大砦 一
大 砦 一
この年の収穫の宴は、これまでになく盛大だった。
長達の手土産が例年になく多い上に、フツから三十瓶の酒が届けられた。
これだけの瓶を運ぶために、カラキの山の若者とシオツの男全員がかり出された。
大量の酒が届けられ、コムスの機嫌は良かった。
「コムスよ、酒瓶を据える場所を指示してくれれば、運んできた者達に配置させるぞ。用がなければ帰すが・・・」
「ついでじゃ、配置させろ。まず頭の席にひと瓶ずつ、砦の兵士の所に二瓶ずつ、大砦の兵士の所は・・・六瓶、これで十六瓶。若い衆の所へも四瓶置いて二十瓶、まだ十瓶もあるな・・・よし、十瓶はここに残しておいて、足りないところへ補充させよう。配置し終わったら、運んできた若い者を瓶のそば一人ずつ付けておけ、酒係にさせる。ここにも何人か残しておけ、酒が足りなくなったら補充させる」
持ち込む瓶の数を多くした策が図星となった。
これで大砦に入り込んだ二十四人は、だれ憚ることなく歩き回れる。
帰ってよいと言われた場合には、砦の若者に紛れて時を待ち、頃合いを見計らって持ち場に近づくことにしていた。
頭達の所には、去年残しておいた酒に今年の酒を混ぜて造った、飲み口がよく酔いの回りの早いものを置いた。
まだ日のあるうちに始まった宴は、篝火がつけられた頃から佳境に入り、あちこちで酔い潰れる者が出始めた。
頭 や小頭達は足をふらつかせながら兵士の間を歩き回り、誰がどこにいるのか分からなくなっていた。
フツシ達は、酒を入れた小瓶を抱えて受け持ちの相手に付き従い、椀が空けば酌をした。
「おい若造、こいつらにも振る舞ってやれ」
大頭は、座り込んでいる兵士の頭の上で、椀を持つ手を振り回した。
すかさずフツシは、小瓶から兵士達の椀に酒を注いで回る。
「儂にも注げ」
大頭は注がれた酒を一気に流し込み、ふらつきながら人混みの外へ向かった。
「小便をしてくる、これを持っておれ」
差し出された椀を受け取ると、フツシは、アカリと連絡役のイツナミを探した。
イツナミは打合せ通り建物の影に立っており、目でアカリの場所を示した。
その方向に目を転じると、アカリが指示を待つとの視線を返してきた。
他の連絡役達は、イツナミの動きを見ているはずである。
イツナミが動いた時が、開始の合図となっている。
フツシは、アカリとイツナミに視線を送った。
大頭は、よろよろと倉庫の方に向かっている。
高床式の倉庫の根本に、酔い潰れた兵士が二人寝転がっていた。
兵士の足につまずいた大頭が、転びそうになった。
フツシは駆け寄り、空いた手で支えた。
「うん・・・酒汲みか・・・もう一杯注げ」
大頭は、半開きの酔眼で手を伸ばした。
差し出された酒を煽ると、椀を落とし、よろよろと歩を進めた。
この辺りまで来ると、篝火の明かりは殆ど届かない。
フツシは瓶を置くと、うしろから大頭の左脇に張り付いた。
左手で胸を抱え込むと、右手で刃を横にした小刀を心の臓の裏に刺し込んだ。
瞬間、大頭の躰に痙攣が走り、押さえ込まれた左肘を上げようとした。
フツシは躰でそれを押さえながら、小刀を握った拳を左右に動かして、傷口を広げた。
血が噴き出し、拳から腕を濡らした。
フツシは小刀を抜きながら左腕を引き、大頭の躰を反転させた。
崩れ落ちる大頭の躰を柱に寄せかけ、足を伸ばした。
顔を上げると、イツナミの視線とぶつかった。
建物の裏へ回れと指示している。
フツシは瓶と椀を引き寄せて大頭のそばに置き、裏手へ回った。
イツナミは、フツシの動きを確認すると目を転じた。
フツシからは見えないが、アカリに指示を伝えているのだろう。