も殺れ」
二人が瓶に汲み終えたところへ、ツグヒとイクチが寄ってきた。
「もう時間がない。見られても構わないから、喉を掻き切って逃げるぞ。俺とヤツミが殺
ったら、お前等も殺れ。だからなるべく小頭の近くにいろ。その前に周りの奴らにしこたま飲ませろ」
ツグヒ達は、若者にお代わりを勧めながら注いで回った。
アスキも、オンゴル達に立て続けに酌をした。
若者達の目は虚ろになり、誰彼無く大声でわめき立てている。
オンゴルと小頭が、居眠りを始めた。
酒に強いのか、キルゲは、正体を失い始めた小頭に、何事かを懇々と説いている。
アスキがオンゴルに近づき、小刀で喉元を払った。
それを見たツグヒも動いた。
キルゲは、相変わらず小頭に身を寄せて話している。
ヤツミとイクチは、ためらった。
その時、何かを感じたキルゲが、顔を上げた。
ヤツミが、その喉元を切り裂いた。
イクチは、小頭の心の臓をえぐった。
この一部始終を、何人かの若者が見ていた。
一瞬の沈黙の後、数人の若者がふらつきながら立ち上がり、走り出した四人に大声を出しながら掴みかかった。
アスキはまつわりついた手を振りほどき、立ち往生するツグヒを引っ張り出して走った。ヤツミも何とか振りほどいて走り出したが、目の端にイクチが組み敷かれるのが見えた。少し走って首を回すと、もぎ取られた小刀で喉を切られるイクチが見えた。
同時に、ふらつきながら追いかけてくる影が目に入った。
ヤツミは全力で走った。